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デジタルマルチメータの基礎と概要 Part2 (第3回)

【インタビュー】キーサイト・テクノロジーのデジタルマルチメータ事業への取り組み

デジタルマルチメータが登場した1950年代後半から現在に至るまで多くの製品を市場に提供してきたキーサイト・テクノロジー株式会社アジアパシフィックマーケティングのマーケットイニシアティブマネージャの高野修平様にお話を伺った。

図43. インタビューを受けて頂いた高野修平様

図43. インタビューを受けて頂いた高野修平様

質問1:デジタルマルチメータを取巻く市場動向について

デジタルマルチメータの基本的な技術は1960年代に開発された。ヒューレット・パッカードが1959年に発売した最初のデジタル直流電圧計「405AR」は3桁で価格は当時の定価で825ドル(現在の貨幣価値では約7000ドル)と高価であったため、利用できる人は限られていた。それ以前にもデジタル表示ができる電圧計はあったが、古くからある電位差計を機械式のリレーを使って自動化したものであった。ヒューレット・パッカードの製品は現在のデジタルマルチメータにつながる積分回路を使う当時としては画期的な電子式のデジタル電圧計であった。
その後、半導体の進歩などによって低価格が実現できるようになり、1970年代から普及価格帯のデジタルマルチメータが登場して、開発、生産、保守の現場で多く使われるようになった。現在の高性能デジタルマルチメータの要素技術は1988年に発売された8.5桁デジタルマルチメータ3458Aによってほぼ確立された。最新のデジタルマルチメータのTruevoltシリーズ 6.5/7.5桁デジタルマルチメータには、3458Aで開発されたマルチスロープ積分型A/D変換器を進化させたものが使われている。
半導体の進歩によってデジタルマルチメータは多くの測定器メーカで作れるようになったが、測定器の校正に使う精度の高いデジタルマルチメータから汎用性の高いデジタルメータまで作れる測定器メーカは世界でも限られている。
最近ではデジタルマルチメータの高機能化が進み、グラフィック表示を持った製品が登場するようになった。高機能なデジタルマルチメータを使うとパソコンを使わなくてもかなりの解析ができるようになっている。
デジタルマルチメータの要素技術は高性能な高分解能A/D変換器である。この技術を持つことによって高性能なデータロガー、高周波パワーメータ、フェムト・ピコアンメータなどを作ることができるので、キーサイト・テクノロジーはデジタルマルチメータを重要な製品と考えている。

図44. データロガー・システム(DAQ970A、キーサイト)

図44. データロガー・システム(DAQ970A、キーサイト)

質問2:キーサイト・テクノロジーのデジタルマルチメータの強みについて

キーサイト・テクノロジーの強みの1つは長年に渡って、先進的な技術開発を行って、さまざまなデジタルマルチメータを世界市場に継続して提供してきたことと考えている。現在、多くのお客様がキーサイト・テクノロジーのデジタルマルチメータを使って頂いていることは大きな強みである。キーサイト・テクノロジーの最新のデジタルマルチメータTruevoltシリーズは、最近の電子機器の動向にあわせて、微小電流で動作するIoT機器や半導体部品から、高性能ノートパソコンのように大きい電流を必要とする電子機器まで幅広い用途で使えるように電流レンジを拡大した。
2つ目はベンチトップ、ハンドヘルド、PXIモジュール、USBモジュールといったさまざまな形態のデジタルマルチメータをキーサイト・テクノロジーから提供することができる。このためお客様の利用形態に最適な製品を提案できる強みがある。

図45. キーサイト・テクノロジーのさまざまなタイプのデジタルマルチメータ

図45. キーサイト・テクノロジーのさまざまなタイプのデジタルマルチメータ

3つ目はデジタルマルチメータを利用いただくための支援が充実していることである。校正や修理といった基本的な支援から、技術情報の提供までサポートが充実しているのが強みである。本社・八王子事業所にあるキーサイトケア・コンタクト・センターでは常時サポート用測定器を300台常備して、お客様の問合せに対して実機を操作しながら支援ができる体制を構築している。

図46. 多くのサポート用測定器を保有して客先支援を行うキーサイトケア・コンタクト・センター

図46. 多くのサポート用測定器を保有して客先支援を行うキーサイトケア・コンタクト・センター

質問3:最近の新しい取り組みについて

測定器の高度化やシミュレーションを活用した開発などの環境変化によって、新たな市場要求が生まれていると考えている。特に開発スピードが要求される分野では高度な測定器を正しく使うための習得時間や利用する測定器を最新のファームウェアにアップデイトする手間などを確保することが難しくなっている。また、高度な測定では正しい測定を行うために、知識や経験をもった計測エンジニアの支援が必要な場合もある。
このような新たな開発の課題に対して、キーサイト・テクノロジーは「KeysightCare」という新しいサービスモデルを提案し、優先サポートなどお客様のニーズに合わせて選択できるサービスレベル契約や生産性向上ツール、ナレッジデータベースなどを提供している。
また、事業部体制を製品ベースからお客様のインダストリーベースへと見直し、よい製品を作るだけではなく、お客様の課題に応じて、必要となるハードウェア、ソフトウェア等を組み合わせソリューションとして提供できる体制をとっている。
さらに、効率のよい設計環境や測定環境も提供していくことが必要と考えている。測定器を使う場面は研究開発から生産や保守までシームレスにつながっている。キーサイト・テクノロジーは、より効率的な環境を提供することを目指し、「PathWave」ソフトウェアプラットフォームという考え方のもとに、設計作業、測定作業、測定器の管理作業などの効率化を進める提案をしている。

図47. PathWaveプラットフォームの概念図

図47. PathWaveプラットフォームの概念図

デジタルマルチメータやオシロスコープなどベーシックな測定器は幅広い用途に使われているため、今後とも大切に育てていく。


執筆協力:キーサイト・テクノロジー株式会社 ホームページは こちら

執筆:横河レンタ・リース株式会社 事業統括本部 魚住 智彦

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