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デジタルオシロスコープの基礎と概要 (第1回)

【コラム】デジタルオシロスコープの登場に貢献した高速A/D変換器

デジタルオシロスコープの原型は1970年代に開発されたが、多くのオシロスコープメーカから製品が販売されるようになり、普及が拡大したのは1980年代後半になってからである。この背景にはテレビ画像処理のデジタル信号処理の開発がある。日本ではNHK放送技術研究所が1970年代中ごろからテレビ用の高速A/D変換器の開発が始まり、1980年代に入ってから国内の半導体メーカがテレビ向けに並列型高速A/D変換器を実用化していった。元東京工業大学教授の松澤昭氏は松下電器産業(現在のパナソニック)に在籍されたときに高速A/D変換器を開発したことで知られている。

海外でも通信やレーダなど幅広い用途での高速A/D変換器の研究は進み、その中で高速A/D変換器の動的な評価法が開発されるようになった。動的な仕様のひとつである有効ビット数(ENOB:Effective number of bits)はテクトロニクス社が1978年に発売した80MHz帯域、200MS/sの波形記憶装置7612Dで仕様と採用したのが始まりである。

図20. 有効ビット数を仕様に始めて記載した 7612D

図20. 有効ビット数を仕様に始めて記載した7612D(テクトロニクス社)

提供:テクトロニクス社

現在、高速A/D変換器の進化を推進しているのは通信分野、医療画像分野、非破壊検査分野などである。特に高周波のアナログ信号処理を行っていた無線通信機器が、高速高分解能A/D変換器の登場によって回路の一部がデジタル化し、高度な信号処理を少ない部品点数で行えるようになった。

下記の図から携帯電話基地局の基本構成が高速A/D変換器の登場によってアナログ回路が大幅に簡素化されたことが判る。

図21. 高速A/D変換器を無線通信機器のダウンコンバータ回路と従来システムの比較

図21. 高速A/D変換器を無線通信機器のダウンコンバータ回路と従来システムの比較

出典:12ビットADコンバータで4Gサンプル/秒を達成、無線通信機器の受信回路の大幅な簡略化が可能に(日本テキサス・インスツルメンツ)

高速A/D変換器が広く普及したことによって、オシロスコープ市場に新興国の測定器メーカも容易に参入できるようになった。現在では1GHz帯域くらいまでのオシロスコープは新興国メーカで作れるようになってきた。


執筆協力:テクトロニクス社 ホームページは こちら

執筆:横河レンタ・リース株式会社 事業統括本部 魚住 智彦

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