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ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの基礎と概要 (第1回)

<連載記事一覧>

第1回:「はじめに」「ハンドヘルド・デジタル・マルチメータとは」「ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの構造と機能」

第2回:「ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの基本操作」「ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの便利な機能」「ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの仕様の理解」「【コラム】 職業高校(工業)で「ものづくりの体験」を重視した教育を行う佐藤昌史先生にお話を伺う」

第3回:「ハンドヘルド・デジタル・マルチメータを使う際の危険」「ハンドヘルド・デジタル・マルチメータに関わる安全規格」「ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの周辺アクセサリ」「ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの日常の管理」「終わりに」「【インタビュー】市場の変化をとらえて新たな成長を目指すフルーク」(2025年12月中旬公開予定)

はじめに

電気測定器の中でもっとも多くの台数が使われているのが電池で動くハンドヘルド・デジタル・マルチメータである。使われる分野は電気工事や設備点検から学校教育やホビーまで幅広い分野となっている。今後とも高度化した設備や装置の点検の増加や太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの普及が進むと予測されるのでハンドヘルド・デジタル・マルチメータの需要は堅調に拡大していく。

図1. 電気設備の保守点検に使われているハンドヘルド・デジタル・マルチメータ

図1. 電気設備の保守点検に使われているハンドヘルド・デジタル・マルチメータ

今回の記事ではハンドヘルド・デジタル・マルチメータが最も使われている電気工事や設備点検を主な対象に安全に正しく測定するための解説を行う。

今回の記事の執筆では現場測定器の老舗である米国フルーク社の日本法人の株式会社フルーク・ジャパンの協力を頂いた。また記事執筆ではフルーク社の英文サイトにある下記の2つの学習コースに掲載されている文章や図表を参照した。

  1. ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの基礎知識
    Digital Multimeter Basics Online Course
    https://www.fluke.com/en-us/learn/online-courses/digital-multimeter-basics-online-course
  2. 電気測定での安全の基礎知識
    Electrical Measurement Safety Online Course
    https://www.fluke.com/en-us/learn/online-courses/electrical-measurement-safety

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは国内外の多くのメーカからさまざまなモデルが販売されている。今回はフルークを代表するFLUKE 87Vを対象にして記事を執筆した。

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータとは

デジタル・マルチメータの成り立ち

デジタル・マルチメータは1952年にアンドリュー ケイ(Andrew Kay)がデジタル電圧計を製品化したのが始まりである。現在のデジタル・マルチメータはアナログ半導体とデジタル半導体によって構成されているが、当時は信頼性の高いデジタル回路素子がなかったため、電話交換機などで使われていた機械式リレーを使ったデジタル回路となっていた。機械式リレーを使ったデジタル機器としては1954年に開発された富士通のコンピュータ「FACOM 100」や1957年に開発されたカシオの電卓「14A」が日本ではよく知られている。

1960年代中ごろになると現在のデジタル・マルチメータと同じ仕組みの製品が登場するようになってきた。その後半導体の進歩によってデジタル・マルチメータの高性能化と小型化が進んでいった。

デジタル・マルチメータのメリット

デジタル・マルチメータが登場するまでは電圧や電流などの電気量を測定するためには指示計器(メータ)が使われてきた。現在でも学校などでは下記のような携帯用指示計器が授業で使われている。

図2. 携帯用指示計器(横河計測 2011 33(販売終了))

図2. 携帯用指示計器(横河計測 2011 33(販売終了))

指示計器は簡単な仕組みの精密機械ではあるが、正しい測定をするには指針が示す値を読み取る技能が必要となる。下図に示すような電圧/電流/抵抗を1台で測定できる回路計(アナログ・マルチメータ)は1970年代ころまでは幅広い分野で使われていた。回路計は現在でも一部のメーカから販売されているが、多くはデジタル・マルチメータに置き換わっている。

図3. 回路計(横河計測 3201(販売終了))

図3. 回路計(横河計測 3201(販売終了))

回路計とデジタル・マルチメータを比較すると下記に示すような長所と欠点がある。

表1. 回路計とデジタル・マルチメータの長所と欠点
回路計
(アナログマルチメータ)
デジタルマルチメータ
原理 指示計器(メータ)とアナログ回路を組み合わせた構造 アナログ回路、A/D変換器、デジタル回路を組み合わせた構造
長所
  • 電圧と電流の測定では電池が不要
  • 信号のレベルの変化を直感的に見れる
  • 構造が単純な機構のため寿命が長い
  • 測定精度が高い
  • オートレンジ機能がある
  • 測定結果が数字で読み取れる
欠点
  • 測定精度が低い
  • 振動や衝撃に弱い
  • 電池が必要
  • 高度な使い方は学習が必要

ベンチトップ型とハンドヘルド型の違い

デジタル・マルチメータには下図に示すような実験室の机に置いて使うベンチトップ型と電池で駆動する小型のハンドヘルド型の2種類がある。

図4. 8.5桁ベンチトップ・デジタル・マルチメータ(FLUKE 8558A)

図4. 8.5桁ベンチトップ・デジタル・マルチメータ(FLUKE 8558A)

ベンチトップ型は高性能/高機能な製品が多く、研究開発、設計、生産、品質管理の部署でよく使われている。ハンドヘルド型は使い易く小型であるため、電気工事、設備点検から教育、ホビーまで幅広い分野で使われている。それぞれの違いは下表のとおりである。

表2. ベンチトップ型とハンドヘルド型の違い
ベンチトップ型 ハンドヘルド型
特長
  • 4.5桁から8.5桁の製品が多い
  • 性能が高く、高機能な製品が多い
  • 3.5桁から4.5桁の製品が多い
  • 電池駆動が可能で携帯が可能
用途 研究開発から生産までの利用が多い 電気工事、設備保守からホビーまでの利用が多い

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの用途

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは幅広い分野で使われているため、さまざまな製品が測定器メーカから提供されている。下図はFLUKEが販売している製品を分類したものである。

図5. フルークが販売する主なハンドヘルド・デジタル・マルチメータ

図5. フルークが販売する主なハンドヘルド・デジタル・マルチメータ

危険を伴う電気工事などまで使える製品と設備や装置の点検、電子回路設計での測定、教育やホビーなどで使うことを目的とした製品に別れる。

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは屋内だけではなく屋外でも使うため、幅広い温度環境で使える製品や振動や衝撃に耐える製品があるのは屋内だけで使われる測定器と異なる点である。

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは主に画面に表示された電圧や電流などの電気量を人が見て使うことが多い。一部の製品では通信機能を持っているものがあり、測定結果をPCなどに転送することができる。

【ミニ解説】 ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの登場

デジタル・マルチメータは半導体の進化によって高性能化、小型化、低消費電力化が1970年代に進んだ。

1972年には米国のFLUKEと日本の横河電機から下図に示す電池駆動が可能な3.5桁小型デジタル・マルチメータが発売された。

図6. 1972年に発売された電池駆動が可能な3.5桁小型デジタル・マルチメータ

図6. 1972年に発売された電池駆動が可能な3.5桁小型デジタル・マルチメータ

出展1:フルーク英文カタログ「8000A the complete 3/2 digit multimeter」
出展2:ディジタルマルチメータType 2507“パルニック7”(横河技報 Vol.17 No.1 1973)

1972年当時はまだ低消費電力で駆動するデジタルICや液晶表示器がなかったため電池駆動は可能であったが短い時間しか使えなかった。

1977年にフルークが現在広く普及しているハンドヘルド・デジタル・マルチメータの原型となる8020Aを世界で初めて発売した。8020Aの消費電力は少なかったため電池寿命は200時間であり、直流電圧測定の基本確度が0.25%と回路計(アナログ・マルチメータ)と比較して高性能であったため、電気工事や設備点検の用途ではその後急速に普及していった。

図7. 1977年にフルークが発売した世界初のハンドヘルド型デジタル・マルチメータ8020A

図7. 1977年にフルークが発売した世界初のハンドヘルド型デジタル・マルチメータ8020A

FLUKE 8020Aは耐久性が高いことを市場が高く評価したため、その後に作られたフルークのハンドヘルド・デジタル・マルチメータは高耐久である特長を引き継いでいった。

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの構造と機能

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータで測定できる電気量と内部構造

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータは電気工事や設備点検に使われることを想定して作られているため、1つの測定器で多くの測定項目に対応している。例えばFLUKE 87Vでは下図に示すような多くの測定機能を持っている。

図8. ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの機能(FLUKE 87V)

図8. ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの機能(FLUKE 87V)

デジタル・マルチメータの基本構造はベンチトップ型とハンドヘルド型で大きな差はない。基本構造は入力で信号処理を行うアナログ回路、アナログ信号をデジタル情報に変換するA/D変換器、デジタル情報を数字で表示するためのマイクロプロセッサを含むデジタル回路に別れている。デジタル回路にはデジタル・マルチメータ全体の制御を行う機能も含まれる。

下図はFLUKE 8050Aの取扱説明書に公開されているブロック図を示す。なお最近のデジタル・マルチメータの取扱説明書にはブロック図が公開されていないが基本構造の考え方は同じである。

図9. 4.5桁デジタル・マルチメータ FLUKE 8050Aのブロック図

図9. 4.5桁デジタル・マルチメータ FLUKE 8050Aのブロック図

【ミニ解説】 測定器に使われるA/D変換器とは

デジタル・マルチメータの性能を決める回路の一つとしてA/D変換器がある。A/D変換器はアナログ信号を桁数が限られたデジタル信号(情報)に変換する回路である。A/D変換器の仕組みは下図に示すように、方眼紙の交点に変化するアナログ信号をプロットするのと同じ仕組みである。

図10. アナログ信号をデジタル情報に変換する仕組み

図10. アナログ信号をデジタル情報に変換する仕組み

変化するアナログ信号を正確にとらえるには横軸(時間軸)と縦軸(振幅軸)の細かい方眼紙を用いることが望ましい。しかし実際のA/D変換器では時間軸を細かくできるA/D変換器は振幅軸を細かくすることはできない。また振幅軸を細かくできるA/D変換器は時間軸を細かくすることはできない。デジタル・マルチメータでは振幅軸を細かくできるA/D変換器が使われている。デジタル・オシロスコープでは時間軸を細かくできるA/D変換器が使われている。

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータのパネル

ここではFLUKE 87Vを事例にパネルの説明をする。電気工事の現場などでは安全のため絶縁手袋をして作業を行うため、パネルは絶縁手袋を使っても操作が行えるようになっている。

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータのパネルには測定項目を選択する回転スイッチと機能を選択する押しボタン・スイッチがある。また入力端子は電流測定をする端子とその他の測定をするための端子に別れている。

図11. 測定項目を選択するための回転スイッチ(FLUKE 87V)

図11. 測定項目を選択するための回転スイッチ(FLUKE 87V)

図12. さまざまな機能を設定するためのスイッチ(FLUKE 87V)

図12. さまざまな機能を設定するためのスイッチ(FLUKE 87V)

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータの測定リード

ハンドヘルド・デジタル・マルチメータには付属品として測定リードなどが添付されている。例えばFLUKE 87Vでは下図に示すような付属品が本体に標準添付されている。

図13. FLUKE 87Vに標準添付される付属品

図13. FLUKE 87Vに標準添付される付属品

テスト・リードとデジタル・マルチメータを接続するコネクタは安全を確保するために金属部に人の指などが触れない構造になっている。

執筆協力:株式会社フルーク・ジャパン ホームページは こちら

執筆:魚住 智彦 測定器メーカに長年勤務して、現在は測定器の解説記事を執筆している

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