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デジタルオシロスコープの基礎と概要 (第2回)

オシロスコープのトリガ機能

波形観測の基準点がトリガ点になる。実際の波形観測ではシンプルなエッジトリガが使われることが多いが、最近のデジタルオシロスコープでは信号を組み合わせてのトリガや観測信号の特長を抽出してトリガを得ることもできるようになっている。

エッジトリガ

トリガソース、レベル、スロープ(向き)を決めて観測の基準点(トリガ点)とする。トリガソースとなる波形はオシロスコープに接続されている信号のいずれかを選択できる。

図28. レベルトリガの設定

図28. レベルトリガの設定

トリガとなる信号にノイズが重畳している場合は、低帯域除去(LF REJ)フィルタや高帯域除去(HF REJ)フィルタの設定もしくはトリガ閾値のヒステリシスを上げる設定をすれば安定したトリガ点を得ることができる。もしフィルタを使っても安定したトリガ点が得られない場合はほかの信号からトリガを得ることになる。

エッジトリガを設定したときは合わせてトリガモードの設定も行う。これによってオシロスコープのトリガ回路の動作は決まる。トリガモードには下記の3通りがある。繰り返し現象を観測するときはノーマル・モードもしくはオート・モードを選択する。単発現象を観測するときはシングル・モードを選択する。

図29. トリガモードの選択

図29. トリガモードの選択

アナログオシロスコープを使っていた時は繰り返し周期の長い複雑な波形を観測するときはホールドオフ機能を使ってトリガ検出を禁止する時間の設定をおこない安定した波形を観測する機能を持っていた。デジタルオシロスコープでもこの機能を踏襲しているが、波形メモリの長いオシロスコープではシングル・モードを使って波形を取り込んでから、スクロール機能を使って波形を観測するほうが便利である。

高度なトリガ

アナログオシロスコープではエッジトリガ以外には電源同期トリガ、テレビトリガくらいしか搭載されていなかったが、ミドルクラス以上のデジタルオシロスコープではエッジトリガ以外にさまざまなトリガが用意されている。例えばテクトロニクス社のMDO4000に搭載されている高度なトリガとして「シーケンス(B トリガ)、パルス幅、タイムアウト、ラント、ロジック、セットアップ/ホールド時間、立ち上り/立ち下り時間、ビデオ、拡張ビデオ(オプション)、パラレル(Opt.MDO4MSO が必要)」が用意されている。高度なトリガは測定器メーカや製品によって搭載されている機能が異なるので注意が必要である。高度なトリガは組み込み機器のデジタル回路を評価するために便利な機能である。

パラメータ測定および演算機能

デジタルオシロスコープは取り込んだ波形データをそのまま表示するだけではなく、波形のデータ値を表示したり、目的にあった演算を行い加工する機能を持っている。

波形パラメータ測定

アナログオシロスコープにもあったカーソル表示に加えて、各種波形パラメータを抽出できる機能を持っている。例えばテクトロニクス社のMDO4000では30項目の波形パラメータの抽出ができ、そのうち同時に8項目の表示ができる。

・MDO4000にある30項目の波形パラメータ

周波数、周期、遅延、立ち上り時間、立ち下り時間、正のデューティ・サイクル、負のデューティ・サイクル、正のパルス幅、負のパルス幅、バースト幅、位相、正のオーバシュート、負のオーバシュート、トータル・オーバシュート、P-P、振幅、ハイ、ロー、最大値、最小値、平均値、サイクル平均値、実効値、サイクル実効値、正のパルス・カウント、負のパルス・カウント、立ち上りエッジ・カウント、立ち下りエッジ・カウント、面積、サイクル面積

観測できる波形パラメータは測定器メーカや製品によって異なるので、この機能を利用する場合は製品仕様を事前に確認する必要がある。

四則演算機能

取り込んだ波形データに四則演算を行って新たなデータを作り出す機能である。例えば、この機能を使う用途して電源回路のスイッチング損失測定である。スイッチング素子の両端の電圧を差動プローブにより測り、スイッチング素子に流れる電流を電流プローブによって測定する。得られた電圧値と電流値を掛け算すれば損失した電力が得られる。ただし、オシロスコープの精度は高くないので、測定した損失の確度を規定することは難しい。このため測定結果は目安として利用することになる。

図30. スイッチング電源のスイッチング損失測定

図30. スイッチング電源のスイッチング損失測定

スイッチング損失を測定する際には電圧と電流の位相を合わせる必要があるため、下記のようなツールを使って測定前にスキュー調整を行う。

図31. デスキュー・パルス・ジェネレータとデスキュー・フィクスチャ

図31. デスキュー・パルス・ジェネレータとデスキュー・フィクスチャ

提供:テクトロニクス社

FFT演算機能

オシロスコープは時間軸の信号波形を観測するものであるが、FFT演算を行って周波数軸で波形を観測することができる。ただしオシロスコープに搭載されたA/D変換器の分解能が高くないので高ダイナミックレンジの観測ができない。

観測した信号にノイズが重畳している場合、FFT演算機能を使うとノイズ成分からノイズ発生源を特定できることがある。

FFT演算を行う場合は窓関数を設定することになる。オシロスコープに取り込んだ波形を切り出してそのままFFT演算を行うと、切り出した波形の両端が不連続となり、結果としてFFT演算した結果のパワースペクトラムがピークの近傍に漏れ出してしまう。

図32. 時間窓長Tが入力信号周の整数倍でないときのFFT分析例

図32. 時間窓長Tが入力信号周の整数倍でないときのFFT分析例

出典:計測コラム 基礎からの周波数分析(14)-「DFT(FFT)と時間窓」(小野測器)

そこで、取り込んだ波形に窓関数をかけて、漏れ(リーケージ)を防ぐようにする。窓関数にはさまざまなものがあるが、一般には方形(レクタンギュラ)、ハニング、ハミング、フラットトップなどがある。

図33. ハニング窓をかけた時のFFT分析例

図33. ハニング窓をかけた時のFFT分析例

出典:計測コラム 基礎からの周波数分析(14)-「DFT(FFT)と時間窓」(小野測器)

時間ジッタ測定機能

オシロスコープで取り込んだ波形データからヒストグラム作り、統計処理によって時間ジッタを求めることができる。時間ジッタは高速デジタル回路や通信などのエラーレートと相関があるため、時間ジッタ測定をオシロスコープだけで実現できることは評価の効率化につながる。

時間ジッタには「周期ジッタ(P)、サイクル間ジッタ(C)、タイム・インターバル・エラー(TIE)」があり、それぞれの関係は下記の通りである。

図34. さまざまなジッタ測定

図34. さまざまなジッタ測定

周期ジッタはトリガ点を固定すれば、波形を重ね書きすることにとって簡単に観測される。タイム・インターバル・エラーを測定するには外部から基準クロックを得るか、クロック位置を推定する機能が必要となる。最近のオシロスコープではすべてのジッタを測定できる機能が搭載されているものがある。

波形データの印字、保存、通信

オシロスコープに取り込んだ波形データを印字、保存、通信する機能は本体に組込まれている。印字のためのプリンタをオシロスコープに搭載している機種もある。プリンタを内蔵していいない製品は外部のプリンタに観測結果を印字する機能を持っている。

外部記録メディアは過去にはフロッピーやPCMCIAカードなどが使われていたが、現在ではUSBメモリが主流となっている。

オシロスコープの制御やデータ転送を通信経由で行うことができるが、製品によって対応している通信規格が異なっているため、予め確認する必要がある。最近の製品はGPIBに対応していないものが多くなってきたので、GPIBを使ったシステムを構築する際はGPIB-USBアダプタを用意する必要がある。

図35. GPIB-USBアダプタ

図35. GPIB-USBアダプタ

提供:テクトロニクス社

利用上の一般的な注意点

オシロスコープはさまざまな場所で多様な測定に使われため、安心して利用するための注意が必要である。

コモンモード電圧を持った信号観測での注意点

絶縁入力型のオシロスコープを除くと、多くのオシロスコープの入力端子のコモンはケースに接続されている。このため接続する対象物にコモンモード電圧があるときは注意が必要である。

図36. コモンモード電位を持った信号測定時の短絡事故

図36. コモンモード電位を持った信号測定時の短絡事故

コモンモード電位を持った信号を測定するとき、オシロスコープを接地しないで使うとオシロスコープのケースに触れることによる感電事故の危険やオシロスコープの破損の恐れがあるので絶対にしてはいけない。コモンモード電位を持った信号を測定するときは差動プローブもしくは絶縁プローブを使用する。

静電気への注意

人に蓄えられた静電気が接地された金属に触れたときに電流が流れることがある。特に乾燥した冬は静電気の電圧が高くなる傾向にある。

表3. 環境による静電気発生量と相対湿度の関係
発生環境 発生する静電気(V)
10~20%RH 65~90%RH
じゅうたんを歩行する人 35,000 1,500
ビニール床を歩行する人 12,000 250
作業机で作業する人 6,000 100

出典:米国国防省ハンドブック:DOD-HDBK-263

オシロスコープ本体にある信号端子に触れる構造になっていないため、容易に破損することはないが、オシロスコープ用の低電圧差動プローブやアクティブ・シングルエンドプローブには最大非破壊入力電圧が規定されており、静電気によって高い電圧が印加された場合は破損する恐れがある。

低電圧差動プローブやアクティブ・シングルエンドプローブを使う場合は、静電気によるプローブの破損を防ぐため、帯電防止リスト・ストラップを使用することを勧める。

図37. 帯電防止リスト・ストラップを装着しての作業

図37. 帯電防止リスト・ストラップを装着しての作業

落下や衝撃による破損を防ぐ

過去にはオシロスコープを専用台車に乗せて使うことが多かったが、最近のオシロスコープは小型軽量になってきているため、実験ベンチの上に置いて使われることが多い。また入力数が多くなり、オシロスコープに接続されるケーブルは多くなった。このためオシロスコープを使う実験ではケーブルを引っ掛けてオシロスコープを落下させる危険性がある。オシロスコープを机の端に置くなど避けるようにして利用することを勧める。最近のオシロスコープにはノートPCで使われている盗難防止用のセキュリティーワイヤーロックが使えるものがあるので、これを利用して落下防止をすることもできる。

また、オシロスコープを屋外に持ち出して利用する場合は、画面やコネクタなどが突起物や建物の壁にぶつかって破損する危険がある。オシロスコープの全面カバーは取り付けて、キャリングケースにプローブ、電源コード、取扱説明書などを一緒に入れて持ち歩くことを勧める。

図38. ソフト・キャリング・ケース AC2100

図38. ソフト・キャリング・ケース AC2100

提供:テクトロニクス社

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