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オシロスコープ・ユーザのためのプローブの使いこなし (第1回)

<連載目次>

第2回:「基本の10:1パッシブ・プローブを理解する」「要注意!1:1/10:1感度切替えプローブ」「そもそも周波数帯域はどこまで必要か」

第3回:「ちょっと待った!その接続1」「ちょっと待った!その接続2」

第4回:「アクティブ・プローブは理想に近づいたプローブ」「最近多くなった差動信号最近」

第5回:「ある面で理想に近い高電圧パッシブ・プローブ」「リーズナブルな価格の低インピーダンス・プローブ」「アクティブ・プローブは壊れやすい?」

第6回:「プローブの性能で重視すべきこと」「そもそもプローブの周波数帯域とは?」「感電覚悟のフローティング測定?」

第7回:「高電圧差動プローブにも盲点が!」「スペックは話半分?注意が必要な電流プローブ」「電気信号が伝わるには時間がかかる」


やってはいけない信号の取り出し方

回路のデバイスの端子から出力される波形を観測する場合、図1のように同軸ケーブルをダイレクトに接続することは基本的に行ってはいません。それはなぜでしょうか?このことは等価回路を考えてみると理解することができます。

図1. 同軸ケーブルを使用した一般的でない測定例

図1. 同軸ケーブルを使用した一般的でない測定例

オシロスコープの入力部を良く見てみると図2、図3のように、それぞれ「1MΩ、20pF」、「1MΩ、13pF」というような記載があります。

図2. DLM2000シリーズ デジタルオシロスコープの入力部

図2. DLM2000シリーズ デジタルオシロスコープの入力部

図3. MDO4000Cシリーズ デジタルオシロスコープの入力部

図2. DLM2000シリーズ デジタルオシロスコープの入力部


オシロスコープの入力部の等価回路を図4に示します。入力部を外から見ると「入力端子とグラウンド間に1MΩの抵抗と容量(製品により異なる)がある」ことを示しています。ここに同軸ケーブルを接続すると、同軸ケーブルの芯線とシールドの間には1mあたり約100pFの浮遊容量がありますから、同軸ケーブル先端から見ると、「1MΩの抵抗成分と100pF以上の容量」が存在することになります。これが「負荷として回路に挿入」されます。このような接続をしてしまうと、回路から忠実に信号を取り出せないことを意味しますので、同軸ケーブルをダイレクトに接続することは行なってはいけない理由です。

図4. オシロスコープの入力抵抗と入力容量

図4. オシロスコープの入力抵抗と入力容量

信号を伝えるということ

機器と機器の接続は、ケーブルによるダイレクト接続が一般的です。最近では無線で情報を伝えるケースが多くなりましたが、確実で高速な情報通信、また機器内部の通信は「電線」での接続が主流で、これは今後も変わることはないと思います。理想的な接続、それはインピーダンスが整合された接続です。身近では古くからアナログ映像機器(VTRとテレビ間)では75Ωにて、最近のHDMIでは差動100Ωにて1:1接続がなされています。整合が取れていれば信号の反射は起こらず、正確に波形伝送を行うことができますので高速シリアル信号の伝送には適しています。

図5. 50Ω同軸ケーブルでの測定器の接続

図5. 50Ω同軸ケーブルでの測定器の接続

パルスジェネレータの信号を50Ω同軸ケーブルでオシロスコープに伝送
(オシロスコープの入力インピーダンスは50Ωに設定)

図6. 50Ω同軸ケーブル接続の模式図

図6. 50Ω同軸ケーブル接続の模式図


インピーダンスの整合した接続のことを理解すると、単なる同軸ケーブルをプローブ代わりに使うことと決定的に異なることが納得できるでしょう。PCI-Expressを搭載した回路のチップ間通信やDDRメモリチップの読み込み・書き込み信号は高速信号で、オシロスコープの観測対象の典型例です。オシロスコープのプローブで信号をピックアップしますが、測定対象の回路にとってはプローブという余計なものが挿入されることになります。

プローブの入り口からみたインピーダンスが、直流でも、どんな周波数に対しても無限大であれば、プローブは回路に影響は与えませんが、実際のプローブではそのようなことは起こりません。そのため、程度の差はあっても波形は本来の形ではなく歪んで再現されてしまいます。これを「プローブの負荷効果」と呼びます。プローブの入力抵抗はできるだけ大きく、入力容量はできるだけ小さい、これがプロービングにおける理想です。プローブの負荷効果は測りたい回路によって変わります。できるだけ負荷効果を見積もって、影響を無視できるようなプローブを選択することが大切です。

図7. プロービングによる被測定信号へのの影響

図7. プロービングによる被測定信号へのの影響

【コラム】反射の概念

波形観測においてはオシロスコープの入力インピーダンスを50Ωにすることで、あたかもオシロスコープが受信部(Rx)のように動作して、波形を受け取り、表示することができます。出力と入力のインピーダンスが同じであれば反射係数ρは0になりますので反射が起こらず電圧の振幅は一定です。入力インピーダンスが出力インピーダンスよりも大きい場合、反射係数ρは1に近づいていき、同相で反射されるために電圧は増幅されます。逆に、出力インピーダンスが入力インピーダンスよりも小さい場合、反射係数ρは0に近づいていき、逆相で反射されることで電圧が減少されていきます。

高速シリアル信号のコンプライアンス・テストでは、信号検出にプローブは用いずにオシロスコープにダイレクトに信号を入力、負荷として動作しながら波形を取り込みます(図8)。

図8.インピーダンスの整合と反射

図8.インピーダンスの整合と反射

ベースバンドにおいて同時にたくさんのビットを扱うパラレルバスの伝送では、遠端が抵抗で終端されるために消費電力が過度に大きくなってしまいます。一般的に、ボード上の電子回路は電力消費の少ないCMOS ICで作られており、入力抵抗は非常に高くなっています。そのため、信号のエッジ速度が速くなると反射の影響が現れてきます。これは、信号の周波数が高くなるにつれても同様のことが言えます。

図9.CMOS回路の反射

図9.CMOS回路の反射



第2回(「基本の10:1パッシブ・プローブを理解する」他)へ続く
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