スペクトラムアナライザの基礎と概要 (第2回)
スペクトラムアナライザの使用上の注意
高周波測定器は取り扱いを誤ると機器を破損する危険がある。ここではスペクトラムアナライザを使用する場合の一般的な注意事項について説明する。
過入力への注意
スペクトラムアナライザの入力端子には最大入力値が示されている。この値より大きな信号を入力すると入力回路を破損する可能性がある。多くのスペクトラムアナライザの最大入力値は+30dBm(=1W)となっている。
一般にスペクトラムアナライザ単体では直流に重畳した信号を直接観測することができないので、直流成分を阻止するDCブロックを併用する。
過入力による破損を防ぐために下記に示すアクセサリがあるので、利用する環境を考慮して使うのが望ましい。
屋外で電波環境の観測をする場合はスペクトラムアナライザに測定用アンテナを取り付けて使用する。大きな出力の送信機の近くでは測定用アンテナから入力される電力の和がスペクトラムアナライザの許容値を超えてしまう可能性があるので注意が必要である。
静電気への注意
静電気が帯電した高周波ケーブルをスペクトラムアナライザに接続する前に放電しないと入力回路を破損させることがある。そのほかにも帯電した人が静電気に弱い端子に触れることによって破損させることがある。特に乾燥した冬は静電気が発生しやすいので注意が必要である。
スペクトラムアナライザなど高周波測定器を実験室や校正室で使う場合は下記に示すように静電気対策した環境を構築することが最も望ましい。
コネクタの取り扱い
高周波コネクタは規定された伝送インピーダンスを保証するために精密な構造となっている。高周波コネクタは利用する周波数によって使われる種類が異なるため、市場では多くの種類の高周波コネクタが使われている。下記には測定器などの機器で使われている主な高周波コネクタを示す。
コネクタ・タイプ | 標準規格番号など |
上限周波数 [GHz] |
トルク [N*m] |
発表年や備考 |
---|---|---|---|---|
F | IEC61169-24 Ed2.0(2009) | 3 |
0.46~0.69 保証:1.7 |
75Ω |
BNC (50Ω) |
IEC61169-8 Amend(2007) | 4 | バヨネット・ロック | 1944年 |
SMA | IEC61169-15(1979) | 18 | 0.8~1.1 | 1958年(26.5GHzまで使用可能) |
N (50Ω) |
IEC61169-16 |
グレード2:11 グレード1:18 グレード0:18 |
通常:0.7~1.1 保証:1.7 (MIL、IEC) |
1942年 75Ω:61169-16 Annex A |
IEEE Std 287-2007 Annex E | 18 | 1.3~1.7 | 1965年精密型Type-N | |
3.5mm | IEC60169-23(1991) | 34 | - | 1976年 |
IEEE Std 287-2007 Annex F | 33 |
0.9±0.1 安全:1.7 |
||
2.92mm | IEC 61169-35(2011) | 40 |
0.8~1.1 保証:1.69 |
2.92mm:1974年 K:1983年(2.92mmの再発表) |
IEEE Std 287-2007 Annex G | 40 |
0.8±0.2 安全:1.8 |
||
2.4mm | IEC61169-40(2010) | 50 |
0.8~1.1 保証:1.6 |
1986年 |
IEEE Std 287-2007 Annex H | 50 |
0.9±0.1 安全:1.6 |
||
1.85mm | IEC 61169-32(1999) | 65 |
0.8~1.1 保証:1.65 |
1986年 |
IEEE Std 287-2007 Annex I | 65 |
0.9±0.1 安全:1.6 |
||
1.0mm | IEC 61169-31(1999) | 110 | 0.7 | 1989年 |
IEEE Std 287-2007 Annex J | 110 |
0.45±0.05 安全:0.7 |
||
保証トルク:破壊や変形を生じない値(Proof torque) 安全トルク:破壊や変形を生じない安全な値(Safety torque) |
よく使われるNコネクタは手で締め付けて利用できるが、数十GHz以上の信号を扱うコネクタを使う場合は決められたトルクで締め付けるのが望ましい。締め付けトルクを確保するためには専用のトルクレンチを用いる。
高周波コネクタや高周波ケーブルアセンブリを選ぶ場合は仕様が保証されたものを選ぶ必要がある。市場では安価な高周波コネクタが販売されているが、特性が規格に準拠していないものがあるので注意が必要である。
屋外でスペクトラムアナライザを使用する場合はコネクタにほこりや砂など異物が入る危険があり、コネクタを接続する際にコネクタを変形させたり、傷をつけたりする可能性がある。またスペクトラムアナライザを持ち歩くときは器物にぶつけてコネクタを変形させる危険がある。このためスペクトラムアナライザ単体を持ち運ぶ際はコネクタにキャップを取り付けるのが望ましい。
USBスペクトラムアナライザへの電源供給
最近、各社から発売されているUSBスペクトラムアナライザは電源をノートパソコンやタブレットからUSBケーブルを介して供給する仕組みになっている。USB規格にはいくつかの種類があり、供給できる電源容量が異なる。USBスペクトラムアナライザを利用する場合はノートパソコンやタブレットの電源供給能力をあらかじめ調べておく必要がある。