LCRメータの基礎と概要 (第3回)
LCRメータ以外の測定器を使っての測定例
インピーダンス測定はLCRメータやインピーダンスアナライザといった専用測定器でなくても行える。ロックインアンプ、周波数特性分析器(FRA)、電力計などを使えばインピーダンスを測定することができる。
スピーカのインピーダンス測定
スピーカのインピーダンスは古くから測定されてきた。規格で規定されているスピーカのインピーダンス測定はI-V法であるが、スピーカに流れる電流とスピーカ両端の電圧の位相差は測定していない。
電圧と電流のレベル測定は交流電圧計もしくは広帯域のデジタルマルチメータが使われる。
スピーカ回線のインピーダンスを測定する専用測定器は販売されている。
生体細胞の膜容量測定
生体細胞のように微弱な信号を取り扱う場合はロックインアンプを使ってインピーダンス測定を行う。下記は唾液腺や涙腺などの分泌細胞の研究で使われているパッチクランプ法による生体細胞膜の容量を測定する仕組みである。
圧電粉体レベルセンサの測定
複写機のトナーの残量を検知するにはケースに入った粉体量の測定が必要となる。ここで使われるセンサは圧電振動子と粉体を接触させることによって圧電素子のインピーダンスが変化する現象が生じる。
圧電素子を振動させてインピーダンスを測定するには周波数特性分析器(FRA)が使われる。周波数特性分析器に内蔵された発振器の周波数をスイープさせて、圧電素子に流れる電流と端子間の電圧を同時に測定することによってインピーダンスが求められる。
【ミニ解説】周波数特性分析器(FRA)
周波数特性分析器はサーボアナライザとも言われている測定器である。測定対象に信号を与えて、その周波数特性を得るものである。
本体には信号発生器と2組の信号の大きさと基準信号との位相差を測定できる回路が組み込まれている。ロックインアンプによってインピーダンス測定装置を構築するより簡単であるが、測定対象にあわせた周辺機器の選定には知識が必要となる。
位相検波器を用いた周波数特性分析器は大きなダイナミックレンジが得られる特長がある。最近は測定信号を直接A/D変換器で読み取り、デジタル信号処理によって周波数特性を得る仕組みがオシロスコープのFRAオプションとして用意されているがダイナミックレンジは信号を読み取るA/D変換器の能力に依存する。
燃料電池の特性評価
燃料電池やリチウムイオン電池などの化学電池の内部状態を推定するためにインピーダンス測定が行われている。電池の内部インピーダンスを測定する方法には簡易的には電流遮断法という方法が用いられるが、研究分野では再現性がよく測れる周波数特性分析器(FRA)を使った方法が使われている。
下記には燃料電池のインピーダンス特性を測る仕組みを示す。
電力計を使ってのリアクトル測定
パワーエレクトロニクス機器に使われるインダクタ(リアクトル)の動作状態でのインダクタンスを測定する場合は高帯域の電力計を用いる。試料のインダクタに正弦波の信号を加えてその両端の電圧と試料に流れる電流の波形を電力計に取り込んで演算を行ってインピーダンスを求める。
パワーエレクトロニクス用のインダクタに大きな電流を流してインピーダンスを求める場合にこの方法が使われる。
LCRメータの校正
LCRメータ本体は発振器とベクトル電圧計が組み合わせられた測定器であるため、それぞれの性能を校正によって確認する。
実際のインピーダンスを測って校正を行う場合は、特性が判っている抵抗とコンデンサの標準器が必要となる。
LCRメータを出荷時の状態に補正するには振幅は抵抗標準器、位相はコンデンサ標準器を用いて行う。
低周波インピーダンス測定器の校正に関しては(独)製品評価技術基盤機構認定センターが「技術的要求事項適用指針 校正手法の区分の呼称:低周波インピーダンス測定器等 【低周波インピーダンス】」を発行している。
おわりに
低周波のインピーダンス測定は電子部品に限らずさまざまな分野で行われている。測定器もLCRメータやインピーダンスアナライザといった専用の測定器だけではなく、ほかの測定器によっても可能であるため工夫をすればさまざまな試料の特性が測れることを紹介してきた。
今後、この記事が皆様の研究、設計、生産の現場で交流インピーダンスを測定する助けになることを期待する。