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LCRメータの基礎と概要 (第2回)

試料との接続

インピーダンス測定では発振器から供給された信号を測定対象の試料に印加して電流波形と電圧波形からそれぞれの大きさと位相差を測定する。ここではさまざまな接続法を示してその特徴を述べる。

2端子法

最も簡単な接続法であるが、接触抵抗、配線の直列インピーダンス、ケーブルや端子間の浮遊容量の影響を受けるため、数十kHz以上の周波数やインピーダンスが10Ω~10kΩの範囲外では誤差が多くなる。

図23. 2端子法

図23. 2端子法

3端子法

2端子法の配線にシールドを加えてシールド導体はガード端子に接続されたものである。浮遊容量の影響が抑えられて、10MΩまでの高インピーダンス測定ができるようになる。ただし接触抵抗や配線の直列インピーダンスが残るため10Ω以下の低インピーダンスの測定には制約がある。

図24. 3端子法

図24. 3端子法

4端子法

信号を試料に印加するケーブルと測定するケーブルを独立にすることによって、ケーブルによる電圧降下や接触抵抗の影響を除くことができる。このため低インピーダンスの測定は1Ω程度まで広がる。しかしケーブル間の浮遊容量の影響は残るため10kΩ以上の高インピーダンスの測定は不向きである。

図25. 4端子法

図25. 4端子法

【ミニ解説】ケルビン接続

低インピーダンスを直流や交流で測定する場合はケーブルのインピーダンスや接触抵抗などの影響を排除する必要がある。このため信号源の配線と測定を行う配線を分離させる。この接続をケルビン接続もしくは4端子接続という。

ケルビンの名前が付けられているのは考案者であるイギリスの物理学者のケルビン卿ウイリアム・トムソン(1824年~1907年)の名前から来ている。

LCRメータのアクセサリにケルビンクリップがあるが、これは下図のように4端子接続するためのケーブルである。

図26. ケルビンクリップ

図26. ケルビンクリップ

5端子接続

4端子接続の配線にシールドを加えてシールド導体はガード端子に接続されたものである。この接続は1Ω~10MΩまでの幅広いインピーダンス測定に対応できる。ただし電流ケーブルと電圧ケーブルの間の相互誘導の影響は少し残る。

図27. 5端子接続

図27. 5端子接続

4端子対法

シールドケーブルのシールド側を利用して電流の往路と復路を重ねることで磁束の発生を抑えて電磁誘導による影響をなくす。配線は複雑になるが、最も良い方法である。

図28. 4端子対法

図28. 4端子対法

実際のテストフィクスチャやテストリード

測定対象の試料をLCRメータなどのインピーダンス測定器に接続するために用意されているのがテストフィクスチャやテストリードである。電子部品においても形状がさまざまであるため試料に応じたテストフィクスチャやテストリードが測定器メーカから提供されている。

しかし電子部品以外の試料ではそれぞれにあった専用のテストフィクスチャを自作することもある。その際は測定結果への影響を十分考慮する必要がある。

ここでは主に電子部品を測定する際に使われるテストフィクスチャやテストリードについて紹介する。

リード部品用テストフィクスチャ

古くからあるテストフィクスチャで部品の両端にめっきした銅線が付いているリード部品を4端子もしくは2端子でLCRメータと接続するものである。2端子の場合は配線による誤差が生じる可能性がある。リード部品を高精度に測定する場合はリード線によるインダクタンスや寄生容量の影響を少なくするためにリード線を短くしてテストフィクスチャに接続する必要がある。またインダクタから発生する漏れ磁束の影響がある場合は磁気シールドを行う必要がある。

図29. リード部品用テストフィクスチャ ZM2363(エヌエフ回路設計ブロック)

図29. リード部品用テストフィクスチャ ZM2363(エヌエフ回路設計ブロック)

ケルビンクリップテストリード

大型のコンデンサやパワーエレクトロニクス機器に使うインダクタ(リアクトル)などのインピーダンスを測定する場合はケルビンクリップテストリードを使って4端子で試料に接続する。

ケルビンクリップテストリードを使って測定できる周波数の上限は低いため注意が必要である。

図30. ケルビンクリップテストリード 2325A(エヌエフ回路設計ブロック)

図30. ケルビンクリップテストリード 2325A(エヌエフ回路設計ブロック)

チップ部品用テストフィクスチャ

リード線がない小さなチップ部品を2端子でLCRメータと接続するものである。低インピーダンスのチップ部品を測定するための4端子接続ができるテストフィクスチャもある。

チップ部品の大きさはさまざまあり、テストフィクスチャには対応が可能な大きさの範囲が仕様で示されている。

小さなチップ部品は正しくテストフィクスチャに取り付けないと接触抵抗や浮遊容量の影響を受けて正確な測定ができない。

図31. チップ部品用テストフィクスチャ ZM2394H(エヌエフ回路設計ブロック)

図31. チップ部品用テストフィクスチャ ZM2394H(エヌエフ回路設計ブロック)

チップ部品テストリード

チップ部品はリード線がないためケルビンクリップテストリードを使うことができないため、ピンセット形状のテストリードが必要となる。チップ部品テストリードは2端子で試料と接続する仕組みになっている。

図32. チップ部品テストリード ZM2366(エヌエフ回路設計ブロック)

図32. チップ部品テストリード ZM2366(エヌエフ回路設計ブロック)

4端子ワニグチクリップテストリード

トランスの相互インダクタンスを測定する場合などはLCRメータの端子からの配線を自由に試料に接続できるようにしたほうが作業は容易になる。

4端子ワニグチクリップテストリードを使って測定できる周波数の上限は低いため注意が必要である。

図33. 4端子ワニグチクリップテストリード 2324(エヌエフ回路設計ブロック)

図33. 4端子ワニグチクリップテストリード 2324(エヌエフ回路設計ブロック)

DC電圧バイアスアダプタ

コンデンサやインダクタは直流バイアスを加えると特性が変化する。このため試料に直流電圧や直流電流を加えて、その上に交流信号をLCRメータから印加して測定する方法がある。

直流電圧や直流電流を印加するには外部に直流電源を用意する。接続のためのジグは測定器メーカから供給されるものもあるが、大電流を印加して測定を行うパワーエレクトロニクス機器向けのインダクタ(リアクトル)の評価では大型の直流電源が必要になるため計測システム装置となることがある。

ここでは直流電圧を印加してコンデンサの評価を行うためのアダプタを事例として示す。

図34. DC電圧バイアスアダプタ ZM2329(エヌエフ回路設計ブロック)

図34. DC電圧バイアスアダプタ ZM2329(エヌエフ回路設計ブロック)

【ミニ解説】コンデンサやインダクタのDCバイアス特性

強誘電体を用いた高誘電率系のセラミックコンデンサでは直流電圧の印加によって誘電体中の自発分極が電界の方向に束縛されるため静電容量が変化(減少)する特性が見られる。

図35. 高誘電率系セラミックコンデンサのDC(直流)バイアス特性

図35. 高誘電率系セラミックコンデンサのDC(直流)バイアス特性

出典:セラミックコンデンサのFAQ(村田製作所ホームページ)

低誘電率系のセラミックコンデンサ、アルミ電解コンデンサ、タルタル電解コンデンサ、フィルムコンデンサなどではDCバイアス特性は見られない。

ダイオードの接合容量は逆バイアス電圧の影響を受けるため、可変容量ダイオードの測定ではDCバイアス電圧を設定して測定する。

またインダクタンスではコア材に磁気飽和特性があるため直流電流を印加するとインダクタンスが低下する現象がある。下記にはパワーエレクトロニクス機器に使われるインダクタンス(リアクトル)のDCバイアス特性を示す。

図36. インダクタンス(リアクトル)直流電流重畳特性

図36. インダクタンス(リアクトル)直流電流重畳特性

出典:リアクトルTSLシリーズ(東京精電ホームページ)

その他のテストフィクスチャ

電子部品以外にフィルムや液体などの誘電率の測定や磁性材料の透磁率を測定するためにLCRメータが使われることがある。このような測定には専用のテストフィクスチャが使われる。

また、電気化学や材料の試験でインピーダンス特性を測る場合も特殊な周辺機器が必要となる。

材料の研究など専用のテストフィクスチャが必要な場合は自作するか、知識を持ったテストフィクスチャを作る企業に依頼するのがよい。

電子部品の生産ラインで使われる装置

コンデンサやインダクタンスを大量に生産する工場では部品の良否判定やクラス別けを行うための自動検査装置が数多く使われている。この自動検査装置には高速でインピーダンスを測ることができるLCRメータが組み込まれている。

自動検査装置は長時間連続して運転するため、信頼性の高い作りになっている。

LCRメータの破損を防ぐ治具

コンデンサの生産ラインでは耐圧試験を行った後に容量の測定を行う。LCRメータでコンデンサの容量を測定する場合は事前に放電を行う必要があるため、生産ラインでは容量測定の試験をする前にコンデンサの放電を行う工程がある。しかし放電が十分でない場合はLCRメータが破損することがある。LCRメータが破損する要因として、このような場合が多いので下記のような治具をLCRメータと試料のコンデンサの間に入れると破損を防げる。

図37. コンデンサの放電保護用治具の例

図37. コンデンサの放電保護用治具の例

出典:LCRメータの機能と正しい使い方(安藤 正典 トランジスタ技術 2001年2月号)

測定誤差の考え方

LCRメータの誤差は測定器本体だけではなく、ストフィクスチャやテストリードを含めて考える必要がある。またLCRメータを装置に組み込んだ場合は配線によって生じる誤差や外来ノイズによるも考慮する必要が生じる。

LCRメータでは誤差を少なくするための補正機能が搭載されている。ここでは誤差を少なくする方法を紹介する。

オープン/ショート補正

LCRメータに取り付けられたテストフィクスチャやテストリースが持つインピーダンス成分を除くため、試料が取り付けられる点でインピーダンスがゼロ(=短絡)とインピーダンスが無限大(=開放)の状態を作って測定前に補正が行えるようにする。

インピーダンスが無限大の状態での補正をオープン補正と呼び、テストフィクスチャやテストリードの浮遊容量や漏れ抵抗(絶縁抵抗)を補正できるようにする。これらの値は配線の配置によって変化するため、試料を測定する場合と同じ状態で補正を行う。テストリードでの補正では先端でHpとHcの接続およびLpとLcの接続がされていることが必要である。

インピーダンスがゼロの状態での補正をショート補正と呼び、テストフィクスチャやテストリードの接触抵抗や接続ケーブルのインピーダンスを補正する。残留抵抗を小さくするために太い電線や金属板で短絡を行う。ケーブル間の結合による変動を少なくするために実際に試料を測定する場合と同じ状態で補正を行う。

図38. オープン/ショート補正

図38. オープン/ショート補正

出典:LCRメータの機能と正しい使い方(安藤 正典 トランジスタ技術 2001年2月号)

ロード補正

ロード補正は複雑な残留成分が存在した場合などでオープン/ショート補正を行っても誤差が無視できないときに標準器など正確な値が判っている部品を使って補正を行うことである。

測定器メーカが書いた資料には「測定器メーカが提供するテストフィクスチャやテストリードを使う場合はロード補正を行う必要はない」という記述はあるが、ロード補正が必要であるかは、測定器の性能や測定する周波数範囲によって異なる。ロード補正には、周波数,信号レベル,測定レンジなどの特定条件下で発生する小さな誤差(例えば浮遊容量が起因の誤差)を軽減する効果がある。測定に使用する測定器の取扱説明書やメーカが提供する技術資料などを参考にして、補正を行うか判断する。

ケーブル長補正

LCRメータを装置に組み込んで使う場合や測定対象の試料が大きく、LCRメータ本体に長いケーブルを接続しなければならないときに使う補正である。

図39. 試料までケーブルを延長した場合

図39. 試料までケーブルを延長した場合

ケーブルを延長することによりケーブルの配線抵抗と浮遊容量の影響を受けて、試料に印加される信号の振幅と位相に誤差が生じる。

これらを補正するためにLCRメータではケーブル長を設定して補正できる機能を持っている。

LCRメータ本体の測定確度

LCRメータ本体の測定確度は「測定速度、測定周波数、測定レンジ、測定信号レベル、DCバイアスの有効/無効、ケーブル長、測定レンジ、周囲温度、試料の測定値」から算出されるので、測定器メーカが製品ごと仕様書に確度の算出方法を示している。

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