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光スペクトラムアナライザの基礎と概要 (第1回)

分光測定器の基礎

光の色やスペクトラムを測るさまざまな測定原理などについて概要を述べる。

2つの異なる光測定

光を測る目的によって測り方が異なる。人の目で見たときの光の色や明るさを測る心理物理量測定と光のエネルギー量や波長を測る物理量測定がある。光ファイバ通信では物理量測定を行うことになる。

表2. 光測定での心理物理量と物理量の違い
光の測定量 呼称 意味 波長に対する
重みづけ
主な測定項目 主な測定器
心理物理量 測光量 人の目が感じる明るさの量 目の感度分布
(標準比視感度)
光束(lm)
照度(lx)
光度(cd)
輝度(cd/m2
光度計
照度計、色彩照度計
輝度計、色彩輝度計
物理量 放射量 光の電磁的エネルギー量 ない 放射束(W)
放射照度(W/m2
放射強度(W/sr)
放射輝度(W/sr・m2
光パワーメータ
光スペクトラムアナライザ
光波長計

出典:日本電気計測器工業会ホームページ「お役立ち情報:電子式物理量計測器 光、画像」

光源の強さを測る場合、心理物理量測定では人の目の感度に合わせた波長特性を持つ照度計や輝度計が用いられる。物理量測定では波長特性が平坦な光パワーメータが使われる。照度計や輝度計は照明機器や照明環境の評価に使われ、光パワーメータは光ファイバ通信などの評価に使われる。

心理物理量で光の色を測る測定器には分光器を組み込んで正確な色の測定を行う分光照度計や分光輝度計と、複数枚の光学フィルタによって色の成分のみを測定する色彩照度計や色彩輝度計の2つの種類がある。光学フィルタを使って測定する方法では光のスペクトルの観測はできない。

図12. 色彩照度計の構造

図12. 色彩照度計の構造

出典:色彩照度計 520 05/06(横河技報 1997年 Vol.41 No.4)

【ミニ解説】波長による人の目の明るさを感じる度合い

人の目は波長によって明るさを感じる度合いが異なっている。照度計などは心理物理量で測定するため人の目の特性を規定する必要がある。国際照明委員会では人の目の感度特性を規定している。下図は明るいところでの人の目の特性を示す。

人の目の特性に合わせた光学フィルタは視感度補正フィルタという名称で販売されている。視感度補正フィルタはデジタルカメラなどにも組み込まれている。

図13. 明るい場所での人の目の感度特性

図13. 明るい場所での人の目の感度特性

プリズムと回折格子

光に含まれている波長成分を分離する方法としてプリズムと回折格子が使われている。プリズムは波長によってガラスの屈折率が異なることを利用している。回折格子は光の回折と干渉を利用している。

図14. プリズムと回折格子による分光

図14. プリズムと回折格子による分光

回折格子は等間隔に並べられた溝によって作れている。プラスチックの板に渦巻き状に等間隔の細かな溝が作られているCDやDVDに太陽光や白熱電球からの光をあてると虹色に見えるのはCDやDVDが回折格子として機能しているためである。このため学校での光の回折や干渉の実験にCDやDVDが使われることがある。

図15. CDに白熱電球を照射したときに見える虹

図15. CDに白熱電球を照射したときに見える虹

分光器であるプリズムと回折格子はそれぞれの特長がある。高い精度が要求される光スペクトラムアナライザなどの分光測定器では回折格子が分光器として使われる。

表3. プリズムと反射型回折格子の比較
プリズム 反射型回折格子
分散原理 波長による材質の屈折率が異なることを利用 等間隔の格子構造を持つ反射面での回折を利用
光利用効率 一般に効率は高い 光が高次光として分散するため低い
分散の波長依存性 紫外は大きいが,可視~近赤外は小さい ほぼ一定で大きい
分散の温度依存性 大きい(温度による屈折率変化がある) 小さい(温度による回折格子の変形のみ)
高次光 なし あり(高次光カットフィルタが必要)
迷光 少ない 多い(高次光と回折格子の表面の粗さによる散乱)
偏光 小さい 大きい

出典:島津製作所ホームページにある「UV TALK LETTER vol.3(2009)」 の表をもとに作成

【ミニ解説】回折格子で発生する迷光

回折格子に光を照射すると分光測定に必要な1次回折光以外に入射した光をそのまま反射する反射光や2次光などの高次回折光やマイナスの次数の回折光の迷光が生じる。1次回折光以外の迷光の影響を少なくするように光スペクトラムアナライザでは工夫がされる場合がある。例えば、高次光が受光センサに入力されるのを減らすために高次光カットフィルタが使われる。

図16. 回折格子で発生する高次光や反射光

図16. 回折格子で発生する高次光や反射光

光の検出素子

電子回路によって構成されている光測定器では光信号を電気信号に変換する必要がある。そのためにさまざまな原理の光検出器が使われる。

図17. 測定器に使われるさまざまな光検出器

図17. 測定器に使われるさまざまな光検出器

主に光通信の分野で使われる光スペクトラムアナライザには「波長範囲、感度、取り扱いの容易性、安価」などの理由から光検出素子としてフォトダイオードが選ばれている。非接触の放射温度計では主にサーモパイル、高感度な測定が必要な高エネルギー物理学実験装置や医療用検査機器などでは光電子増倍管が用いられるなど用途に適した光検出素子が使われている。

光スペクトラムを測るさまざまな方法

光スペクトラムを測るための方法は下記の図に示す通り、さまざまな方法があり用途に合わせて方式が選ばれる。

表4. 光スペクトルを測定するさまざまな方式
測定方法 分散分光方式 フーリエ分光方式 光ヘテロダイン分光方式
手段 モノクロメータ ポリクロメータ マイケルソン干渉計 光ヘテロダイン検波
波長確度
分散素子の回転精度に依存

光学配置の安定性に依存

基準光源の波長確度に依存

波長可変局発光の波長確度に依存
波長分解能
光路長とパス回数に依存

光路長とアレイ型受光素子のピクセル間隔に依存

干渉計の移動距離に依存

局発光の線幅に依存
近傍ダイナミックレンジ
複数回分散させることで向上
×
アナログ部のダイナミックレンジに依存
測定波長範囲
アレイ型受光素子のピクセル数に依存
×
波長可変局発光の波長可変幅に依存
測定パワー範囲
ショットノイズに依存
寿命
分散素子の回転機構に依存

可動部なし
×
基準光源の寿命に依存

出典:波長・光スペクトルおよびその幅の測定(岩崎隆志、光測定ガイドブック、オプトロニクス社)

フーリエ変換分光計

マイケルソン干渉計を用いて光源の正確な光波長を測定する際に用いる方法である。波長計として販売されている製品にはマイケルソン干渉計が組み込まれている。

干渉計からの強度信号をフーリエ変換することによって光源のスペクトルを得ることができる。幅広い波長を高い波長確度で測定できる特長を持っている。レベル感度やレベル確度は光スペクトラムアナライザのほうが高い。

図18. フーリエ変換分光計の仕組み

図18. フーリエ変換分光計の仕組み

出典:フーリエ変換分光計(FTS)(環境儀 No.69 2018年6月、国立環境研究所)

光ヘテロダイン分光計

無線通信の分野で使われるスペクトラムアナライザと同様に光の周波数差(ビート信号)を用いてスペクトルを測定する方法が光ヘテロダイン分光計である。光ヘテロダイン分光計では、既知の波長(周波数)の光(ローカル光)と測定する未知の波長(周波数)の光を合波した後に、光センサを用いて光の周波数差から得られるビート信号を電気信号に変換して光スペクトルを求めている。ローカル光の波長を変化させることによって波長掃引を行う。ローカル光となる波長可変光源の線幅程度まで波長分解能を向上させることができるが、波長を幅広く変化させることはできないので用途が限られる。光ヘテロダイン分光計のブロック図の例を下記に示す。

図19. 光ヘテロダイン方式の分光計の構造

図19. 光ヘテロダイン方式の分光計の構造

出典:Swept coherent heterodyne techniques provide high resolution(Val McOmber、2002年5月、LaserFocusWorld)ほかを参考に作成

分散分光方式の光スペクトラムアナライザ

分散分光方式の光スペクトラムアナライザは光ファイバ通信で使用する部品や装置などの測定で幅広い要求を満足できる測定器である。最近は光ファイバ通信分野以外で使われる光学部品や光源の評価にも使われるようになってきている。

分散分光方式の光スペクトラムアナライザには、回折格子を回転させて一つのセンサで受光するモノクロメータと、回折格子を固定して複数のセンサで受光する可動部のないポリクロメータがある。

図20. 分散分光方式の光スペクトラムアナライザの外観(AQ6370D、横河計測)

図20. 分散分光方式の光スペクトラムアナライザの外観(AQ6370D、横河計測)

光スペクトラムアナライザとして販売されている測定器には回折格子を組み込んだもの以外にマイケルソン干渉計や光ヘテロダイン分光計で構成されたものがあるため機種を選定するときは注意が必要である。

また、操作パネルや表示部がない分光計とPCを組み合わせて使う光スペクトラムアナライザもある。

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