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デジタルマルチメータの基礎と概要 Part2 (第1回)

【コラム】電子測定器の進化をリードしているキーサイト・テクノロジー

ヒューレット・パッカードからキーサイト・テクノロジーへ

1939年にスタンフォード大学の電気工学科を卒業したビル・ヒューレット(Bill Hewlett)とデビッド・パッカード(David Packard)が電子計測器を作るヒューレット・パッカードの設立したのがキーサイト・テクノロジーの原点である。

現在でもカリフォルニア州パロアルト市にはヒューレット・パッカード創業時に作業場として使っていたガレージが残されている。このガレージは、1987年にカリフォルニア州から「シリコンバレー生誕の地(The Birthplace of Silicon Valley)」として名所の指定を受けた。また、2007年にはアメリカ合衆国の国立公園局が史跡として登録した。

図21. キーサイト・テクノロジーのルーツである、ヒューレット・パッカード発祥の地となったガレージ

画像の説明文

提供:キーサイト・テクノロジー

ここで初めて作られた製品はオーディオ発振器200Aである。このオーディオ発振器はウォルト・ディズニーのアニメ映画「ファンタジア」で使う音響機器の試験などに使われた。

ヒューレット・パッカードは直流から高周波までの先端的な電子測定器を開発するとともに、自動計測を行うためのコンピュータ、プリンタ、電卓、医療用測定器、電子部品など多くの異なる事業を持つ企業になっていった。それぞれの事業の効率的な運営を行うためにヒューレット・パッカードは分社化が行われて、化学分析機器と電子計測器事業は1999年にアジレント・テクノロジーとなり、2014年に創業の原点である電子測定器事業に特化したキーサイト・テクノロジーが誕生した。ヒューレット・パッカード、アジレント・テクノロジー、そして現在のキーサイト・テクノロジーへと社名は変わったが、電子計測メーカとして約80年の歴史がある。

ヒューレット・パッカードにとって海外進出した初めての国はドイツであり、次が日本であった。1963年に横河電機と合弁で、横河・ヒューレット・パッカードを設立して、営業拠点と開発拠点がつくられ、企業活動が始められた。1995年には日本ヒューレット・パッカードとなり、横河電機との合弁は解消された。1999年には日本法人も分社し、電子計測器事業はアジレント・テクノロジーとなり、2014年には計測事業を継承するキーサイト・テクノロジーが新たに設立された。

現在のキーサイト・テクノロジーの事業は「航空宇宙/防衛、自動車/エネルギー、通信、半導体」に関わる電子測定器およびサービスに集中して事業を行っている。特に次世代移動通信の5Gや自動車分野を成長領域として電子測定器やサービスの充実を行っており、2015年には無線通信ソリューションプロバイダーであるAnite社を、2017年にはネットワークテスト/ビジビリティソリューションプロバイダーのIxia社を買収した。また同年、自動車と産業機器テストソリューションプロバイダーであるScienlab社を買収し、より幅広い製品を提供できるようになった。

5G通信分野では研究開発、認証試験、生産までに必要な測定器をすべて保有する強みがあり、商用化に向けて国内外のテクノロジーリーダー企業と協業し、“世界初”のソリューションを提供することで貢献している。特に2020年の東京オリンピックでの運用開始を目指す日本市場を重視している。

また、2019年1月には世界で4番目の「Automotive Customer Center」を名古屋市に開設して、自動車産業への技術サポートを行う体制を確立した。

ヒューレット・パッカード創業当時からの「世界初」であり続けるDNAは現在も継承されている。

デジタルマルチメータでのキーサイト・テクノロジーの貢献

1950年代までの電圧測定は指示計器を使うか、精密な測定の場合は電位差計を使うかしかなく、測定結果は人が紙に書いて記録するしかなかった。誤りがなく効率的な測定が求められるようになったことが、電圧測定への要求であった。この要求を実現するために登場したのは数字表示ができるデジタル電圧計であり、ヒューレット・パッカードが最初に作ったデジタル電圧計は積分型シングルスロープA/D変換器を搭載した製品であった。測定結果はプリンタに出力できる機能が搭載されていた。

図22. 定電圧ダイオードの選別に使われた初期のデジタルマルチメータ

画像の説明文

提供:キーサイト・テクノロジー

デジタルマルチメータの進化には2つの流れがあり、最初は性能の向上である。ヒューレット・パッカードは1960年代から2000年代までの間にデジタルマルチメータの性能を大きく向上させ、1959年に登場した最初の405は3桁表示の製品であったが、1988年に発売された3458は8.5桁になった。3458は現在でも最高クラスのデジタルマルチメータとして標準器室などで使われている。2005年にはデジタル・サンプリングACコンバータを搭載した34410と34411が発売された。これによりクレストファクタの大きな交流波形にも対応できるようになった。

次は自動測定システムへの対応である。最初は測定結果をプリンタに出力するだけの要求であったが、その後、コンピュータを使った測定システムを容易に構築できることが新たな要求となった。この要求に最初に応えたのが、ヒューレット・パッカードの社内標準として始まったHP-IB(現在のGP-IB)である。ヒューレット・パッカードは1965年から新たな測定器の標準インターフェースバスについて検討を始め、1972年にHEWLETT-PACKARD JOURNALにHP-IBの概要を公表した。その後1974年にIEEE-488規格として詳細が公開されるようになり、GP-IBは現在まで測定器の標準インターフェースバスとして広く使われている。ヒューレット・パッカードのデジタルマルチメータでは1977年に3455に始めてGP-IBを搭載した。また1980年代にヒューレット・パッカードは積極的にGP-IBを普及するための活動を行った。1980年代後半になるとコンパクトに測定システムを構築する要求から、ヒューレット・パッカードほか数社によって規格が定められたVXIバスシステムが登場した。ヒューレット・パッカードは1990年にVXIバスシステムのデジタルマルチメータE1411Bを発売した。VXIバスシステムはその後、PXIシステムに進化して現在に至っている。

アジレント・テクノロジーやキーサイト・テクノロジーの時代になると、幅広い市場要求に対応できることを目指した。安価なデジタルマルチメータを市場に供給できるようにするため、2008年にEscort Instruments社を買収し、またPXIシステムのデジタルマルチメータが供給できるようSignametrics社を買収した。これによって幅広い製品ラインアップを持ち、キーサイト・テクノロジーはさまざまな市場要求に対してワンストップ対応が取れるようになった。


執筆協力:キーサイト・テクノロジー株式会社 ホームページは こちら

執筆:横河レンタ・リース株式会社 事業統括本部 魚住 智彦

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