試験用交流電源の基礎と概要 (第3回)
<連載記事一覧>
第3回:「試験用交流電源の用途」「おわりに」「【インタビュー】エヌエフ設計ブロックの試験用交流電源事業の取組み」
今回は試験用交流電源を使う用途についての紹介と、試験用交流電源を長期にわたって安全に使うための方法を解説する。
試験用交流電源の用途
スイッチング方式やリニア方式の試験用交流電源を使う用途について紹介する。
電気機器や装置の正確な消費電力測定
試験用交流電源を使う用途で最も多いのが、ノイズやひずみのない安定した電圧と周波数での機器や装置の動作や性能を評価することである。電力会社から供給される商用電源を使っての機器や装置の評価は可能であるが、再現性がよい評価結果を得るには試験用交流電源の利用は必要となる。
下図はスイッチング電源の効率を評価する場合の事例である。スイッチング電源の交流入力には試験用交流電源を接続して消費電力を電力計で測定する。スイッチング電源の直流出力は直流電子負荷に接続して消費電力をデジタルマルチメータで測定する。出力の消費電力と入力の消費電力の比率が効率になる。
図39. スイッチング電源の効率測定
下図は電子機器の待機時の消費電力を測定する場合の事例である。待機電力は一般に小さな電力であるため安定した測定の仕組みが必要となる。
図40. 電子機器の待機電力の測定
【ミニ解説】 試験用交流電源と電力計の接続
電力計には電流測定端子と電圧測定端子がある。正確な測定をするために電流測定端子の入力インピーダンスは小さく、電圧測定端子の入力インピーダンスは高くなるように作られている。小さな消費電力を測る場合は下図に示すように電圧測定端子に流れる電流が測定に影響しない結線を行う必要がある。逆に大きな消費電力を測る場合は電流測定端子の両端に生じる電圧が測定に影響しない結線を行う必要がある。
図41. 試験用交流電源と電力計の接続
さまざまな電源波形での機器や装置の動作確認(低周波イミュニティ試験)
商用交流電源に接続して使う機器や装置はさまざまな電源環境で動作することを検証しなければならない。試験用交流電源を使った低周波イミュニティ試験の方法はIEC規格やJIS規格で定められている。
低周波イミュニティ試験を行う場合は試験用交流電源と試験波形を作成するPCソフトウェアが必要になる。また電圧ディップ試験をする場合は試験用交流電源と電圧ディップシミュレータを組み合わせて使用する。
図42. 低周波伝導イミュニティ試験の構成
【ミニ解説】 EMC(Electro Magnetic Compatibility)試験の構成
EMC試験は機器や装置が使用環境にある他の機器や装置から受ける電磁気的な妨害の影響を評価するイミュニティ試験と機器や装置から使用環境にある他の機器や装置に電磁気的な妨害の影響を与える程度を評価するエミッション試験がある。影響は電磁波など空間的与える「放射」と電源線を伝わる「伝導」に分類されている。
図43. EMC試験の構成
伝導によるエミッションやイミュニティの試験のうち静電気の試験を除くものを低周波のEMC試験という場合がある。
エヌエフ回路設計ブロックが毎年発行している「低周波のEMC」という冊子に低周波EMC試験の詳細が説明されている。
機器や装置から発生する伝導ノイズの測定(伝導エミッション試験)
試験用交流電源に接続された機器や装置から発生する低周波の伝導ノイズをパワーアナライザなどで測定する試験を伝導エミッション試験という。試験の再現性を得るため試験用交流電源の出力には電源線のインピーダンスを規定するためのリファレンスインピーダンスネットワークが挿入される。
注)リファレンスインピーダンスネットワーク(RIN)はラインインピーダンスネットワーク(LIN)と呼ばれることがある。
図44. 伝導エミッション試験の構成
【ミニ解説】 電源高調波の概要と障害
パワー半導体の進化によって1970年代ころからスイッチング電源やインバータ機器の普及が始まったことによって商用電源の波形にひずみが生じるようになり、周波数の高い高調波成分が配電系統に流れるようになった。
日本では1994年には名古屋市科学館で起きた高調波が原因とされる高圧進相コンデンサ用直列リアクトルの焼損事故が契機となって電源高調波への関心が高まり、高調波規制が始まった。
電源高調波が配電系統に接続された機器や装置に及ぼす影響は下記のとおりである。
| 機器名 | 機器に及ぼす影響 |
|---|---|
| 力率調整用コンデンサ 直列リアクトル |
共振現象が発生すると過大電流が流れ、過熱、焼損あるいは騒音を発生 |
| 交圧器 | 鉄心の磁気歪により騒音を発生 鉄損、銅損の増加 |
| 電力ヒューズ ノーヒューズブレーカ |
過大な高調波電流による誤動作 |
| 保護継電器 | 電圧、電流の動作設定レベルの超過、位相変化による誤不動作 |
| 計器用変圧器(VT) 計器用変流器(CT) |
測定精度の低下 |
| 電力量計 | 測定精度の低下 過大な高調波電流による電流コイルの焼損 |
| コンビュータ、OA機器 | 論理回路駆動電圧の維持が不可能となり、誤動作 |
| テレビ、ラジオ、映像音響機器 | ダイオード、トランジスタ、コンデンサ等の劣化、故障 雑音、映像のちらつき |
| 誘導電動機 | 回転数の周期的変動 鉄損、銅損の増加 |
| 蛍光灯 | 力率改善用コンデンサの過熱、焼損 チョークコイルの過熱、焼損 |
| サイリスタ整流器 | ゲートバルス制御信号の位相のずれによる誤制御 |
出典:電圧波形はなぜ乱れる? (中部電力技術開発ニュース、1986年11月)
https://www.chuden.co.jp/resource/seicho_kaihatsu/kaihatsu/kai_library/news/news_1990/news_31_N03113.pdf
高調波問題は送電や配電に接続される新しい機器や装置によって生じることがあり、現在でも新たな原因で生じる高調波への対策は行われている。
電波暗室での利用
電波暗室は無線通信や放送などの電波の影響を受けないで高周波の測定を行うことができる測定環境である。電波暗室では電力品質がよい交流電源を供給するために試験用交流電源が使われる。その場合は広帯域に渡って試験用交流電源から発生するノイズが少ないことが要求される。下図は電波暗室で使われるノイズ特性の優れたスイッチング方式の試験用交流電源の事例である。
図45. 試験用交流電源の高周波ノイズ特性(エヌエフ回路設計ブロック、DPシリーズ)
下図は実際の電波暗室での試験用交流電源の事例を示す。試験用交流電源の出力にはLISN(Line Impedance Stabilization Network)が接続されて測定対象から見た電源ラインインピーダンスを規定できるようになっている。これにより測定の再現性が確保できる。
電波暗室内への電源供給ラインにはノイズフィルタがつけられているかとがあり、試験用交流電源を選ぶ際にはノイズフィルタとの共振が発生しない製品を選び必要がある。
図46. 電波暗室での試験用交流電源の利用
スイッチング電源の突入電流の測定
電源を投入した時に大きな突入電流が流れる現象を測定する際には試験用交流電源を用いる。スイッチング電源のようなコンデンサ入力となっている機器、白熱電球やヒータ、モータやトランスなどで突入電流の現象は見られる。最近の機器では突入電流が大きくならないような仕組みが搭載されている。
突入電流は定格動作時より大きな電流が流れるので、試験用交流電源の容量は突入電流が流せる製品を選ぶことになる。スイッチング電源の評価の場合は下図に示すようにスイッチング電源が最も大きな突入電流が生じる交流電源の位相で試験を行う。
図47. スイッチング電源の突入電流観測
三相誘導モータの始動
三相誘導モータを始動する際には突入電流が発生するため、下図に示すように始動時の電圧をソフトスタート機能によって制御すると大きな容量の試験用交流電源を用意しなくてもモータの評価ができる。
図48. 三相誘導モータの起動制御
電磁鋼板の交流磁化特性測定
モータやトランスのコア材として使われる電磁鋼板の鉄損を測定するためには電磁鋼板を短冊状に積んだエプスタイン枠を使って測定を行う。エプスタイン枠を使う試験では10Hzから10kHzまでの正弦波交流が必要なため、信号源とバイポーラ増幅器を組み合わせた交流電源が必要となる。試験を行う場合の装置の構成は下図に示す。
図49. 電磁鋼板の交流磁化特性測定
磁性材料の試験方法については磁性材料の測定器メーカのメトロン技研の協力を得て執筆した下記の解説記事がある。
電磁鋼板と鉄損測定 (第1回)
https://www.techeyesonline.com/article/tech-column/detail/Reference-ElectricalSteelSheet-01/
電磁鋼板と鉄損測定 (第2回)
https://www.techeyesonline.com/article/tech-column/detail/Reference-ElectricalSteelSheet-02/
高周波リアクトルの騒音評価
インバータなどに搭載されている高周波リアクトルは磁気ひずみ現象によって音が発生する。インバータ内部では商用電源周波数より高い周波数の交流が使われているため、高周波リアクトルの騒音評価には周波数帯域が狭いスイッチング方式の試験用交流電源が使えない。そのため交流電源としてバイポーラ増幅器(バイポーラ電源)によって構成されるリニア方式の試験用交流電源が使われる。
図50. 高周波リアクトルの騒音評価
圧電スピーカの音響特性評価
圧電素子を駆動するには高い電圧が必要となるため、バイポーラ増幅器と発振器を組み合わせて評価を行う。圧電素子を使ったアクチュエータにはさまざまなものがあるが、下図はPCや薄型テレビに搭載されている圧電スピーカの音響特性を評価する場合を示す。
圧電スピーカを駆動するためのバイポーラ増幅器と低ひずみ発振器を組み合わせて試験用交流電源とする。
図51. 圧電スピーカの音響特性評価
試験用交流電源の維持管理
試験用交流電源は長期に渡って使われることが多いので、適切な維持管理が必要となる。試験用交流電源に使われているアルミ電解コンデンサは周囲温度が高くなると劣化が早く進むため試験用交流電源の機内温度が高くならないように維持することが重要になる。
図52. アレニウス法則によるアルミ電解コンデンサの温度と寿命の関係
試験用交流電源はホコリが溜まって内部の温度が上がることを防ぐために、冷却用空気取り入れ口に防塵エアフィルタが取り付けられている。月に1回程度を目安にフィルタを洗浄することによって冷却効果を維持することができる。
図53. 空気取り込み口のエアフィルタを取り外した状態(エヌエフ回路設計ブロック、DP020AS)
そのほかにも試験用交流電源の劣化要因はあり、劣化によって半導体が破損して突然動作が停止することもある。
図54. 試験用交流電源の主な劣化要因
試験用交流電源を安心して使うためには利用者が本体の外から行う日常点検とメーカやメーカ推奨の修理業者が行う本体内部を含めての点検がある。日本電機工業会(JEMA)が発行している「汎用インバータ定期点検のおすすめ」が試験用交流電源を維持管理する目安となる。
| 点検箇所 | 点検項目 | 点検事項 | 点検周期 | ||
|---|---|---|---|---|---|
| 日常 | 定期 | ||||
| 全般 | 周囲環境 | 周囲温度、湿度、座埃、有害ガス、オイルミスト等を確認 | ○ | ||
| 装置全般 | 異常振動、異常音はないか | ○ | |||
| 電源電圧 | 主回路電圧、制御電圧は正常か | ○ | |||
| 主回路 | 全般 | (1) メガーチェック(主回路端子と接地端子間) (2) 締付部のゆるみはないか (3) 各部品に過熱のあとはないか (4) 汚れがないか |
○ ○ ○ ○ |
||
| 接続導体・電線 | (1) 導体に歪みはないか (2) 電線類被覆の破れ、劣化(ひび割れ、変色等)はないか |
○ ○ |
|||
| トランス・リアクトル | 異臭はないか、うなり音の異常な増加はないか | ○ | |||
| 端子台 | 損傷していないか | ○ | |||
| 平滑用アルミ電解コンデンサ | (1) 液漏れはないか (2) ヘソ(安全弁)は出ていないか、膨らみはないか |
○ ○ |
|||
| リレー・コンタクタ | 動作は正常か、ビビリ音はないか | ○ | |||
| 抵抗器 | (1) 抵抗器絶縁物のワレはないか (2) 断線はないか |
○ ○ |
|||
| 制御回路 保護回路 |
動作チェック | (1) インバータ単体運転にて、各相間出力電圧はバランスしているか (2) シーケンス保護動作試験で、保護、表示回路に異常はないか |
○ ○ |
||
| 部品チェック | 全体 | (1) 異臭·変色はないか (2) 著しい発錆はないか |
○ ○ |
||
| アルミ電解コンデンサ | コンデンサの液漏れ、変形跡はないか | ○ | |||
| 冷却系統 | 冷却 ファン | (1) 異常振動、異常音はないか (2) 接続部の緩みはないか (3) 汚れはないか |
○ | ○ ○ |
|
| 冷却フィン | (1) 目詰まりしていないか (2) 汚れはないか |
○ ○ |
|||
| エアフィルタなど | (1) 目詰まりしていないか (2) 汚れはないか |
○ ○ |
|||
長期に渡って使用していない試験用交流電源を改めて使う場合は、安全のために使用前にメーカに点検や清掃を依頼することが望ましい。
おわりに
試験用交流電源は多くの電子機器や電気機器を評価する際に利用するため、今回の記事が試験用交流電源を理解するために役立つことを期待している。
【インタビュー】エヌエフ設計ブロックの試験用交流電源事業の取組み
今回の記事執筆に協力を頂いたエヌエフ回路設計ブロックは日本では1962年より真空管を使ったリニア方式の試験用交流電源の生産を始めており、その後に広帯域のバイポーラ電源やスイッチング方式の試験用交流電源の開発を行ってきた歴史のある測定器メーカである。
このたびは試験用交流電源を使う多くのお客様に接して、現場をよく知る営業本部東日本営業部横浜営業所長の海渡貴大様と販売促進担当の営業企画部の稲嶺成吾様にお話を伺った。
図55. インタビューを受けて頂いた海渡貴大様(左)と稲嶺成吾様(右)
Q1.エヌエフ回路設計ブロックの試験用交流電源の強みは何ですか
エヌエフ回路設計ブロックは長年に渡って試験用交流電源装置を市場に提供しているので、お客様へ最適な製品の紹介や使う上での知識の提供をできることが強みとなる。試験用交流電源装置は規格試験にも使われるため、お客様をサポートできる試験規格に熟知した技術者がいるのも強みになっている。
図56. 規格試験で使われるシミュレーション電源の系譜
エヌエフ回路設計ブロックの交流電源の技術的な強みは供給する電源品質が良いことである。ノイズやひずみが少なく、負荷や入力に変動あっても安定した電源として動作すること、負荷がコンデンサやインダクタなどで力率が悪くなっても問題なく動作することは高く評価されている。
大型の試験用交流電源装置では設置後の修理や点検はお客様の設置場所で行うことになるので、サービス体制が整って迅速に行えることが重要となる。エヌエフ回路設計ブロックは製品の開発者が日本国内におり、難しい問題があっても熟練したサービスエンジニアが開発者と連携して解決できる能力はお客様から高く評価されている。
Q2.現在のお客様が抱えている交流電源装置の課題は何ですか?
昔の試験用交流電源装置は仕組みが単純であったためできることは限られていたが、最新の試験用交流電源はさまざまな試験に対応できるよう高機能となっている。お客様だけで最適な試験環境を作ることが難しくなることがあるため、営業担当者がお客様の希望を正確に聞き取って、最適な試験環境を提案していくことが必要となっている。特に規格試験では規格を熟知している社内の技術者とともに提案をしていくことになる。
もう一つはお客様が長年使っている古い試験用交流電源装置の更新が課題となっている。試験用交流電源は信頼性が高いため、お客様によっては20年以上使い続けている場合がある。しかし古い試験用交流電源装置が故障した場合は部品が入手できず修理ができなくなることや、部品の劣化による特性の低下や突然の故障だけではなく、絶縁性能の劣化により安全の確保が難しくなる場合もある。古いリニア方式の試験用交流電源装置から新しい高効率のスイッチング方式の試験用交流電源に更新することは省エネとなるためお客様にとってメリットは大きい。お客様が持っている古い試験用交流電源の更新の必要性を説明するのも、お客様から期待される役割となっている。
Q3.エヌエフ回路設計ブロックの試験用交流電源事業で最近の注力している取り組みは何ですか?
図57. 高性能/高機能な最新の試験用交流電源 DP020AS
今一番注力しているのは新しく開発したDP020ASをお客様に紹介することである。単相と三相で最大18kVAまで対応できるDP020ASは使い易さと、さまざまな用途に対応できることを目指したものである。
例えば、パワーエレクトロニクス機器に使われる部品などを試験する場合は定電流源が必要になるので、DP020ASではカスタム対応で定電流源として使えるようにしている。
また、従来の試験用交流電源では容量が大きくなると、形状が大きくなり設置や移設に関してお客様に大きな負担が掛かっていたが、DP020ASでは一つのユニットが20kgであるため、「設置、分離、移設」に負担が掛からない。本体は設定によってマスタにもスレーブにもなるため、試験に必要なユニットを接続するだけで最適な試験環境を構築できるメリットがある。
図58. 試験用交流電源で豊富なラインアップを持つエヌエフ回路設計ブロック
日本国内で試験用交流電源の開発から生産、販売まで一貫して行っているエヌエフ回路設計ブロックは豊富な試験用交流電源のラインアップを持っている特長を生かして今後とも事業を行っていく。
執筆協力:株式会社エヌエフ回路設計ブロック ホームページは こちら
執筆:魚住 智彦 測定器メーカに長年勤務して、現在は測定器の解説記事を執筆している
- 関連技術情報・レポート
- 測定・評価用電源の話 (前編)
- 計測・測定の基礎 | 試験用交流電源
- 交流電源 - 三相と単相
他の技術情報・レポートは こちらから
