IEEE802.11acに対応した無線LANテスタ アンリツ MT8862A
アンリツ株式会社(以下、アンリツ)は、業界で初めて実動作状態でIEEE802.11ac機器の評価を実現した無線LANテスタ(正式名称はワイヤレスコネクティビティテストセット)を2017年3月に発表した。コンピュータ・通信機器だけでなく、近年ではIoTなどの新しい技術が注目を浴びるなど、無線LANを搭載した製品は今後も増えていくばかりである。今回は、アンリツの計測器営業本部 第1営業推進部長の藤井誠氏にMT8862Aによる特長や課題解決例などを紹介してもらった。

最新の無線LAN規格、そして無線LANに詳しくない技術者でも測定の必要性に迫られてきた
私たちの身の回りにはデジタル機器で溢れている。最近では、その多くが無線LANを搭載するようになってきている。この流れは、IoTに代表されるようにさらに加速していくことだろう。規格策定から市場投入までは非常に短い期間で推移しており、測定器についても最新の無線LAN規格の1つであるIEEE 802.11acへのサポートは必須事項であった。
一方で、通信機器などの設計開発をしている技術者は、無線LANモジュールを組み込む際に高周波回路の設計方法やEMI対策などを含めて、どのように測定をすべきかノウハウが蓄積されている。しかし、あらゆるものに無線LANが搭載されたことで、こうしたノウハウが少ない企業が多いのも事実であった。これまで無線LANモジュールを取り扱ってこなかった技術者が、新たに取り組む例が増えてきており、製品の完成状態において簡単に無線LANの通信状態を評価したいという要望が多くあったとのこと。新しい無線LANテスタMT8862Aは、このような最新の無線LAN規格への対応と、さまざまな測定課題の解決をしていくことを目指して開発された。

完成品の状態での無線LAN測定が可能。実動作状態(ネットワークモード)での測定に対応
無線LAN関係のトラブルとしては、開発段階でのテスト用ファームウェアでは発現しなかった問題が、完成品の状態で試験をするとトラブルが生じたといったことがあるそうだ。そこで、MT8862Aの大きな特長である、実動作状態(ネットワークモード)での測定が威力を発揮する。これは、完成品の実動作状態で送信電力、変調精度(EVM)、受信感度(PER)などを測定できるモードだ。完成品としての無線LANのパフォーマンスを把握する点でも有効な測定モードである。
また、異なった視点としては、無線LANの開発経験が浅い企業における活用事例も挙げられるそうだ。開発段階で無線LANモジュールの特性評価をする際には、チップセットメーカが提供する制御ソフトウェアを用いて評価(ダイレクトモード)を行うことが一般的だ。ただし、無線LANの開発経験が浅い企業では評価ノウハウが蓄積されていないために、無線LANモジュールメーカから無線性能を担保されたモジュールを購入してくることでカバーされている企業が多い。ここでの問題は、モジュール単体では無線モジュール性能を担保されていても、製品にモジュールを搭載すると、この搭載状況や周辺の環境などで無線モジュール本来の性能が担保されなくなることがある。このような完成品での無線LAN性能を確認するために、完成品の状態で最終評価を行なうといったお客さまも多いそうだ。この場合は、実動作状態(ネットワークモード)であれば、測定に際して特別なチップセット制御を必要としないので、無線LAN測定器を使った評価経験が浅い方でも簡単に無線部の評価を行うことができるとのこと。
最新規格 IEEE 802.11acに対応、WPA2などのセキュアな環境下での測定をサポート
もうひとつの大きな特長は、無線LANの最新規格の1つであるIEEE 802.11acに対応したことだ。802.11acの帯域幅は80MHzまでサポートをしている。この規格は、いまやコンピュータやスマートフォン・タブレットなどでは標準的な無線LAN規格だ。もちろん、従来までのIEEE 802.11a/b/g/nについても対応している。MT8862A 1台で主要な無線LAN規格は網羅されている。
802.11a | 802.11b | 802.11g | |
---|---|---|---|
周波数範囲 | 5180 MHz ~ 5825 MHz | 2412 MHz ~ 2484 MHz | |
オペレーションモード | ― | ― | ERP-OFDM |
変調 |
OFDM (BPSK/QPSK/16 QAM/64 QAM) |
DSSS/CCK |
OFDM (BPSK/QPSK/16 QAM/64 QAM) |
データレート | 6/9/12/18/24/36/48/54 Mbps | 1/2/5.5/11 Mbps | 6/9/12/18/24/36/48/54 Mbps |
セキュリティ | WEP/WPA-Personal/WPA2 -Personal |
802.11n | 802.11ac | |
---|---|---|
周波数範囲 | 2412 MHz ~ 2484 MHz 5180 MHz ~ 5825 MHz | 5180 MHz~5825 MHz |
帯域幅 | 20 MHz/40 MHz | 20 MHz/40 MHz/80 MHz |
MCS | MCS0 ~ MCS7 | MCS0 ~ MCS9 |
RF Chain | Single(SISO) | |
セキュリティ | WPA-Personal/WPA2 -Personal | |
※ 802.11acでの接続には、MX886200A-001が必要 ※ セキュリティを使用した接続には、MX886200A-020が必要 |
出展:製品カタログより主要な規格対応状況を抜粋整理。詳細はメーカカタログを参照下さい
MT8862Aは、アクセスポイント(AP)とステーション(STA)の両方を擬似して被測定デバイスとの接続をすることができるため、開発製品がスマートフォンであろうがルータであろうが、MT8862Aであれば評価することが可能だ。
また、特別なツールを使わなくとも、WEP、WPA-Personal、WPA2 -Personalの各セキュリティ方式の接続が可能となっている。これは、特に自動車のカーナビゲーションなどに代表されるように、無線LAN評価の際に暗号化解除が困難な場合に有効な機能だと話してくれた。

ソフトウェア・メンテナンスが容易
MT8862Aの筐体を見ていただければ分かるとおり、一部のファンクションボタン以外は操作ボタンが一切ない。MT8862Aの操作はすべて制御コンピュータ側で行なう。
通常、測定器のコントロール・ソフトウェアは、ソフトウェア自体のバージョン、制御コンピュータのOSバージョン、測定器本体のファームウェア・バージョンの3つの整合が求められる。無線LANテスタのような通信規格に関する測定器は、他の汎用的な測定器に比べて測定器本体のファームウェア・バージョンが頻繁にアップデートされることが多い。その都度、コンピュータにインストールされたコントロール・ソフトウェアもアップデート対応をするのが一般的で、メンテナンスに時間を取られることも少なくない。
MT8862Aは、制御コンピュータのブラウザからMT8862Aの内蔵Webサーバへアクセスすることで、ブラウザ上のGUIによる制御が可能となっている。コントロール・ソフトウェアのインストール/アップデートや、本体ファームウェアとのバージョンマッチングが不要で、制御コンピュータのOS依存がない。ソフトウェアのメンテナンスがとても省力化されている。

OTA(Over The Air)試験に適したネットワークモード
無線LAN搭載機器のアプリケーションが広がり、機器の形状や使用される環境は今まで以上に複雑化している。そのため、送信電力範囲や受信感度などのアンテナを含めた特性試験を行い、製品が想定される性能を満たしているかを評価する必要性が高まっているという。
ネットワークモードとOTA試験の組み合わせにより、最終的な使用環境での評価を実現することが可能だ。測定器単体だけでなく、シールドボックスなどを含めた提案も可能だと語ってくれた。

従来機種のMT8860CがWi-Fi CWG(Converged Wireless Group)認証試験用の測定器として公認されたことあり、MT8862Aも近い将来テストハウスなどから、色々なソリューションが提案されてくるであろうと語ってくれた。

MT8862Aを前に、特長や事例などを分かりやすく説明してくれた第1営業推進部長の藤井氏
主な仕様
項目 | 仕様 |
---|---|
RF入出力コネクタ | Main1、Main2、Aux (AuxはRF出力のみ) |
周波数範囲 | 2.4 GHz~2.5 GHz、5.0 GHz~6.0 GHz (分解能:1 Hz) |
受信レベル設定範囲 | -65~+25 dBm (設定分解能:0.1 dB) |
送信レベル設定範囲 | -120~0 dBm (設定分解能:0.1 dB) |
寸法 | 426(W) × 177(H) × 390(D) mm (突起物は除く) |
重量 | ≦14 kg |
電源 | AC 100~120V、200V~240V、50 Hz/60 Hz、≦350 VA |
環境条件温度 | +5~+45℃ (動作時)、-20~+60℃ (保管時) |
※詳細はメーカカタログを参照ください。 |
MT8862A ワイヤレスコネクティビティテストセットのカタログはこちら