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FFTアナライザの基礎と概要 (第1回)

FFTアナライザを選定するための仕様の理解

FFTアナライザのカタログに書かれている仕様を理解して用途にあった測定器を選ぶ必要がある。ここでは主な仕様項目について解説を行う。

アナログ入力

FFTアナライザは電圧信号だけではなく、さまざまな振動や音響のセンサを接続して利用する。プリアンプ内蔵のセンサを容易に接続できるようにアンプを駆動する定電流電源を組込んだ製品が多い。プリアンプ内蔵のセンサのカタログにはCCLD(Constant Current Line Drive)、IEPE(Integrated Electronics Piezo-Electric)と書かれている。また各センサメーカが固有の呼び方をしている場合もあるので注意が必要である。例えばPCB Piezotronics社(米国)のICP、Brüel & Kjær社(デンマーク)のDelta Tronなどがある。

FFTアナライザは1chの製品から100chを超える製品まである。非絶縁で測定をする場合は測定点からコモンモード電流が信号線に流れる可能性がある。このため多くのFFTアナライザでは絶縁入力となっている。一部の製品では入力が絶縁されていないものがあるため、注意が必要である。測定対象に高いコモンモード電圧が印加されている場合はFFTアナライザのケース‐端子間の耐電圧では不足する場合があるので、そのような場合は耐電圧の大きな絶縁アンプを外部に接続する必要がある。

入力信号がフルスケールを超えてしまうと波形ひずみが生じて、信号の正しい周波数分析ができなくなる。FFTアナライザには過大入力を検出して表示する機能があるので、過大入力でないことを確認してから測定を行う。

周波数範囲

振動や音響の周波数分析を行う場合は100kHzまでの周波数帯域があれば十分である。最近のFFTアナライザの多くは24ビットの高分解能A/D変換器を搭載しており、100kHzまでの周波数分析を行える能力がある。

FFTアナライザの仕様には振幅フラットネスや高調波ひずみの特性について記載されている。これらの仕様は測定結果に影響する場合があるので、機種選定では確認する必要がある。

ダイナミックレンジ

アナログ入力仕様で重要なのはダイナミックレンジである。ダイナミックレンジが大きいと小さな信号から大きな信号まで同じレンジで測定することができる。同じレンジであればレンジ間誤差を考慮する必要はなくなる。最近のFFTアナライザは100dB以上のダイナミックレンジを持っている。

デジタルオシロスコープやメモリレコーダにはFFT解析機能はあるが、FFTアナライザにあるダイナミックレンジの仕様の記載はない。

フィルタ

FFTアナライザにはエリアジングを防止するためのフィルタがA/D変換器の入力部に取り付けられている。このフィルタは広いダイナミックレンジで特性が保証されている。

また、騒音測定を行う場合には人の可聴特性に合わせたフィルタを使用する。A特性は小さい音、C特性は大きい音の聴感として近似して作られている。Z(または FLAT)特性は平たんな特性となっている。

A、C、Zのフィルタ特性はJIS C 1509-1(IEC 61672-1)に掲載されている。

図11. 周波数重み特性(A、C、Z)

図11. 周波数重み特性(A、C、Z)

騒音計とFFTアナライザを組み合わせて測定を行う場合はいずれの製品にも可聴特性フィルタ設定機能があるため、二重にフィルタを設定しないように注意が必要である。

波形メモリ

周波数分析したい信号が安定であれば下記に示すように波形メモリ容量(点数)と分解能の関係を満たせば十分である。

表1. データ長(サンプリング点数)、周波数レンジ、周波数分解能、時間波形の表示長の関係
周波数
レンジ
4,096 点/1,600 ライン 8,192 点/3,200 ライン 16,384 点/6,400 ライン
分解能
(Δf)
時間波形の
表示長
分解能
(Δf)
時間波形の
表示長
分解能
(Δf)
時間波形の
表示長
100 kHz 62.5 Hz 16 ms 31.25Hz 32 ms 15.625 Hz 64 ms
10 kHz 6.25 Hz 160 ms 3.125Hz 320 ms 1.5625 Hz 640 ms
1 kHz 625 mHz 1.6 s 156.25 mHz 3.2 s 312.5 mHz 6.4 s
100 Hz 62.5 mHz 16 s 31.25 mHz 32 s 15.625 mHz 64s
10 Hz 6.25 mHz 160 s 3.125 mHz 320 s 1.5625 mHz 640 s
1 Hz 625 μHz 1,600 s 312.5 μHz 3,200 s 156.25 μHz 6,400 s
100 mHz 62.5 μHz 16,000 s 31.25 μHz 32,000 s 15.625 μHz 64,000 s
10 mHz 6.25 μHz 160,000 s 3.125 μHz 320,000 s 1.5625 μHz 640,000 s

実際の現象は安定していない場合があるため、波形メモリは測定対象にあわせて選択することが必要となる。特に現象が長周期で変動する場合は分析した周波数分解能と記録時間から波形メモリ容量を決める必要がある。

リアルタイムレート

FFTアナライザ内部ではA/D変換器によってデジタル化された波形信号はいったんバッファメモリに取り込まれてからFFT演算が行われる。FFT演算を行う時間より波形を取り込む時間が長い場合は現象を切れ目なく周波数分析ができるリアルタイム動作となる。一方FFT演算を行う時間より波形を取り込む時間が短い場合は現象の一部が周波数分析できなくなる非リアルタイム動作となる。リアルタイムレートとは現象を途切れなく周波数分析できる上限を意味する。

FFT演算を行う演算処理ICが高速化してきたので、最近のFFTアナライザでは高い周波数まで複数chを途切れなく周波数分析できる。

図12. リアルタイム動作と非リアルタイム動作

図12. リアルタイム動作と非リアルタイム動作

周波数や振幅の変動などをより細かく観測できるようにするため、FFT演算をオーバラップして行う工夫がされている。

図13. オーバラップ処理時のリアルタイム動作

図13. オーバラップ処理時のリアルタイム動作

アナログ出力

FFTアナライザを用いてアクチュエータなどの伝達関数を測定するような場合はアナログ出力を持った製品を選択する。伝達関数を求める用途は多くないため、アナログ出力はオプションとなっていることが多い。

アナログ出力が絶縁されている製品と絶縁されていない製品があるので、用途に合わせて選ぶ必要がある。

アクチュエータを駆動するためには外付けのアンプやドライバが必要となるため、利用するアンプやドライバの特性をあらかじめ知っておく必要がある。

電源

FFTアナライザは屋内の実験室で使う場合は商用の交流電源を使えるが、屋外でFFTアナライザを利用する場合は商用電源が使えない場合がある。特にFFTアナライザを設備診断で利用する場合は電池駆動ができる製品を選ぶのがよい。電池を利用して使う場合は駆動できる時間を予め知っておく必要がある。FFTアナライザを利用する時間が駆動時間より長くなると予測される場合は電池が交換できる製品を選ぶ必要がある。

冷却方式

FFTアナライザを音響測定で利用する場合は測定対象の音源以外から騒音が発生すると測定結果に影響を与えるので、FFTアナライザには騒音源となる冷却ファンがないことが望ましい。

外部制御

FFTアナライザにはアナログ入力端子以外に、PCなどに接続して設定や測定結果の転送を行うための通信制御ポート、測定結果や設定値を保存するための外部メモリポート、測定開始点を決める外部トリガ入力、トラッキング解析を行うための外部サンプリング入力がある。

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