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FFTアナライザの基礎と概要 (第3回)

【インタビュー】小野測器のFFTアナライザ事業への取り組み

振動や音響の低周波信号を周波数分析したという要求は古くからあり、さまざまな測定器が登場したが、現在ではFFTアナライザがこの分野で一般的に使われる測定器となっている。このたびは長年に渡ってFFTアナライザを開発販売してきた小野測器の商品統括ブロックSVグループマネージャーの佐藤広幸様とリーダーの久尾信太郎様にお話を伺った。

図39. インタビューを受けて頂いたSVグループマネージャーの佐藤広幸様とリーダーの久尾信太郎様

図39. インタビューを受けて頂いたSVグループマネージャーの佐藤広幸様とリーダーの久尾信太郎様

Q1:FFTアナライザを取巻く市場動向について

1965年にJ. W. CooleyとJ. W. Tukeyが考案した高速フーリエ変換を、1967年に米国Time Data社が世界で最初に米国空軍向けにFFTアナライザを開発した。日本では小野測器が1973年にミニコンピュータを使ったFFTアナライザを製品化したのが始まりである。1970年代以降さまざまな測定器メーカからFFTアナライザが販売されるようになったが、1970年代から現在までFFTアナライザを作り続けている測定器メーカは世界的に限られている。
マイクロプロセッサの登場によってFFTアナライザの小型化は劇的に進み、振動や音響の分野で幅広く使われるようになった。1980年代はポータブル型のFFTアナライザのみであったが、1990年代以降はFFTアナライザを使ってさまざまな高度な解析を行うようになったため、PCベースのFFTアナライザが登場してきた。現在では可搬性の優れたポータブル型と機能の自由度が高いPCベース型が共存している。
FFTアナライザのハードウェアの小型化と高性能化を実現した要因は下記の電子部品の急速な進化がある。

  • 高速演算IC(マイクロプロセッサやDSP)
  • 高速高分解能A/D変換器
  • 半導体メモリ
  • ディスプレイ
  • 外部記憶装置(古くはフロッピーディスク、最近はメモリカード)

FFTアナライザは「機械装置や構造物の保守点検」と「音や振動の環境計測」の現場用途と、「製品開発で使われる用途」に大きく別れている。将来、IoTの普及によって機器や構造物にFFT解析ができる装置や回路が多く組込まれるようになれば、保守点検の需要は汎用測定器からIoT装置に置き換わる可能性はある。
一方、自動車やオフィス機器など機械の分野では静音化や不快な音の発生を抑制することが求められているので、新たにFFTアナライザの需要は拡大している。

Q2:小野測器のFFTアナライザの強み

FFTアナライザ事業での小野測器の強みは大きく別けて3つあると考えている。最初はハードウェアである。小野測器はFFTアナライザが市場に登場した1970年代初めから現在に至るまで長年に渡って市場の要求を満たす製品を作り続けてきた強みがある。

図40. 小野測器が今までに開発したFFTアナライザ

図40. 小野測器が今までに開発したFFTアナライザ

2番目はセンサである。振動や音響の測定には必ずセンサが必要となる。小野測器は測定対象に合わせたセンサを提供できる能力を持つ強みがある。一例として音源可視化マイクロホンプローブとFFTアナライザを組み合わせた4ch ビームフォーミング 音源可視化システムは2017年に音響学会から技術開発賞が贈られた。

図41. 音響学会から技術開発賞が贈られた4ch ビームフォーミング 音源可視化システム

図41. 音響学会から技術開発賞が贈られた4ch ビームフォーミング 音源可視化システム

3番目はソリューション提供力である。小野測器は複雑な機械である自動車分野に注力してきた。小野測器は自動車開発で要求される振動や音響の計測ノウハウを多く持っている強みがある。小野測器が得た測定ノウハウを広く多くの技術者に使ってもらえるようソフトウェアパッケージとして商品化している。2003年に発売した時系列データ解析ツール「Oscope」は小野測器の測定器だけではなく、広く市場で使われている横河計測、日置電機、グラフテック、ティアック、IPG Automotiveの波形測定器にも対応した解析ソフトウェアは現在に至るまで多くの開発の現場で使われている。

Q3:最近の新しい取り組みについて

振動や音響の測定は測定器の使い方を知っているだけでは再現性のよい正しい測定をすることができない。測定には幅広い知識や深い経験が必要なため、技術や技能の習得が重要となる。
小野測器では測定の基礎知識の習得から技能を獲得する実測実習までのトレーニングコースを用意して、お客様に測定の腕を磨いて頂く機会を用意している。トレーニングコースには初心者を対象にした超入門コースから特定の測定を深く理解するための上級コースまで用意しており、トレーニングを専門に行う部署がセミナーの企画と運営を行っている。
新横浜にある小野測器本社に2019年3月にセミナールームと受講者の方が実測実習できる環境を用意した。またセミナーは北海道から九州まで全国各地でも行っているので、お客様が近くで開催されるセミナーに参加できるようにしている。

図42. 2019年3月に開設した新しいショールームとセミナールーム

図42. 2019年3月に開設した新しいショールームとセミナールーム

また、小野測器は先端分野のエンジン開発を支援することを目的に社内に「慶應義塾大学SIPエンジンラボラトリー」を構築した。ここでは国が進める戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)のひとつである「「革新的燃焼技術」の研究が5年間に渡って行われ、2019年3月末に研究が終了した。研究成果は戦略的イノベーション創造プログラムのホームページに公開されている。
2019年9月には小野測器のソリューション提供能力を高めるために、宇都宮テクニカル&プロダクトセンターにある自動車実験棟に完成自動車の振動や音響の評価試験対応ベンチを構築した。これによりタイヤなどの各コンポーネントに起因する車室内への騒音伝播寄与度などの評価試験が可能となった。
小野測器は測定器を市場に提供するだけではなく、今後とも振動や音響の測定分野で入門者から専門の研究者まで幅広く支援を行っていく。


執筆協力:株式会社小野測器 ホームページは こちら

執筆:横河レンタ・リース株式会社 事業統括本部 魚住 智彦

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