速納.com

学び情報詳細

直流電子負荷の基礎と概要 (第2回)

その他の便利な機能

最近の直流電子負荷装置には効率的に試験が行えるよう便利な機能が搭載されている。

シーケンス機能

複数の動作状態をあらかじめ直流電子負荷装置の本体に設定しておき、設定した時間ごとに設定状態を変更してく機能である。設定できる状態数や動作の繰り返し回数には上限があるので注意が必要である。図25には計測技術研究所の直流電子負荷装置Load Stationのシーケンス動作の事例を示す。

図25. シーケンス動作の設定事例

図25. シーケンス動作の設定事例

例えば変化する負荷状態を設定して電源装置の温度上昇や消費電力量を測定するときにシーケンス機能を使えばパソコンの制御プログラムを作成することなく測定環境を構築することができる。

スイープ機能

直流電子負荷装置が持っているさまざまな動作モードで設定値を指定した範囲でスイープさせ、同時に負荷端子間の電圧値や電流値を測定する機能である。

この機能を使えば電源装置の特性試験や保護機能動作試験を行うことができる。図26は計測技術研究所の直流電子負荷装置Load Stationのスイープ機能の操作画面である。

図26. スイープ機能の操作画面の例

図26. スイープ機能の操作画面の例

リップルノイズ測定機能

スイッチング電源やDC-DCコンバータの試験法はJEITA規格(RC-9131D)で決められており、規格に従った試験を行うには直流電子負荷装置が必要となる。またJEITA規格にはリップルノイズ試験が含まれている。リップルノイズはオシロスコープで電源出力波形を観測するか、専用のデジタルリップル電圧メータ(一般にリップルノイズメータと言われている)を用いるかのいずれかである。直流電子負荷装置にリップルノイズ測定の機能が組み込まれているものがあり、スイッチング電源の試験を容易に行えるようになっている。

図27. リップルノイズ測定機能を持った直流電種負荷装置での測定例

図27. リップルノイズ測定機能を持った直流電種負荷装置での測定例

【ミニ解説】電子情報技術産業協会(JEITA)が定めるスイッチング電源のリップル測定方法

JEITA規格(RC-9131D)にはリップルノイズの定義と測定方法について書かれている。スイッチング電源の出力には図28に示すようなノイズが重畳しており、規格試験ではリップル電圧、ノイズ電圧、リップルノイズ電圧の測定をすることが定められている。

図28. スイッチン電源の出力に見られるノイズ波形

図28. スイッチン電源の出力に見られるノイズ波形

JEITA規格(RC-9131D)ではノイズ波形を100MHz帯域以上のオシロスコープを使い、図29に示すような回路を用いてノイズの波形観測を行うことが定められている。

図29. ノイズ波形測定のための接続回路

図29. ノイズ波形測定のための接続回路

JEITA規格(RC-9131D)ではスイッチング電源の量産時にはノイズ波形の観測を100MHz以上のオシロスコープと相関が取れている条件で100MHz以下のオシロスコープの利用を認めている。また100MHz以上のオシロスコープと同等の性能を有するデジタルリップル電圧メータ(リップルノイズメータ)などの利用も認めている。

実際の測定ではスイッチング電源のコモンモードノイズの影響を少なくするために差動プローブが使われ、オシロスコープの入力に取り付けられるRC回路は専用の終端器(TRC-50F2 計測技術研究所)が販売されているのでこれらを使って測定環境は構築される。

直流電子負荷装置を使うときの注意事項

直流電子負荷装置を使って再現性がよく、正確な測定を行うにはいくつかの注意が必要となる。ここでは代表的なものを示す。

配線経路の抵抗

直流電子負荷装置を組み込んだ電源装置の検査システムなどでは配線が長くなる場合がある。また測定対象の電源装置から直流電子負荷装置の間に端子台、スイッチ、リレーなどが接続されることがある。

これらには導通抵抗や接触抵抗があり、測定対象の電源装置から見ると負荷の一部になるため静的な測定においても誤差の要因となる。検査システムを構築する際には導通抵抗や接触抵抗の影響を考慮する必要がある。

図30. 配線や端子台の影響

図30. 配線や端子台の影響

表皮効果

高速動作が可能な直流電子負荷装置を使って電源装置を評価する際には表皮効果の影響を考慮する必要がある。表皮効果とは周波数の高い電流は導線の表面しか流れない特性のことである。表面しか電流が流れないとインピーダンスが高くなり電圧降下は大きくなる。

図31. 周波数による電流密度の違い

図31. 周波数による電流密度の違い

高速に動作できる直流電子負荷装置を使用する場合は高い周波数成分を持つため、電線の表面積が大きくなるように細い電線を束ねたリッツ線を使ったLow-Lケーブル(低インダクタンスケーブル)を選ぶ必要がある。

図32. Low-Lケーブルを使用したときの効果

図32. Low-Lケーブルを使用したときの効果

ツイスト線の使用

外部からの交流磁界の影響や電流が流れることによる磁界の発生を除くために直流電子負荷装置と測定対象の電源装置の間の配線を撚ることが望ましい。配線を撚ると発生する磁界の影響を受けないため配線のインダクタンスは小さくなる。

図33. ツイスト線の使用による効果

図33. ツイスト線の使用による効果

配線インダクタンスの影響

直流電子負荷装置の内部、測定対象となる電源装置までの配線、電源装置内部にはインダクタンス成分が存在する。直流電子負荷装置を使って電源装置の挙動や燃料電池のインピーダンス測定を行う場合はインダクタンス成分を考慮する必要がある。

高速に動作できる直流電子負荷装置を使って高速に応答するPOL(Point of Load)電源などの挙動を評価する際にはインダクタンス成分を小さくするために配線を短くすることが必要となる。

図34. 直流電子負荷装置から電源装置までに存在するインダクタンス成分

図34. 直流電子負荷装置から電源装置までに存在するインダクタンス成分

オシロスコープの接続

直流電子負荷装置の負荷入力端子間の電圧波形と電流測定端子からの電流波形を入力が絶縁されていない一般のオシロスコープを使って測定する場合には短絡しないように正しい接続が必要となる。

図35. オシロスコープによる電圧と電流の波形測定

図35. オシロスコープによる電圧と電流の波形測定

誤った接続をした場合は直流電子負荷装置、測定対象の電源装置、オシロスコープを破損する可能性があるので注意が必要である。

複数の出力を持つ直流電源装置との接続

一つの筐体に複数の出力を持つ直流電源装置を試験する場合は直流電子負荷装置の入力端子のプラス(+)側の電位が高くなるように接続しなければならない。逆に接続したときは「逆接続アラーム」が発生する。

図36. 複数の出力を持つ電源装置との正しい接続

図36. 複数の出力を持つ電源装置との正しい接続
速納.com