~ 面倒な配線作業のストレスをアドバンテストが解消 ! 測定現場の作業効率向上に ~ コードが消えた ! 無線データロガー AirLogger™ WM2000 シリーズ
株式会社アドバンテストは、半導体集積回路のテスト装置(ATE: Automatic Test Equipment)で、世界のナンバーワン企業として知られる計測器メーカ大手だ。その沿革をたどると、タケダ理研工業株式会社に源流を発し、株式会社エーディーシー※1などの企業を派生しながら、同社は本流としてATEビジネスを大きく成長させてきた。
近年、ATEビジネスへの注力に変わりはないものの、新しい時代に即した、基軸である計測に取り組む姿勢が見られるようになってきた。今回取材した、無線データロガー AirLogger™ WM2000シリーズもそのひとつだ。縦横数センチメートル(厚さは約2cm)の小さなボックスに、測定機能と無線通信機能を持たせることで、計測データ集録業務における配線作業を大幅に軽減した。同様に、小型化とワイヤレス化は、回転体や動体の温度/電圧、ひずみ計測を手軽なものにしてくれる。データ集録の世界に革新をもたらす、この新しい発想の計測器について、アドバンテストの新企画商品開発室 藤崎貴志氏、坂下正士氏、社長室 広報課 伊藤由美氏の3氏にお聞きした。
アナログ計測技術を強みにした汎用計測器のメーカ。デジタル・マルチメータ、直流電圧/電流発生器、デジタル・エレクトロメータ、光計測器などの製品を提供している。

AirLogger™ WM2000シリーズの概要
AirLogger™ WM2000シリーズの前身は、2015年1月発売のAirLogger™ WM1000※2に遡る。WM1000は、PC通信ユニットと温度測定ユニットからなる、シンプルな計測システムで、2.4GHzの特定小電力無線により、測定データを集録できる温度ロガーだ。WM1000の測定ユニットは、ひとつのPC通信ユニットに最大100個(1ch/1ユニット)まで同時接続が可能で、見通し約10mの範囲であれば、散在していても構わない。特筆すべきは、35(W)×35(D)×14.5(H)mmの小さなサイズのボックス(下図参照)の中に、データ集録に必要な、入力アンプ、AD変換器、マイコン、無線通信回路、バッテリ機能が、すべて詰め込まれていることだ。加えて、耐振動性、耐防塵/防水性も確保されているので、環境の悪い場所への設置も可能である。
発表当初の型式はWM1010(日本国内専用品)。海外対応開始時に型式をWM1000へ変更。

AirLogger™ WM1000
WM2000シリーズは、この系譜に連なる製品で、従来の温度測定のみから、温度/電圧、ひずみの測定をカバーするシリーズとして、2017年11月に発売された。測定ユニットが少し大きくはなったが、温度と電圧の測定が選択できる2ch化された温度/電圧測定ユニットWM2000TAと7chタイプのWM2000TB、それにひずみ測定ユニットWM2000SAの3種のラインアップがある。この温度/電圧測定ユニットは、電圧出力型のセンサを取り付けることにより、湿度、照度、圧力、風速などの計測も可能だ。さらに、今年(2019年)7月には、待望の3ch動ひずみ測定ユニットWM2000SBが追加され、ひずみ式ロードセルを使用した荷重測定やひずみ式変換器を使用した圧力、振動などの計測も可能にした。

3ch動ひずみ測定ユニット使用時の高速データ集録には、PC通信ユニットに加え、高速データレシーバWM2000ZB、多接続高速データレシーバWM2000ZCのいずれかが必要
AirLogger™ WM2000シリーズの特長
(1) 測定準備と測定条件設定の簡便さ
デモを見て、まず驚いたことは、準備から測定開始までの迅速さだ。AirLogger™の基本操作は、PCを起動し、ソフトウェアを立ち上げ、測定条件を設定すれば、ものの5分で準備は完了。すぐに測定に入れる。温度測定の場合は、熱電対タイプK/J/Tのいずれかを、電圧測定の場合は、電圧レンジ±100mV/±1V/±12Vから選択する。測定間隔は、接続の測定ユニット数に依るが、100msecから10min(3ch動ひずみ測定ユニットWM2000SB を使用する場合は 100μsecから1min)の範囲から選べる。測定結果は、写真に示すように、リアルタイムにグラフ表示されるが、どのグラフに表示するかは、測定者が任意に振り分けられるマルチ表示対応だ。

電圧レンジ設定

測定間隔(サンプリング周波数)設定

測定結果のリアルタイム表示(上段:温度、下段:ひずみ)
(2) 測定ユニットの使用温度範囲の広さ
耐振動性、耐防塵/防水性については既に前述したが、ここでは使用環境温度範囲の広さに注目すべきだろう。2ch温度/電圧測定ユニットWM2000TAと7ch温度/測定ユニットWM2000TBの2ユニットは-40℃以上+100℃未満、ひずみ測定ユニットWM2000SA の場合でも-30℃以上+100℃未満と、随分広い環境温度の中でも使用可能だ。3ch動ひずみ測定ユニットは、少し範囲は狭く、-15℃以上+60℃以下であるものの、一般的な測定器の使用温度範囲が0℃~40℃であることを考えると、破格のスペックだ。測定ユニットが設置される厳しい環境を考慮した、設計者のこだわりが感じられる。
開発の苦労
開発で一番苦労した点は、使用環境温度の範囲設定を示唆する搭載電池の選定だという。世の中に、高温の100℃に耐える電池は、数が少ない。電池は高温になると爆発の危険性も大だ。必要な電池容量(1000mAh)を満たす、信頼性の高い電池の選定には、慎重に慎重を重ねた。電池カバーやコネクタなどは、カスタム設計であり、測定ユニットの中でリチウム金属一次電池が占める割合は、ほぼ半分となったが、基板設計や高密度実装技術を生かし、全体の容積を小さくすることができた。兄弟機種WM1000よりも、WM2000シリーズはひと回り大きいが、WM1000がボタン電池(CR2032)搭載の1ch仕様であることを考えると、7ch仕様のWM2000TBの小ささは、技術の高さが伺えよう。因みに、WM2000シリーズは、PC操作で測定ユニットの電源を、ON/OFFできるソフトウェアスイッチ機能があり、電池の持ちを長くする工夫もされている。また、長期モニタリングにも対応可能な外部給電オプションも用意されている。

2ch温度/電圧測定ユニットWM2000TAの電池交換蓋を開けた状態
本製品の特徴である無線通信には、Bluetoothや無線LANでも使用されている2.4GHz帯の周波数が使われている。特定小電力無線であるので免許は不要だ。プロトコルは、多チャネル、高速データ集録を実現するために、独自に開発した。親機(PC通信ユニット)から各測定ユニット(最大接続数100台)に、ブロードキャスト方式で時刻合わせの信号を2秒ごとに出している。それによって全測定ユニットを±5ms以内で同期させることを可能にした。動ひずみ測定における高速サンプリング時は、測定ユニットの制御とユニットからのデータ受信の無線チャネルを分けることで、リアルタイム測定を実現している。通信が不安定な場合でも、測定ユニット内のメモリがデータを保存しており、測定後に復元可能だ。WM2000SBでは、10kHzサンプリングでも、電池駆動で6時間、外部給電では26時間のデータを保存してくれる。
ニーズと応用分野
需要のトップは、自動車関連メーカに向けたものが、40~50%を占める。ほとんどの自動車メーカに採用されているという。エンジンルーム内やボディ、高速回転する動体(ドライブシャフト、タイヤ、ブレーキ、他)の、温度、ひずみ、荷重、加速度などの測定に使われることが多い。回転体の測定の際に使われるスリップリングが不要となり、手軽に測定ができるようになった。衝突実験などにも使われているようだ。自動車向けでは、200~300chといった、多チャネル測定のニーズがあるのに対し、7ch温度/電圧測定ユニットWM2000TBだと40ユニット(計280ch)でシステム構成が可能だ。
次に需要が多いのは、工場の製造現場における、設備の稼働状況のモニタだ。A工場、B工場の工作機械やロボットの温度やひずみを、遠隔で監視することや、食品・薬品工場の温度データの収集などにも使用される。配線が不要なため、空間的に分散した測定ポイントや工程変更などにも、フレキシブルに対応できる。従来のデータロガーに比べ、大きなアドバンテージだ。
7ch温度/電圧測定ユニットWM2000TBを100ユニット使えば、最大700ポイントもの測定データをリアルタイムに収録できる。さらに、3ch動ひずみ測定ユニットWM2000SBの発売により、従来10Hzだったサンプリング周波数が最大10kHz(測定間隔100μs)まで設定できるので、動体のダイナミックな動きを測定することができるようになり、新たな応用分野が拓けてくるだろう。

クラウドの活用
アドバンテストでは、遠隔地や作業員の入りにくい現場の計測データを、オフィスに居ながらにしてモニタできる、クラウドサービス「AirLogger™ Cloud Lite」を2019年10月から始めた。3ヶ月/1パッケージ、最長6ヶ月の「お試し版」で、料金は3ヶ月198,000円、継続3ヶ月150,000円である。パッケージには、専用ゲートウェイ、モバイルルータのレンタル料金、クラウドサーバ使用料金、1ライセンス当たりのWeb、およびゲートウェイ・アプリケーション使用料金が、一式含まれている。専用ゲートウェイはラズベリーパイ※3を採用し、通信ユニットをUSB端子に挿入して使用する。モバイルルータとの通信は、無線LAN接続で、クラウドには3Gで接続される。
現在の本サービスは、あくまで、ユーザニーズの顕在化を狙ったお試し版で、もちろん、長期利用の相談には応じるものの、システム検証を終えたユ-ザには、コスト的にもメリットのある自社でのシステムの構築とクラウドサービス会社との直接契約を推奨している。なお、アドバンテストでは、ユーザ自らがクラウドシステムやオンプレミス※4で構築したい場合、カスタマイズをサポートする用意があるとしている。
Raspberry Pi。英国ラズベリーパイ財団が開発したARMプロセッサ搭載のシングルボードコンピュータ。日本ではラズパイと呼称される。(Wikipediaを参考)
ユーザの構内環境でのシステム構築

ビジネス状況と今後の計画など
おわりに、ビジネス状況と今後の抱負などをお聞きした。
「AirLogger™ WM2000シリーズは、WM1000の発表後、展示会などでユーザニーズを掘り起こしながら開発した新ラインアップで、順調に売り上げを伸ばしている。
さらなる小型化や完全防水、真空下での使用など、ユーザのニーズは尽きず、これらを真面目に検討していく姿勢は崩さない。また、市場の動向を見極めながら、電圧の高速サンプリングができる新たなユニットの開発もしていきたい。」

左から、社長室 広報課 伊藤由美氏、新企画商品開発室 坂下正士氏、藤崎貴志氏
テーブル手前にはWM1000のユニット(黄色)とWM2000シリーズの測定ユニット 4種が並べてある。
主な仕様
各種測定ユニットの仕様 | 1ch温度測定ユニット WM1000 | 2ch温度/電圧測定ユニット WM2000TA | 7ch温度/電圧測定ユニット WM2000TB | ひずみ測定ユニット WM2000SA | 3ch動ひずみ測定ユニット WM2000SB |
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外観 |
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外径寸法(mm) | 35 (W) × 35 (D) × 14.5 (H) | 54.5 (W) × 45 (D) × 17.5 (H) | 60.5 (W) × 49 (D) × 17.5 (H) | 54.5 (W) × 45 (D) × 17.5 (H) | 84 (W) × 64 (D) × 22 (H) |
測定ch数/ユニット | 1ch | 2ch | 7ch | 1ch | 3ch | 測定対象&測定範囲 |
温度
-200℃ ~ +1300℃ (K)
T、Jにも対応 |
温度
-200℃ ~ +1300℃ (K)
-200℃ ~ + 400℃ (T)
-200℃ ~ +1000℃ (J)
電圧
±12V
|
温度
-200℃ ~ +1300℃ (K)
-200℃ ~ + 400℃ (T)
-200℃ ~ +1000℃ (J)
電圧
±12V
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ひずみ(120Ω又は350Ω)±20000µ | ひずみ(120Ω又は350Ω)±20000μ |
同時接続数 | 最大100ユニット | 最大100ユニット | 最大100ユニット | 最大100ユニット | 最大100ユニット |
同時測定チャンネル数 | 最大100ch | 最大200ch | 最大700ch | 最大100ch | 最大300ch |
測定間隔(サンプリング時間) | 100ms ~ 10min | 100ms, 200ms, 500ms, 1s, 2s, 10s, 1min, 5min, 10min | 100ms, 200ms, 500ms, 1s, 2s, 10s, 1min, 5min, 10min | 100ms, 200ms, 500ms, 1s, 2s, 10s, 1min, 5min, 10min | 100µs, 200µs, 500µs, 1ms, 2ms, 5ms, 10ms, 20ms, 50ms, 100ms, 200ms, 500ms, 1s, 2s, 10s, 1min |
給電 | ボタン電池 (CR2032タイプ) | リチウム一次電池 | リチウム一次電池 | リチウム一次電池 | リチウム一次電池 |
通信周波数 | 2.4GHz無線通信 | 2.4GHz無線通信 | 2.4GHz無線通信 | 2.4GHz無線通信 | 2.4GHz無線通信 |
使用環境範囲 | -15℃ ~ +70℃ |
温度 -40℃以上 +100℃未満 (防水アタッチメント装着時も同等) 湿度 5~85%RH 結露無きこと (耐熱ケース使用時:300℃環境下で5分程度) |
温度 -40℃以上 +100℃未満 (防水アタッチメント装着時も同等) 湿度 5~85%RH 結露無きこと (耐熱ケース使用時:300℃環境下で5分程度) |
温度 -30℃以上 +100℃未満 (防水アタッチメント装着時も同等) 湿度 5~85%RH 結露無きこと |
温度 -15℃以上 +60℃未満 (防水アタッチメント装着時も同等) 湿度 5~85%RH 結露無きこと |
耐振動性 | JIS_D1601_1種_C種 相当 | JIS_D1601_1種_C種 相当 | JIS_D1601_1種_C種 相当 | JIS_D1601_1種_C種 相当 | ― |
耐防塵/防水性 | IP54 相当 | IP54 相当(防水アタッチメント装着時) | IP54 相当(防水アタッチメント装着時) | IP54 相当(防水アタッチメント装着時) | IP54 相当(防水アタッチメント装着時) |
重量 | 20g(電池含む) | 36g(電池含む) | 45g(電池含む) | 36g(電池含む) | 105g(電池含む) |
右にスクロールできます
データ送受信ユニット仕様 | PC通信ユニット | 高速データレシーバ | 多接続高速データレシーバ |
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外観 |
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主な機能 | 測定ユニット制御通信 | - | - |
データ受信 | データ受信(高速対応) | データ受信(高速対応) | |
通信周波数 | 2.4GHz | 2.4GHz | 2.4GHz |
PC接続 | USB I/F | LAN I/F | LAN I/F |
給電 | PC本体より | USB | AC電源 |
測定ユニット接続数(最大) | 100ユニット | 10ユニット | 25ユニット |
外形寸法(mm) | 55 (W) × 23.5 (D) × 8.3 (H) | 57 (W)× 57 (D) × 18 (H) | 192 (W) × 134 (D) × 33 (H) |