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ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの基礎と概要 (第2回)

第2回の記事ではハンドヘルド・デジタル・マルチメータを実際に使う場合に必要な知識と多くの品種があるハンドヘルド・デジタル・マルチメータから最適な機種を選ぶための知識について解説する。

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの基本操作

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータには多くの測定機能があるが、今回はFLUKE 87Vでの基本測定機能である直流電圧測定、交流電圧測定、抵抗測定、直流電流測定、交流電流測定についての操作法を解説する。

直流電圧の測定

電子回路に印加される直流電圧や太陽光発電パネルからの直流電圧を測定する場合などにハンドヘルド・デジタル・マルチメータが使われる。本体で測れる電圧は最大1000Vまでである。それ以上の電圧を入力端子に印加できないので、その際は高電圧プローブとデジタル・マルチメータを組み合わせて使うか、高電圧測定に対応したデジタル・マルチメータやデジタル電圧計を使う。

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータと測定対象は下図に示す通り接続を行う。

図14. 直流電圧測定の接続

図14. 直流電圧測定の接続

FLUKE 87Vの直流電圧測定では6Vレンジから1000Vレンジを使う場合と600mVレンジを使う場合では回転スイッチの設定が異なるので注意が必要である。

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの場合はオートレンジで使うことが一般的であるため、600mVより小さな電圧を測る以外は6Vレンジから1000Vレンジを使う側の設定にして使う。

交流電圧の測定

FLUKE 87Vでは最大1000Vまでの交流電圧を直接測定することができる。1000V以上の50Hz/60Hzの商用交流電源の電圧測定をする場合は外部に計器用変圧器を設置して測る場合がある。交流測定では測定対象の信号周波数の上限を知ることが必要となる。FLUKE 87Vでは20kHzまでの交流電圧の測定が可能となる。

仕様に定められた精度で測定するには入力電圧はレンジの3%~100%の範囲で、波高率(クレストファクタ)が3までの波形が条件となっている。

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータと測定対象は下図に示す通りの接続を行う。

図15. 交流電圧の測定

図15. 交流電圧の測定

電気工事や設備点検では商用電源の交流電圧を測定する機会が最も多くなる。そのため100Vや200Vの危険な交流電圧を測るため、作業時には感電防止のための絶縁手袋などの防護具が必要となる場合がある。

【ミニ解説】 波高率(クレストファクタ)とは

波高率(クレストファクタ)は波形のピーク値と実効値の比(ピーク値/実効値)で示される数値である。例えば実効値が100Vの正弦波ではピーク値は141.4Vとなるので波高率は1.414となる。歪んだ波形やスパイク状のノイズが重畳した波形では波高率は大きくなる。またパルス幅変調された波形ではデューティ比が10%の波形では波高率(クレストファクタ)は3となる。

電気工事などでは交流電源に配線されていない電線の電圧を測定した場合に電圧値が表示されることがある。測定した電線は何も配線されていないので本来は無電圧であるが、下図に示すように静電容量結合によって電流が流れて入力インピーダンスが高いハンドヘルド・デジタル・マルチメータの端子間に電圧が発生して電圧値が表示される。このような電圧値をゴースト電圧もしくは浮遊電圧と呼ぶ。

図16. ゴースト電圧が発生する仕組みと対策

図16. ゴースト電圧が発生する仕組みと対策

ゴースト電圧が表示されないようにするためにはハンドヘルド・デジタル・マルチメータの入力インピーダンスを下げて測定できるFLUKE 117のような機種を選ぶと解決できる。ゴースト電圧の対策を解説する動画があるので紹介する。

フルークのデジタル・マルチメータを使用して本物の電圧かゴースト電圧かを判断する方法
https://www.youtube.com/watch?v=mRwsxmn2P-s

抵抗の測定

抵抗器や温度が抵抗値に依存するサーミスタなどのセンサの抵抗値を測る場合にハンドヘルド・デジタル・マルチメータが使われる。ベンチトップ型の高精度デジタル・マルチメータでは低抵抗測定時に配線抵抗が測定結果に影響しないように4線式で抵抗測定をする機能を持っているが、ハンドヘルド・デジタル・マルチメータでは2線式での測定しかできないため、低抵抗値の測定対象を測る場合は測定の前に配線抵抗を測って補正するNULL機能を使うと正確な測定ができる。

【参考情報】 2線式抵抗測定と4線式抵抗測定の解説

東京都立産業技術研究センターの下記のホームページに2線式抵抗測定と4線式抵抗測定の違いについて判りやすく書かれている

低抵抗の測定方法
https://www.iri-tokyo.jp/uploaded/attachment/2470.pdf

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータと測定対象は下図に示す通り接続を行う。

図17. 抵抗の測定

図17. 抵抗の測定

抵抗測定はデジタル・マルチメータの中にある電流発生器から測定レンジごとに設定された電流が出力されてその両端の電圧を測ることによって抵抗値を求めている。そのためレンジごとに決められた短絡回路電流を知る必要がある。測定対象に流してよい最大電流が短絡回路電流を超えないようにレンジ設定をしなければならない。

【ミニ解説】 デジタル・マルチメータと絶縁抵抗計での抵抗測定の違い

電気工事などでは電気火災を防ぐために配線や機器の絶縁状態に問題がないかを絶縁抵抗計で測定する。デジタル・マルチメータでの抵抗測定との違いを下図に示す。

図18. デジタル・マルチメータと絶縁抵抗計の抵抗測定の違い

図18. デジタル・マルチメータと絶縁抵抗計の抵抗測定の違い

絶縁抵抗計では配電線で使われている電圧ごとに印加電圧を選んで測定を行う。絶縁抵抗の測定法はIEC 61557やJISC1302によって規定されている。デジタル・マルチメータでは測定レンジごとに抵抗の自己発熱の影響を少なくするために小さな定電流による抵抗測定が行われる。

直流電流測定、交流電流測定

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータを使って電流を測定する手段として本体だけで測定する方法と外部にクランプ電流センサを接続して測定する方法がある。本体だけで電流を測定する場合は精度よく電流を測ることはできるが、測定には電線を切断する必要がある。クランプ電流センサを使うと電線を切断しなくてよいということと、大電流を測ることができるクランプ電流センサを選べばハンドヘルド・デジタル・マルチメータ本体で測定できる電流より大きな電流を測定できる。ただしクランプ電流センサを使っての測定では確度は低くなる。

図19. ハンドヘルド・デジタル・マルチメータを使っての電流測定

図19. ハンドヘルド・デジタル・マルチメータを使っての電流測定

FLUKE 87Vでは最大10Aまでの直流および交流の電流を本体だけで測定できる。交流の測定できる周波数範囲は45Hz~20kHzとなっている。仕様を満たす精度で測定するための入力される波形の振幅や波高率の条件は交流電圧の測定と同じである。

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータ本体での電流測定は本体内部に実装されているシャント抵抗を使って電流を電圧に変換する仕組みとなっている。シャント抵抗や電子回路の破損を防ぐために電流測定回路にはヒューズが組み込まれている。操作を誤って電流端子に大きな電流が流れた場合はヒューズが切断して本体の破損を防ぐ。ヒューズが切断した際は取扱説明書に従ってヒューズを交換することができる。

電流を測定する場合にはシャント抵抗やヒューズが回路に組み込まれるため、電流が流れることによってハンドヘルド・デジタル・マルチメータの端子間に電圧が発生する。この電流に依存する電圧をバードン電圧もしくは入力(シャント)抵抗値が本体の仕様に示されている。

図20. 電流測定時のバードン電圧

図20. 電流測定時のバードン電圧

FLUKE 87Vでは電流測定端子が2つある。600μAレンジから400mAレンジを使用する場合の入力端子と6Aレンジから10Aレンジまでの入力端子がある。接続は下図のようになる。

図21. 電流の測定(600μAレンジから400mAレンジを使用する場合の接続)

図21. 電流の測定

【ミニ解説】 デジタル・マルチメータの最も多い破損

デジタル・マルチメータで最も多い破損は電流測定の配線をした状態で電圧測定を行ってデジタル・マルチメータに内蔵されたヒューズを切断することである。電流測定の配線では入力インピーダンスが低い状態になっているため、出力インピーダンスが小さな電圧源に接続すると大電流が流れる。デジタル・マルチメータのヒューズが切断されていないかを確認する方法は取扱説明書に書かれているので電流測定を行う前にはヒューズの状態の確認をすることを勧める。

電気工事や設備点検では電流を測定することが多いので、作業性がよいクランプ電流センサの利用やクランプ電流計を使うのが望ましい。

図22. 電気工事や設備点検によく使われるクランプ電流計(FLUKE 376)

図22. 電気工事や設備点検によく使われるクランプ電流計(FLUKE 376)

電流測定を必要としない用途があるため、ハンドヘルド・デジタル・マルチメータには電流測定の機能がないモデルがある。電流測定機能がないことによって誤操作によるヒューズの断線事故がなくなるメリットがある。

図23. 電流測定機能がないハンドヘルド・デジタル・マルチメータ(FLUKE 114)

図23. 電流測定機能がないハンドヘルド・デジタル・マルチメータ(FLUKE 114)

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの便利な機能

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは簡単な操作で電気量を測るだけではなく、便利な機能が搭載されている。ここではいくつかの便利な機能を紹介する。

信号の変化を観測できるバー・グラフ表示

測定結果を数字表示するだけでは電気量がどのような変化をしているかを知ることが難しいので、バー・グラフによって変化の様子を見やすくできる。FLUKE 87Vではバー・グラフの表示の更新は数字で表示される10倍の毎秒40回なので細かな変化も観測できる。ただしバー・グラフ表示できない測定項目があるので注意が必要である。

図24. バー・グラフ表示の実際(FLUKE 87V)

図24. バー・グラフ表示の実際(FLUKE 87V)

バー・グラフ機能は手のひらサイズモデルのような表示部分が小さな製品には搭載されていないので、この機能が必要な場合は機種を選定する際に仕様を確認する必要がある。

表3. フルークのハンドヘルド・デジタル・マルチメータでのバー・グラフ表示機能の対応
手のひらサイズ
モデル
FLUKE 107
コンパクト
モデル
FLUKE 117
汎用
モデル
FLUKE 179
高確度上級
モデル
FLUKE 87V
バー・グラフ表示 なし あり あり あり

表示器のバックライト

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは低消費電力で動作するように設計されているため、表示器は液晶パネルが使われている。実験室などの明るい環境では表示は問題なく見えるが、電気工事や設備点検などでは暗い環境での作業もあり液晶パネルとバックライトの組み合わせが必要となる。

図25. バックライトの消灯状態と点灯状態

図25. バックライトの消灯状態と点灯状態

バックライトを点灯した場合は消費電力が大きくなるので電池寿命に影響する。また自発光式の有機ELパネルを持つハンドヘルド・デジタル・マルチメータは市場には存在するが、表示は見やすいが液晶パネルを用いた製品より電池寿命は短くなる。

固定レンジの設定

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータでは通常最適な測定レンジを自動で選択するオートレンジで使われるので測定レンジを意識することはない。しかし回路や部品の直線性を正確に測りたい場合などではレンジ間誤差の影響をなくすため測定レンジを固定して測定する場合がある。

下図に示すようにレンジを固定した場合はレンジごとに表示が決まるので注意が必要となる。

図26. 測定レンジごとの表示の違い(FLUKE 87V)

図26. 測定レンジごとの表示の違い(FLUKE 87V)

オート・ホールド機能

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは通常は測定が繰り返し行われており、測定対象の現時点の状態を表示する仕組みになっている。このため測定対象から接続ケーブルを離したときには測定対象の測定値は表示されなくなる。

電気工事や設備点検の現場では測定対象からケーブルを離して、測定結果をノートなどに記録したい要求があるので測定結果を保持する機能が必要となる。

FLUKE 87Vではオート・ホールド機能が搭載されており、新しい安定した読み値が検出されるまで表示器に読み値が保持される。この機能を使えば測定を行ってケーブルを離すと表示は固定されて、測定結果をノートなどに記録することができる。

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの仕様の理解

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは多くの種類が販売されているため、目的に応じた最適な機種を選ぶには仕様の理解が必要となる

重要となる仕様

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは空調がされた実験室から寒暖差の大きな屋外の工事現場までさまざまな環境で使われる。このため測定の機能や性能だけではなく安全性や使用環境の仕様も理解する必要がある。下図にハンドヘルド・デジタル・マルチメータを選定するために重要な仕様項目を示す。

図27. ハンドヘルド・デジタル・マルチメータを選定するための重要な仕様項目

図27. ハンドヘルド・デジタル・マルチメータを選定するための重要な仕様項目

測定機能

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータには交流/直流電圧、交流/直流電流、抵抗を測定する基本機能と周波数、温度、静電容量などの付加的な機能を持っている。学校教育では基本機能があれば十分であるが、電気工事や設備点検では周波数や温度の測定が必要になることがある。測定機能が多くなると精度維持をするための校正項目が多くなり、維持管理するための費用が増えることになる。

カウント数

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータでは測定確度を示す仕様以外にカウント数という仕様がある。カウント数は測定レンジの最大値を示す表現である。例えば古い4000カウントのFLUKE 87と現在販売されている6000カウントのFLUKE 87Vの違いを下記に示す。

表4. 古い4000カウントのFLUKE 87と現在の6000カウントのFLUKE 87Vの違い
4000カウントの旧モデル 6000カウントの現行モデル
機能 レンジ 分解能 レンジ 分解能
交流電圧 400.0 mV 0.1mV 600.0 mV 0.1mV
4.000 V 0.001V 6.000 V 0.001V
40.00 V 0.01V 60.00 V 0.01V
400.0 V 0.1V 600.0 V 0.1V
1000 V 1V 1000 V 1V

例えば4000カウントのハンドヘルド・デジタル・マルチメータで5Vの交流電圧を測定すると40Vレンジが選ばれて分解能は0.01Vとなるが、6000カウントの場合は6Vレンジが選ばれて分解能は0.001Vとなる。

最近の多くのハンドヘルド・デジタル・マルチメータは6000カウントが多い。上級モデルには10000カウント以上の測定ができる。FLUKE 87Vでは6000カウントと20000カウントの切り替えができるようになっている。

表5. フルークのハンドヘルド・デジタル・マルチメータでのカウント数
手のひらサイズ
モデル
FLUKE 107
コンパクト
モデル
FLUKE 117
汎用
モデル
FLUKE 179
高確度上級
モデル
FLUKE 87V
カウント数 6000 6000 6000 6000/20000

測定確度

測定確度は測定値の大きさに依存する比例誤差と固定誤差によって表現される。ここでは最も基本的となる直流電圧と交流電圧の確度について解説する。例えばFLUKE 87Vでの18℃から28℃での直流電圧測定の確度は下図のように表現されている。

表6. FLUKE 87Vでの直流電圧測定の確度表現

表6. FLUKE 87Vでの直流電圧測定の確度表現

直流電圧測定での固定誤差は基本確度と呼ばれることがあり、デジタル・マルチメータの性能を比較する際に使われる。

表7. フルークのハンドヘルド・デジタル・マルチメータでの直流電圧測定での基本確度
手のひらサイズ
モデル
FLUKE 107
コンパクト
モデル
FLUKE 117
汎用
モデル
FLUKE 179
高確度上級
モデル
FLUKE 87V
基本確度 0.50% 0.50% 0.09% 0.05%

交流の確度仕様は周波数に依存するため、周波数ごとの表現がされる。例えばFLUKE 87Vでの18℃から28℃での交流電圧測定の確度は下図のように表現されている。

表8. FLUKE 87Vでの交流電圧測定の確度表現
レンジ 確度
45 ~ 65 Hz 30 ~ 200 Hz 200 ~ 440 Hz 440 Hz ~ 1 kHz 1 ~ 5 kHz 5 ~ 20 kHz
600.0 mV ± (0.7 % + 4) ± (1.0 % + 4) ± (2.0 % + 4) ± (2.0 % + 20)
6.000 V ± (0.7 % + 2) ± (2.0 % + 4)
但し
1 kHz ~ 2.5 kHz
規定せず
60.00 V
600.0 V
1000 V 規定せず

交流でのAC/DC変換方式

デジタル・マルチメータでは交流の電圧や電流の測定では交流を直流に変換してからA/D変換器によってデジタル情報に変換する仕組みになっている。交流信号を直流信号に変換する方式には平均値整流方式と真の実効値整流方式がある。平均値整流方式は正弦波では真の実効値整流方式と同じ値を示すが、歪んだ波形や複雑な波形では正確な測定値が得られない。しかし平均値整流方式は簡単な回路で実現できるメリットがある。

図28. 交流波形による真の実効値と平均値の測定結果の違い

図28. 交流波形による真の実効値と平均値の測定結果の違い

交流電圧や交流電流の測定では真の実効値で測定する場合が多いが、用途によっていずれの方式を選択するかが決められることがある。例えば日本電気工業会が発行している技術資料の「TR-148 インバータドライブの適応指針(汎用インバータ)」ではモータに接続されるインバータの出力電流は真の実効値で測定して、インバータの出力電圧は平均値で測定するとなっている。モータの出力トルクはモータへの印加電圧の基本波の実効値で決まるため、出力波形の基本波の実効値に近い値が得られる平均値で測定するとなっている。

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは機種によって搭載しているAC/DC変換器の種類が異なるので選定する際には注意が必要である。また測定できる周波数帯域も異なっている。

表9. フルークの代表的なハンドヘルド型マルチメータの交流測定の比較
手のひらサイズ
モデル
FLUKE 107
コンパクト
モデル
FLUKE 117
汎用
モデル
FLUKE 179
高確度上級
モデル
FLUKE 87V
交流測定時の
周波数帯域
500Hz 1kHz 1kHz 20kHz
交流測定時の
AC/DC変換方式
平均値 真の実効値 真の実効値 真の実効値
1kHz LPF

使用温度範囲

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは電気工事や設備点検に使われるため、屋外での利用もある。寒冷地や真夏の屋外での利用もあるため、使用温度範囲は広い製品がある。例えば耐環境特性に優れたFLUKE 28Ⅱでは‐15℃~+55℃(20℃の環境から持ち出して20分間までは-40℃の環境で使用可能)の環境で使用することができる設計になっている。

図29. 耐環境特性に優れたハンドヘルド・デジタル・マルチメータ(FLUKE 28Ⅱ)

図29. 耐環境特性に優れたハンドヘルド・デジタル・マルチメータ(FLUKE 28Ⅱ)

一般のハンドヘルド・デジタル・マルチメータの使用環境は下記のとおり機種によって異なるため、正確な測定をする場合は使用温度範囲を確認することが必要である。

表10. フルークのハンドヘルド・デジタル・マルチメータでの使用温度範囲
手のひらサイズ
モデル
FLUKE 107
コンパクト
モデル
FLUKE 117
汎用
モデル
FLUKE 179
高確度上級
モデル
FLUKE 87V
使用温度範囲 0~40℃ -10~50℃ -10~50℃ -20~55℃

防水・防塵仕様

屋外での作業では作業者がハンドヘルド・デジタル・マルチメータを落として下図に示すような状況になることが予測される。

図30. 水没したハンドヘルド・デジタル・マルチメータ

図30. 水没したハンドヘルド・デジタル・マルチメータ

落下による衝撃や水没によってハンドヘルド・デジタル・マルチメータが破損しない耐環境特性を持った製品がある。

防水・防塵性能はIEC規格やJIS規格によって2桁の保護等級(IPコード)が示される。防水・防塵性能のクラス分けは下表のとおりである。

表11. IEC 60529規格やJIS C0920規格で定められた防塵・防水クラスの表現

表11. IEC 60529規格やJIS C0920規格で定められた防塵・防水クラスの表現

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは製品ごとに防塵・防水のクラスは異なっているので、使用する環境に合わせて機種を選択する必要がある。耐環境特性に優れているFLUKE 28Ⅱは防塵と短時間の防水が保証されている。

表12. フルークの代表的なハンドヘルド型マルチメータの防水・防塵(IP)クラス
手のひらサイズ
モデル
FLUKE 107
コンパクト
モデル
FLUKE 117
汎用
モデル
FLUKE 179
高確度上級
モデル
FLUKE 87V
高耐環境
モデル
FLUKE 28Ⅱ
防水・防塵(IP) IP40 IP42 IP30 IP67

耐衝撃仕様

現場での作業ではハンドヘルド・デジタル・マルチメータは人の手から床に落下する危険がある。このため通常はIEC 61010-1やJIS1010-1に従った1mからの落下試験が行われる。耐環境性の優れたFLUKE 28Ⅱでは3mからの落下試験に合格するようになっている。

表13. フルークの代表的なハンドヘルド型マルチメータの耐落下特性
手のひらサイズ
モデル
FLUKE 107
コンパクト
モデル
FLUKE 117
汎用
モデル
FLUKE 179
高確度上級
モデル
FLUKE 87V
高耐環境
モデル
FLUKE 28Ⅱ
耐落下 1m 1m 1m 3m

電池寿命

液晶ディスプレイを持ったハンドヘルド・デジタル・マルチメータは低消費電力で動作するように設計されているため、電池交換を頻繁に行う必要はない。ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの電池寿命として仕様書に書かれている時間は液晶ディスプレイのバックライトを点灯させない状態での目安の時間が示されている。

測定器メーカは取扱説明書で使用できる電池を示している。下記にはフルークの代表的なハンドヘルド・デジタル・マルチメータの取扱説明書に書かれている電池のタイプと電池寿命を示す。

表14. フルークの代表的なハンドヘルド型マルチメータの電池タイプと電池寿命
手のひらサイズ
モデル
FLUKE 107
コンパクト
モデル
FLUKE 117
汎用
モデル
FLUKE 179
高確度上級
モデル
FLUKE 87V
電池のタイプ 単4電池 2本 9V角形電池 9V角形電池 9V角形電池
電池寿命 アルカリ電池
最小 200 時間
アルカリ電池
通常 400 時間
アルカリ電池
代表値 400 時間
アルカリ電池
最大 400 時間

アルカリ乾電池は長期間に渡って放置しておくと強アルカリの電解液が液漏れを起こして、ハンドヘルド・デジタル・マルチメータを破損させるリスクがあるため、長期間に渡ってハンドヘルド・デジタル・マルチメータを使用しない場合は本体から電池を取り出し置く必要がある。

また使用済みの電池を廃棄する場合は自治体の指示に従った方法で廃棄する必要がある。

【ミニ解説】 多くの種類がある電池

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは電気店や通信販売で容易に入手できる電池が使えるようになっている。

例えばもっとも一般的な1.5V乾電池の形状をした電池では下図に示すような種類の電池が入手できる。アルカリ乾電池が最も入手性がよい乾電池である。なおメーカの中には同じサイズの電池で容量が異なる複数の種類のアルカリ乾電池を販売している。

アルカリ乾電池は一般に5℃~45℃が使用推奨範囲となっているため、この範囲以外の温度環境で使う場合は−40℃~60℃まで使える一次電池のリチウム乾電池を選ぶことになる。

注意が必要なのは1.2Vのニッケル水素電池である。電圧が低いニッケル水素電池を使用する場合は測定器メーカが使用を推奨しているかを確認する必要がある。

最近はUSBで充電する携帯電話用のリチウムイオン電池パックと同じ仕組みの乾電池の形状をした1.5V電池が海外の複数のメーカから販売されているが、このタイプの充電式電池が使えるか事前に確認することを勧める。また携帯電話用のリチウムイオン電池パックと同様に発火のリスクがあることも知っておく必要がある。

図31. 市販されている1.5V乾電池の形状をした電池の種類

図31. 市販されている1.5V乾電池の形状をした電池の種類

外形寸法と重さ

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは可搬性に優れているため小型で軽量となるように設計されている。用途によっては要求される外形寸法と許容される重さは異なる。下記にはフルークの代表的な製品の外形寸法と重さを示す。

表15. フルークの代表的なハンドヘルド型マルチメータの外形寸法と質量
手のひらサイズ
モデル
FLUKE 107
コンパクト
モデル
FLUKE 117
汎用
モデル
FLUKE 179
高確度上級
モデル
FLUKE 87V
高確度/高機能
モデル
FLUKE 287
外形寸法 142mm(H)
69mm(W)
28mm(L)
167mm(H)
84mm(W)
46mm(L)
185mm(H)
90mm(W)
43mm(L)
201mm(H)
98mm(W)
52mm(L)
222mm(H)
102mm(W)
60mm(L)
質量 200g 394g 420g 624g 871g

【コラム】 職業高校(工業)で「ものづくりの体験」を重視した教育を行う佐藤昌史先生にお話を伺う

学校教育の中ではものづくりの基礎が教えられている。小学校の理科、図画工作や中学校の理科、技術・家庭科などでものづくり教育の導入が行われる。工業高校、高等専門学校、大学では実践的な教育が行われて社会で活躍できるプロの技術人材が育てられる。学校での実験や実習では測定器を使うものがあるので、このインタビューでは教育の現場を知るために教員の方へのインタビューを行った。

今回は都立墨田工業校、都立杉並工業高校、都立小金井工科高校(全日制及び定時制)で長年に渡ってユニークな「ものづくり教育」の取り組みをされてきた佐藤昌史先生にお話を伺った。
注)東京都は2023年度から都立の工業高校の名称を工科高校に変更している。

図32. 高校生の時に佐藤先生(左)はオートバイレースに参加していた。レーシングエンジンの仕組みやレースの厳しさを熱心に教えてもらい、今でも師匠と呼ぶヤマハ系名門チームRSカタクラ代表の川幡保氏(右)。佐藤先生の16才からの貴重な体験が現在に繋がっている。

図32. 高校生の時に佐藤先生(左)はオートバイレースに参加していた。レーシングエンジンの仕組みやレースの厳しさを熱心に教えてもらい、今でも師匠と呼ぶヤマハ系名門チームRSカタクラ代表の川幡保氏(右)。佐藤先生の16才からの貴重な体験が現在に繋がっている。

Q1:佐藤先生のものづくり教育の考え方を聞かせてください

現在の職業教育を行う高等学校では国語、数学などの普通科目と専門学科ごとの教育が行われている。職業教育は生徒が社会に出た時に必要となる知識を座学で学び、実習によって体験として技術や技能を身に付ける。特に最終学年では教員がテーマを示して、生徒が習得してきた知識と体験を使って自ら取り組む課題研究という授業がある。この授業は生徒が自ら考えて成功や失敗の体験を積む貴重な機会であるので最も大切な授業となっている。教員として生徒が卒業してもいつまでも記憶に残る授業となるよう志を持って常に取り組んできた。

Q2:佐藤先生の教員生活の中で代表的な課題研究の事例を聞かせてください

ここでは2006年ころにいくつものメディアに取り上げられた燃料電池バイクの開発を紹介する。この燃料電池バイクは日本で初めて作られたナンバープレートを付けて公道を走行できるバイクになった。生徒たちと一緒にバイクの開発からナンバープレートの取得までを行って、展示会への出展やイベントでのパレード走行を行った。また開発には墨田工業高校同窓会、岩谷産業、栗本鐵工所、シャープ、ヤマハ発動機、横河電機、そして経済産業省燃料電池推進室などが支援してくれた。多くの学外の方々の支援が得られたのは当時関心が高い開発テーマをいち早く課題研究に選んだためである。

図33. 2006年に都立墨田工業高校で横河電機と一緒に燃料電池バイクの評価を行う

図33. 2006年に都立墨田工業高校で横河電機と一緒に燃料電池バイクの評価を行う

この燃料電池バイクは電動アシスト自転車を改造した本体、水素吸蔵合金を使った水素供給装置、燃料電池は基礎研究で試作はしたが授業での製作期間が約半年であったため購入、自作のDCモータ制御回路、ナンバープレートを取得するための保安部品から構成されている。開発に協力してくれた企業から部品提供などの支援があった。教員や生徒は基礎開発、燃料電池バイクの組み立て、評価や試験走行、ナンバープレートの取得手続きなどの体験を積んでいった。なお、この燃料電池バイクの開発は(一社)燃料電池開発情報センターの機関誌「燃料電池」のVol.21 No.2(2021年)に詳しく紹介されている。

Q3:佐藤先生のものづくり教育への情熱の源泉についてお聞かせください

生徒と一緒に難しいテーマに取り組むことは多くの苦労を伴うが、未来に向けてつながるかもしれない可能性があるテーマを選んだ。これが基になり多くの方々から支援や助言が頂けたことは人の繋がりが広がる楽しさがあった。ここから生徒や支援を頂ける方々からの期待が高まることも情熱に繋がることになる。

学校での体験を経て卒業した生徒が社会で活躍している姿を見聞きするのは教員としての喜びである。

Q4:佐藤先生からこれからのものづくり教育への提言をお聞かせください

日本のものづくり教育に課題があることはよく指摘されるが、改善の取り組みはまだ十分でないと思っている。特に懸念するのは道具を使わなくても暮らせる生活環境となり、若い人はハサミやナイフなどの刃物やドライバーといった基礎的な工具の使い方をよく知らない人が増えていると感じる。生徒に限らず若い教員でも同じで実習に使う装置や測定器などの原理を十分に理解せず使いこなせないといった課題もある。

ものづくりの仕事は座学で知識を高めるだけでなく、実習により技能や感覚を身に付けることがプロを育てる職業教育では極めて重要である。実習での安全配慮と共に、生徒が夢中になれる「志」を持てる実習の機会を多く作ることが必要と感じている。

【参考資料】 ものづくり教育の課題について書かれた代表的な文書

グローバル時代における工学教育(日本学術会議 工学教育研究連絡委員会)
https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/17htm/17_22.html

今、世界の技術教育は?(日本産業技術教育学会)
https://www.jste.jp/main/data/sheet4.pdf

取材を終えて

紙面の都合で佐藤先生が生徒と一緒に取り組んだテーマすべては紹介できなかったが、代表的な成果は食用廃油を集めてバイオ燃料にする活動、水素エンジンの開発、国内最大級の動くレオナルド・ダ・ヴィンチのヘリコプターの制作などがある。

佐藤先生のような取り組みをされてきたベテラン教員の方は多くいるので、これからは若い教員の方々に技術や技能に加えて志も伝承されることを期待していきたい。

記事提供:株式会社フルーク・ジャパン ホームページは こちら

執筆:魚住 智彦 測定器メーカに長年勤務して、現在は測定器の解説記事を執筆している

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