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ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの基礎と概要 (第3回)

<連載記事一覧>

第1回:「はじめに」「ハンドヘルド・デジタル・マルチメータとは」「ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの構造と機能」

第2回:「ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの基本操作」「ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの便利な機能」「ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの仕様の理解」「【コラム】 職業高校(工業)で「ものづくりの体験」を重視した教育を行う佐藤昌史先生にお話を伺う」

第3回:「ハンドヘルド・デジタル・マルチメータを使う際の危険」「ハンドヘルド・デジタル・マルチメータに関わる安全規格」「ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの周辺アクセサリ」「ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの日常の管理」「終わりに」「【インタビュー】市場の変化をとらえて新たな成長を目指すフルーク」

第3回の記事の前半ではハンドヘルド・デジタル・マルチメータを安全に使うための解説を行う。後半ではハンドヘルド・デジタル・マルチメータのアクセサリやハンドヘルド・デジタル・マルチメータの日常の管理について解説する。

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータを使う際の危険

電気工事では感電やアーク・フラッシュなどは最悪の場合には人命にかかわる事故を防ぐ必要がある。下記の図に示すように電気工事での安全確保を啓蒙する活動はされている。

図34. アメリカ国立労働安全衛生研究所が作成した感電防止策のチラシ

図34. アメリカ国立労働安全衛生研究所が作成した感電防止策のチラシ

出典:Electrical Safety in the Workplace
https://www.cdc.gov/niosh/electrical-safety/about/

感電による事故と対策

人体が交流もしくは直流の電圧を持った導体に触れると電流が流れて人体に影響を及ぼす。下図の示すように流れる電流の大きさによって人体への影響は異なる。

表16. 感電電流と感電症状の関係
感電電流 症状
1mA わずかにチクチクする感覚。特定の状況下では依然として危険です。
2mA 軽いショックが発生します。
5mA 地絡漏電遮断器(GFCI)が作動します。軽いショックを感じますが、痛みはありませんが不安になります。普通の人なら手を離しても大丈夫です。
10mA 痛みを伴うショック、筋肉の制御が失われ始めます。転倒の危険があります。
20mA 筋肉の収縮、中程度から極度の痛み。手を離すことができない。
30mA 筋肉の収縮と激しい痛みとともに窒息する恐れがあります。離すことができません。
100mA 心室細動、心臓が止まります。筋肉の収縮と神経の損傷が始まります。死に至る可能性があります。
300mA この程度の電気ショックを受けると、被害者の呼吸が止まり、死亡する可能性があります。
900mA 重度の火傷と心室細動を引き起こします。死亡の恐れがあります。

感電による人体への被害の影響は電流値以外に感電経路や感電時間や交流と直流の違いもある。「職場のあんぜんサイト(厚生労働省)」には感電事故を防ぐ対策として下記が示されている。

  1. 充電部を露出させないこと
  2. 漏電遮断器の取付け
  3. 漏電対策としての接地工事
  4. 二重絶縁構造の電気機器の使用
  5. 絶縁用保護具、防護具の使用

注1:充電部とは通常の使用状態で感電のおそれのある電源系統とつながる導電部分のこと
注2:二重絶縁は感電リスクを低減するために電気回路と使用者間に2重の絶縁構造を持つこと
注3:絶縁用保護具は人が身に付けるもの、絶縁用防護具は感電の危険のある部分を覆うもの

電気工事を行う際は絶縁用保護具として絶縁手袋を装着して作業を行うため、ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは手袋をしても容易に操作ができる構造となっている。

図35. ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは絶縁手袋を装着してもスムーズに操作ができる

図35. ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは絶縁手袋を装着してもスムーズに操作ができる

アーク・フラッシュによる事故と対策

アーク・フラッシュは活線状態の配電盤やキュービクルなどで爆発的に起きる危険な放電現象である。電気工事などを行う際に誤操作や測定器の選定の誤りなどによってアーク・フラッシュが発生することがある。

図36. アーク・フラッシュ事故のイメージ

図36. アーク・フラッシュ事故のイメージ

アーク・フラッシュが生じると短時間の間に下図に示すようにさまざまな現象が生じる。

図37. アーク・フラッシュが生じたときに起きる現象

図37. アーク・フラッシュが生じたときに起きる現象

アーク・フラッシュは人に次のような大きな危害を与える。

  • 熱による重度の火傷
  • 強い光による目の損傷
  • 爆発による障害(聴力、破片の飛散による傷など)

アーク・フラッシュ事故を防ぐには危険源の特定、リスク評価、適切な保護具の着用、作業手順の確立、作業環境の整備、教育訓練が有効である。

日本ではアーク・フラッシュ事故を防ぐ規格が整備されていないので、現在は米国防火協会(https://www.nfpa.org/en)が制定したNFPA 70E(職場における電気安全基準)が参照されている。

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータに関わる安全規格

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは感電やアーク・フラッシュなどの危険がある現場で使用されるため作業の安全を確保するための規格がIEC/EN 61010やJISC1010で規定されている。

測定カテゴリー(CAT)

電気工事などでハンドヘルド・デジタル・マルチメータを使う場合はどの範囲で使えるかを規定するのが測定カテゴリーである。下図は測定カテゴリーの範囲を示す図である。測定カテゴリー1(CAT Ⅰ)は規格に含まれないので表現されないことが多い。

図38. 測定カテゴリーの範囲

図38. 測定カテゴリーの範囲

測定カテゴリーの詳細は下表のようになっている。ハンドヘルド・デジタル・マルチメータやアクセサリには測定カテゴリーと最大電圧の表示がされているので利用は指定された範囲内となる。

表17. 各測定カテゴリーの解説
測定
カテゴリー
解説
CAT I IECはCAT I試験ツールの保護レベルを規定していませんが、CAT I 150Vメーターは、ユーザーマニュアルに明記されている限り、500Vまでしか保護されないことにご注意ください。
CAT I定格の試験ツールは電子機器用の信号レベルツールであり、過渡電圧リスクは限定的ですが、機器の設置場所と主電源との間の距離により、依然としてリスクは存在します。
CAT II CAT II定格の工具は、短絡電流が10kA未満の単相コンセント接続負荷です。
CAT II電源はCAT III電源から10メートル(30フィート)離れている必要があり、コンセントはCAT IV電源から20メートル(60フィート)以上離れている必要があります。
例:家電製品、ポータブル工具、および同様の負荷の主回路、コンセント、および長い分岐回路
CAT III CAT III定格のツールは、短絡電流が50kA未満の単相商用照明を含む三相配電設備です。
固定設備内の機器には、配電盤、多相モーター、産業プラントのバスおよびフィーダー、フィーダーおよび短絡分岐回路、配電盤機器、大規模建物の照明システム、および引込口への短絡接続を備えた機器用コンセントが含まれます。
測定例には、以下のものがあります。
  • 配電盤
  • 遮断器
  • 固定設備内の配線
  • ケーブル
  • バスバー
  • 接続箱
  • スイッチ
  • コンセント
CAT IV CAT IV定格の工具は、公共設備接続部(屋外の主電源導体)において三相交流となります。回路に電力を供給する公共設備変圧器の短絡電流が50kAを超える場合にのみ制限されます。
低電圧接続(引込線)が公共設備電源に接続されている「設置起点」を指す場合、建物設備内の主ヒューズまたは回路ブレーカーの前に設置された機器の測定が対象となります。
例:
  • 電力メーター
  • 一次過電流保護装置
  • 屋外および引込線
  • 電柱から建物までの引込線
  • メーターとパネル間の配線
  • 独立した建物への架空線または井戸ポンプへの地中線。

実際に販売されているハンドヘルド・デジタル・マルチメータは測定カテゴリー4(CAT Ⅳ)まで対応して柱上トランスから配電盤までの測定も行える電気工事に使う製品と、測定カテゴリー3(CAT Ⅲ)までの配電盤より先にある機器や設備の点検に使う製品に分かれている。下記は実際の製品での測定カテゴリーの対応状況である。

表18. フルークの代表的なハンドヘルド型マルチメータの測定カテゴリー
手のひらサイズ
モデル
FLUKE 107
コンパクト
モデル
FLUKE 117
汎用
モデル
FLUKE 179
高確度上級
モデル
FLUKE 87V
測定カテゴリー CATⅢ 600V CATⅢ 600V CAT Ⅳ 600V
CATⅢ 1000V
CAT Ⅳ 600V
CATⅢ 1000V

入力端子

デジタル・マルチメータの入力端子には下記に示すように電線を端子に締め付けるバインディングポスト端子(左)と端子の金属部分に人の指が触れない安全端子(右)がある。ハンドヘルド・デジタル・マルチメータではIEC/EN 61010やJISC1010で規定されている安全端子が採用されている。

図39. デジタル・マルチメータに採用されている入力端子

図39. デジタル・マルチメータに採用されている入力端子

高電圧を使わない教育での実験や実習では電線を直接ハンドヘルド・デジタル・マルチメータに接続したいことがある。このような場合は下図に示すようなアダプタを入力端子に接続すれば電線を直接接続できる。

図40. ハンドヘルド・デジタル・マルチメータに直接配線する場合に使うアクセサリ

図40. ハンドヘルド・デジタル・マルチメータに直接配線する場合に使うアクセサリ

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの周辺アクセサリ

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータには電気工事や設備点検の現場で必要となるさまざまなアクセサリが測定器メーカから提供されている。

図41. ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの周辺アクセサリ(FLUKE)

図41. ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの周辺アクセサリ(FLUKE)

テストリード

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータ本体には付属品として一体型のテストリードが添付される。別売のアクセサリを購入すれば測定対象への接続性は向上する。

図42. 一体型テストリードでのアクセサリの組み合わせ(FLUKE)

図42. 一体型テストリードでのアクセサリの組み合わせ(FLUKE)

テストリードには組立型がありさまざまなリード、クリップ、プローブを選択できる。そのため現場の要求に合わせた測定環境を作ることができる。

図43. さまざまな組み合わせができるアクセサリー・セット(FLUKE TLK225)

図43. さまざまな組み合わせができるアクセサリー・セット(FLUKE TLK225)

クランプ式の電流プローブ

下図に示すように電気工事や設備点検の現場では配線を切断しないで電流を測定する要求がある。

図44. ハンドヘルド・デジタル・マルチメータと電流センサを組み合わせての電流測定

図44. ハンドヘルド・デジタル・マルチメータと電流センサを組み合わせての電流測定

電流センサには多くの種類があるが、ハンドヘルド・デジタル・マルチメータのアクセサリとして一般的に測定器メーカが用意しているのは「交流専用のCT型とロゴスキーコイル型」と「直流と交流に対応できるホール素子型」がある。交流専用のCT型は電池が不要であるが、ロゴスキーコイル型とホール素子型は回路を駆動するための電池が必要となる。いずれも配線を切断しなくて測定できる仕組みになっている。

下表に示すように測定器メーカでは各種電流センサをアクセサリとして用意している。

表19. フルークが用意している代表的な電流センサ
分類 交流専用 直流/交流用
型名 i200 i400 i800 i3000s i2000 flex i30 i410 i1010
測定レンジ 200A 400A 800A 30A
300A
3000A
20A
200A
2000A
30ADC
20A AC RMS
400ADC
400A AC RMS
1000ADC
600A AC RMS
周波数範囲 40Hz~10kHz 5Hz~20kHz 30Hz~10kHz 10Hz~100kHz 10Hz~20kHz DC~20kHz DC~3kHz DC~10kHz
出力レベル 1mA/A 1mA/A 1mA/A 10mV/A
1mV/A
0.1mV/A
100mV/A
10mV/A
1mV/A
100mV/A 1mV/A 1 mV/A
測定カテゴリ CAT III 600V CAT IV 600V
CAT III 1000V
CAT III 600V CAT III 600V CAT III 600V CAT III 300V CAT III 600V CAT III 600V
最大導体サイズ 20mm 32mm 54mm 64mm 178mm 19mm 30mm 30mm
電池 不要 不要 不要 不要 単3乾電池 2本 角形9V乾電池 角形9V乾電池 角形9V乾電池

温度プローブ

電気工事や設備点検を行う場合は温度を測定する場合がある。ハンドヘルド・デジタル・マルチメータにはアクセサリで熱電対タイプKや熱電対をデジタル・マルチメータに接続する外付けモジュールが用意されている。

図45. 設備点検でのハンドヘルド・デジタル・マルチメータを使っての温度測定

図45. 設備点検でのハンドヘルド・デジタル・マルチメータを使っての温度測定

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータには熱電対を直接接続できる製品と熱電対からの信号をデジタル・マルチメータが読める電圧値に変換する外付けモジュールが追加で必要な製品がある。

表20. フルークの代表的なハンドヘルド・デジタル・マルチメータでの温度測定対応
手のひらサイズ
モデル
FLUKE 107
コンパクト
モデル
FLUKE 117
汎用
モデル
FLUKE 179
高確度上級
モデル
FLUKE 87V
熱電対の直接接続 不可 不可
熱電対モジュールを
使っての温度測定

熱電対を直接接続できる機種は下図に示すようにして熱電対をハンドヘルド・デジタル・マルチメータに接続する。

図46. 熱電対を直接接続できる機種での熱電対の接続

図46. 熱電対を直接接続できる機種での熱電対の接続

熱電対モジュールを使ってハンドヘルド・デジタル・マルチメータの電圧測定機能を使って温度測定する場合の接続は下図となる。

図47. 熱電対モジュールを使ってのハンドヘルド・デジタル・マルチメータへの熱電対の接続

図47. 熱電対モジュールを使ってのハンドヘルド・デジタル・マルチメータへの熱電対の接続

対象物に応じで熱電対プローブの形状は異なるため、最適な形状の熱電対プローブを選ぶ必要がある。下図にはよく使われる熱電対の形状を示す。

図48. よく使われる熱電対プローブの形状(フルーク)

図48. よく使われる熱電対プローブの形状(フルーク)

【ミニ解説】 熱電対を使って測定する仕組み

熱電対は異なる種類の金属の先端を接続して両端に温度差を作ると電圧が発生するゼーベック効果を使っている。熱電対にはさまざまな種類があるが、安価なため最もよく使われるのがタイプKの熱電対である。

熱電対を使って温度を測る場合は一端を氷などによって0℃に保って他端を温度測定したいものに接触させれば0℃側の電圧を測れば温度を知ることができる。一般には0℃の環境を作って熱電対で温度を測ることはしない。通常は端子台の温度を半導体温度センサなどで測って端子台と測定対象との温度差により発生する電圧に加える仕組みが取られる。

図49. 熱電対を用いて温度を測る仕組み

図49. 熱電対を用いて温度を測る仕組み

高電圧プローブ

1000Vを超える高電圧を測定する場合は高電圧まで測定できる専用のハンドヘルド・デジタル・マルチメータを利用するのが一つの選択である。下記のハンドヘルド・デジタル・マルチメータはCATⅢ1500V、CATⅡ1000Vの仕様であるため、仕様の範囲内であればメガソーラなどの配電線の電圧が測定できる。

図50. 高電圧直流に特化したハンドヘルド・デジタル・マルチメータ(FLUKE 283 FC)

図50. 高電圧直流に特化したハンドヘルド・デジタル・マルチメータ(FLUKE 283 FC)

もう一つの選択は高電圧プローブの利用である。高電圧プローブは内部に分圧器が組み込まれている。また利用する際には安全のためL側に接続されているアース線は必ず接地して使う制約はある。また高電圧プローブは低エネルギー専用であるため配電線の高電圧を測定することはできない。

図51. 高電圧プローブを使っての測定

図51. 高電圧プローブを使っての測定

複写機や電気集塵機では高電圧によって微粒子を吸い付ける仕組みが搭載されている。その際には5000V程度の直流高電圧を測る必要があるので高電圧プローブは必要となる。

保護用ホルスター

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータのケースは固い樹脂で作られているため、落下の衝撃を緩和するために本体を覆うやわらかい樹脂で作られたカバーをホルスターと呼ぶ。電池やヒューズの交換を行う際には下図に示すようにホルスターを取り外す。

図52. 電池やヒューズの交換時にはホルスターを取り外す

図52. 電池やヒューズの交換時にはホルスターを取り外す

ホルスターには本体を保護する以外に下図に示すようにスタンドと知っても使える。

図53. ホルスターをスタンドとして使える。

図53. ホルスターをスタンドとして使える。

また、電気工事や設備点検では両手で端子間の電圧を測定して結果を確認する作業を一人で行う際には下図にあるようなテストプローブを保持する機能が役立つ。

図54. ホルスターにあるテストプローブを保持する機能

図54. ホルスターにあるテストプローブを保持する機能

磁石ハンガー

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは電気工事や設備点検の現場で使われることが多いので測定器を置く場所がないことある。そのため下図に示すようにハンドヘルド・デジタル・マルチメータを磁石でキュービクルや配電盤にぶら下げて使うことがある。

図55. 磁石付きハンガーを使ってハンドヘルド・デジタル・マルチメータを固定する

図55. 磁石付きハンガーを使ってハンドヘルド・デジタル・マルチメータを固定する

携帯用ケース

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータには付属アクセサリがあるため、保管しておく際にアクセサリや取扱説明書などが紛失しないようにするために携帯用ケースを利用するのがよい。携帯用ケースには下図に示すようにハードケースとソフトケースの2種類がある。

図56. ハンドヘルド・デジタル・マルチメータ用の携帯用ケース(フルーク)

図56. ハンドヘルド・デジタル・マルチメータ用の携帯用ケース(フルーク)

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの日常の管理

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータを安全に使うためや測定精度を維持するためには日常の管理が必要となる。

破損や劣化の点検と清掃

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータのケースの割れやテストリードの傷があると安全を確保できなくなる可能性がある。下図には使用すると危険なテストリードの事例を示す。

図57. 使用すると危険な破損したテストリード

図57. 使用すると危険な破損したテストリード

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは屋外での利用もあるため、入力端子などに砂やほこりが溜まることがあるので振り落とす必要がある。本体ケースや端子の清掃に使える洗浄剤や清掃時の注意事項を測定器メーカが示している場合があるので事前に確認する必要がある。

ヒューズの交換

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの電流測定では入力抵抗値が低いため、電流測定の設定で出力インピーダンスが小さい電圧源に接続すると大きな電流が流れて内部のヒューズが断線して回路の破損を防ぐ仕組みがハンドヘルド・デジタル・マルチメータに組み込まれている。

ヒューズが断線した場合は電流測定ができなくなるため交換が必要になる。ヒューズが断線しているかを確認する方法は取扱説明書に書かれている。ヒューズの断線が確認できた場合は取扱説明書に示された手順で測定器メーカが指定したヒューズを準備して交換を行う。メーカが指定した以外のヒューズを使うと使用者の安全の確保ができなくなる。

図58. 取扱説明書の手順に従って指定された型番のヒューズと交換する

図58. 取扱説明書の手順に従って指定された型番のヒューズと交換する

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの校正

測定器は定期的に校正を行うことによって精度が維持されていることを保証している。ハンドヘルド・デジタル・マルチメータを使った作業の品質を保証していくためには校正を定期的に行う必要がある。電気工事や設備点検は安全を保障するために作業品質が維持されることが必要となるため定期的な校正は行われている。

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの校正は下図に示すような基準となる発生器で行われて、校正済みのラベルが本体に貼り付けられる。また校正を依頼した事業者から校正したことを示す書類が発行される。

図59. ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの校正に使わる基準器(FLUKE 5540A)

図59. ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの校正に使わる基準器(FLUKE 5540A)

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの更新

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは頑強に作られているため長期に渡って使用されることが多い。しかし測定器メーカでは廃止した製品は一定期間過ぎた場合に修理対応を終了する。業務で使用する測定器は故障した際に修理を迅速に行う要求があるため修理ができない測定器を使い続けることは勧められない。また測定器に関わる安全規格などが更新されて規格に準拠しなくなるリスクもある。

古くなったハンドヘルド・デジタル・マルチメータは計画的に更新を進めることが使用者にとってよい作業環境を維持することになる。

終わりに

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは幅広い分野で数多く使われている電気測定器である。この記事が皆様の日常の仕事に役立っていただけることを期待する。

【インタビュー】市場の変化をとらえて新たな成長を目指すフルーク

今回の記事執筆で協力を頂いたフルークの歴史と将来に向けた取り組みについてフルーク・ジャパン代表取締役社長の安 道煥(アン ドウファン)様からお話を伺った。

図60. お話をして頂いたフルーク・ジャパン代表取締役社長の安 道煥(アン ドウファン)様

図60. お話をして頂いたフルーク・ジャパン代表取締役社長の安 道煥(アン ドウファン)様

Q1:フルークはどんな歴史を持つ会社ですか

フルークはジョン・モーリス・フルーク(1911年~1984年)によって1948年にアメリカ東部のコネチカット州スプリングデールの自宅地下室にジョン フルーク エンジニアリング カンパニーとして設立された測定器メーカが原点である。フルークの創業期の代表的な製品はゼネラル・エレクトリック(GE)に納入した電圧・電流・電力計である。1952年に本社をアメリカ西部のワシントン州シアトル市近郊に移して事業の拡大を行っていった。事業を始めたころはデジタル・マルチメータ、カウンタ、電圧発生器、温度計、差動電圧計、校正用電圧発生器などを販売していた。

1977年に発売した世界で初めてのハンドヘルド・デジタル・マルチメータFluke 8020Aは「小型軽量、高性能、長い電池寿命、頑強な構造、低価格」が高く評価されて電気設備の設置工事や保守点検などを行う分野で広く使われたため、フルークはベンチ測定器のメーカからハンドヘルド型の現場測定器の世界的リーダーへと変わっていった。Fluke 8020Aは1984年に廃止されるまでに世界で25万台以上が販売されてビジネスとして大きな成果を得た。

現在のフルークは電気設備の設置工事や保守点検の市場向けにマルチメータ以外のさまざまな測定器と多くのアクセサリを持つワンストップ・カンパニーとなっている。電気工事や設備点検に使う現場測定器以外の事業としてはマルチメータやオシロスコープの校正を行うための標準器を担当する事業、有線通信の設置工事や保守点検で使う現場測定器を担当する事業、超音波カメラや温度分布などを観測する現場測定器を担当する事業、測定器の資産運用管理などのサービスを担当する事業がある。

日本では現場測定器と標準器室で使う校正器でのフルークの知名度が高いため、これらのビジネスの比重は高くなっている。

Q2:フルークの強みは何ですか

フルークの強みは工事や保守の現場で働くプロからの厳しい要求を満たす測定器を提供できることである。フルーク製品は過酷な環境であっても高い信頼性と耐久性があるためプロが安心して使える製品となっている。電気設備の設置工事や保守点検に使う測定器は用途に応じて要求が異なってくる。そのため用途に応じた製品ラインアップの充実が必要となる。フルークは利用者の声をよく聞いて製品ラインアップを構築しているため、お客様のさまざまな要望に応えられるようになっている。

現場ではさまざまな対象を測る必要があるため、測定機本体だけではなくアクセサリの充実も要求されるので、フルークはプロの要求に応えられるアクセサリのラインアップをそろえている。

電気設備の設置工事や保守点検では感電などの危険を伴うので安全に作業が行えることが求められる。フルーク製品はさまざまな安全規格に十分に適合する設計になっている。

プロが使う測定器では常に測定結果の信頼性が要求されるため、測定器の校正や修理に対応できるようなサービス体制も必要となる。フルーク製品は世界中で使われているため校正や修理の環境は充実している。

Q3:フルークの最近の取り組みは何ですか

フルークはコングロマリット(複合企業体)のフォーティブを構成する一つのブランドある。フォーティブは2025年6月に2つの企業に分割され、フルークはフォーティブに残って新体制で事業を継続することになった。

フルークが得意とする工場や商業ビルなどでの設備の設置や保守点検の分野では電気設備の高度化や環境を配慮した電気エネルギーの利用拡大などがあり、フルークにとってビジネスを拡大できる環境になっている。フルークでは工場や商業ビルなどの設備の設置や保守点検で必要となるさまざまな測定器の拡充や現場作業の効率化に貢献するソフトウェアの提供を進めている。これらの施策よってフルークはプロが頼れるワンストップ・カンパニーの強みを強化している。

図61. 設備からの異音の発生源を突き止める超音波カメラ

図61. 設備からの異音の発生源を突き止める超音波カメラ

今後、現場作業で得られた膨大なデータを有効に活用する環境ができると考えている。現在は限られた測定データから人が経験によって測定対象の状態を判断しているが、今後はIT技術の進歩によって現場で集めた膨大なデータから測定対象の状態をより正確に判断できるようになると考えている。こうなると現場の作業者の能力に依存しない高品質な作業が短時間でできるようになる。

工場や商業ビルなどにある設備を停止させて行う定期点検などでは、多くの作業者がさまざまな測定器を使って限られた時間内に効率的な作業をすることが要求される。フルークでは多くの測定器を安心して使うために測定器の資産運用管理ソフトウェアも用意している。

フルークは今後ともお客様の事業を支える測定器メーカとして進化していく。

記事提供:株式会社フルーク・ジャパン ホームページは こちら

執筆:魚住 智彦 測定器メーカに長年勤務して、現在は測定器の解説記事を執筆している

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