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デジタルオシロスコープの基礎と概要 (第1回)

オシロスコープをさまざまな視点で分けてみる

現在、市場にある多くのデジタルオシロスコープは使う目的によって分類できる。ここではさまざまな視点でオシロスコープを分けてみる。

画面の有無で分ける

古くからオシロスコープの多くは波形を見るための画面が本体についていた。画面のない単発現象の波形観測を行う測定器を過去にはウェーブメモライザやトランジェントレコーダなどといっていた。最近ではパソコンやタブレットなどの性能が向上したため、本体に画面がなくてもパソコンなどからオシロスコープとほぼ同じ操作ができるようになった。画面のないオシロスコープは小型化が可能なため、研究や生産で利用する装置を構築するには最適となる。

2017年に発売されたテクトロニクス社の5シリーズ MSO ロープロファイルは画面のないオシロスコープである。ベースとなっている5シリーズ MSOは画面のあるオシロスコープである。

図15. 画面のないデジタルオシロスコープを複数台ラックマウントした計測システムの事例

図15. 画面のないデジタルオシロスコープを複数台ラックマウントした計測システムの事例

提供:テクトロニクス社

アナログ入力数で分ける

オシロスコープは位相が観測できるようアナログ2入力が一般的であったが、組込みシステムをデバックや、複数の電圧を供給する電源システムの動作シーケンスを評価するには多入力が必要なため、最近では大きな画面を搭載した8入力のデジタルオシロスコープがテクトロニクス社、テレダイン・レクロイ社、横河計測から販売されるようになってきた。

アナログ入力形式で分ける

一般的なオシロスコープの入力はコモンが共通となっている。このため各チャネルのコモンは接地電位に合わせる必要がある。しかし測定対象によってはコモンモード電位が異なることがあるため、入力が絶縁されていることが要求される。特に現場での計測を行う場合、安全に波形観測できることが要求されるため絶縁入力のオシロスコープが必要となる。

2006年に発売されたテクトロニクス社の絶縁入力デジタルオシロスコープを下記に示す。

図16. 絶縁入力のオシロスコープ TPS2000B

図16. 絶縁入力のオシロスコープ TPS2000B(テクトロニクス社)

提供:テクトロニクス社

ロジック信号対応で分ける

デジタル回路とアナログ回路が混在した基板の波形観測をする場合は、複数チャネルのアナログ信号観測と複数ビットのデジタル信号を同時に観測する必要がある。このような目的で波形観測を行う場合はアナログ/デジタル混在信号に対応したオシロスコープを選ぶ必要がある。

デジタル波形の観測に特化したロジックアナライザは高度なトリガ機能と多くの入力端子を持っているが、オシロスコープにあるデジタル信号観測機能はロジックアナライザより簡易的なものとなっている。

2011年に発売されたテクトロニクス社のアナログ/デジタル混在の波形観測ができるオシロスコープを下記に示す。

図17. アナログ/デジタル混在の波形観測ができる MDO4000

図17. アナログ/デジタル混在の波形観測ができる MDO4000(テクトロニクス社)

提供:テクトロニクス社

使われる場所で分ける

多くのオシロスコープは屋内の実験室や生産ラインで使われる。このため多くのオシロスコープは商用電源で駆動するように作られている。屋外に設置されている設備の点検でオシロスコープを利用する場合などでは電池で動作する小型なオシロスコープが必要となることがある。

テクトロニクス社では電池で動作するオシロスコープをいくつか用意しているが、屋外での利用を主な用途とした2011年に発売されたTHS3000の形状は屋外での作業に適したものとなっている。

図18. 屋外での利用に適したオシロスコープ THS3000

図18. 屋外での利用に適したオシロスコープTHS3000(テクトロニクス社)

提供:テクトロニクス社

オシロスコープの選定ポイント

市場には多くのメーカからさまざまなオシロスコープが販売されている。その中から自分にあったオシロスコープを選ぶポイントについて解説する。

使い慣れていること

オシロスコープはエンジニアが毎日使う道具であるため、今まで使っていた製品やメーカのものが操作に迷うことなく使える。特に最近のオシロスコープは高度な機能が多いため、新しい製品で目的の機能を使いこなすまでに時間が必要となっている。

また、オシロスコープとプローブを接続するインタフェースは一般にBNCコネクタではあるが、使い勝手をよくするために各社それぞれの固有のインタフェースを持っている。インタフェースの変換コネクタは販売されているので、便利な機能の利用は限定される可能性はあるが、オシロスコープへの信号接続は可能である。

同じ測定器メーカでも複数のインタフェースを持つため、すでに保有しているプローブの接続が容易なオシロスコープを選ぶのがよい。下記にはテクトロニクス社が採用しているオシロスコープ - プローブ間のインタフェースの種類を示す。

図19. テクトロニクス社が提供するさまざまなオシロスコープ - プローブ間インタフェース

図19. テクトロニクス社が提供するさまざまなオシロスコープ - プローブ間インタフェース

測定したい信号のアナログ特性の把握

観測した波形の特性を事前に知っておく必要がある。一般には下記の特性である。

  • 同時に観測したい信号の数
  • 観測に必要な周波数帯域
  • 信号の振幅値の範囲
  • 連続信号か、単発もしくは発生頻度の少ない突発的な現象か
  • 信号のセンシング、電圧以外はセンサが必要
  • 信号源のインピーダンス
  • 信号に重畳するノイズの性質

トリガ源の選定

波形観測の基点となるトリガ源を決める。トリガ源は安定した信号でないと信頼できる波形観測ができないので、トリガ源となる信号の特性を事前に知ることが必要となる。

また、オシロスコープが持つトリガ機能を使って安定したトリガが得られることを確認する必要がある。

単発信号観測では観測時間と周波数帯域を決める

デジタルオシロスコープではサンプリング周波数によって観測できる信号の周波数帯域が決まっている。観測時間が長いとオシロスコープに搭載された波形メモリに必要な現象を取り込むことができないので、サンプリング周波数を下げてすべての現象を取り込むことになる。ただしサンプリング周波数を下げると観測できる最大周波数は低下する。

このためオシロスコープに搭載されている波形メモリが必要な容量であるか確認する必要がある。

波形演算処理を決める

オシロスコープで取り込んだ波形を演算処理して観測したい場合は、演算内容を決めておく必要がある。但し多くのオシロスコープの分解能は8ビットであるため、演算精度がどの程度得られるかを考慮する必要がある。

期待する演算精度が得られるオシロスコープのA/D変換器の分解能を持っているかを確認する必要がある。

利用環境の確認

オシロスコープはさまざまな環境で利用されるため、使われる環境にあったオシロスコープを選ぶ必要がある。

電池駆動でオシロスコープを利用する場合は電池で動かせる時間を事前に確認して、必要であれば予備電池を準備することが必要である。

測定器メーカのサポート

オシロスコープを利用する際には使い方が判らないときの測定器メーカ支援が必要となるため、問合せ窓口を持った測定器メーカを選ぶのがよい。また修理や校正への対応が迅速にできることも重要である。

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