計測器の形名・・・第4回 通信計測器Part1 ~ プロトコルアナライザと光測定器(安藤電気)
計測器は商品なので、必ず形名(かためい)や品名(ひんめい)などの名前があります。本稿は「計測器の形名」について考察する連載コラムです。前回はオシロスコープについて述べましたが、今回から通信計測器※1について国産メーカを例に説明します。大手計測器メーカの安藤電気は、1970年代後半から法則性がある形名を使い始めました。形名の基準をつくったと思われます。形名規定は社外に公開されませんが、筆者が知る限りを紹介します。同社の看板製品であるプロトコルアナライザは時代の要請に応えて性能を進化させ、1980年代には国内No.1になります※2。時代背景も含めてデータ通信の代表機種について触れます。最後に品名について考察します。
日本電気計測器工業会(JEMIMA)は電気計測器を汎用測定器と通信用測定器に2分している(「電気計測器の中期見通し」2024年12月発行)。通信計測器の定義は各種あるが、ここではJEMIMAの示す有線通信測定器(プロトコルアナライザなど)、無線通信測定器、光測定器を指している。
競合との比較資料はないが、主要顧客の導入状況や内外の販売店からの評価から推定。欧米にも輸出され、海外製品と競った。
安藤電気とは
安藤電気株式会社は1933年設立の老舗計測器メーカで、小野さん(小野測器)や武田さん(タケダ理研工業、現アドバンテスト)のベンチャー企業と同じく安藤さんが創業しました。NECが大株主(資本比率51%)で、主力事業は通信計測器と半導体テスタ※3です。通信計測器はNTTを筆頭に主要な通信機器会社や工事会社などに、半導体テスタは主にNECに販売しました。日本電信電話公社(現NTT)は1981年から光ファイバ通信を商用開始し、1985年に日本縦貫光ファイバ・ケーブル伝送路が完成します(同年に「通信の自由化と民営化」によりNTT※4が発足)。光ファイバ通信の研究・開発から敷設・保守に必要なほとんどの光測定器が、電電ファミリーのアンリツと安藤電気によって1970年代から開発されました。安藤電気は日本の基幹通信網が光化するのに貢献した1社です。同社は2000年代前半に横河電機に吸収され現在はありませんが、光測定器は横河計測に継承され、光スペクトラムアナライザは世界トップブランドを続けています。詳しく知りたい方は巻末の用語解説をご覧ください。
半導体デバイスの製造で最終工程(前工程と後工程の2つ)にある試験装置。半導体製造装置の中で高額な機器の1つ。国産のアドバンテストはメモリーテスタなどで世界トップ。
Nippon Telegraph and Telephoneの略。NTT発足時の正式会社名は日本電信電話株式会社で、2025年7月1日に「NTT株式会社(英語名:NTT,Inc.)」へ商号変更。
安藤電気の形名規定
本連載の第1回で形名には1. 数字が主、2. 英字と数字の組み合わせ、の2種類があることを述べました。テクトロニクスの2465 アナログオシロスコープやキーサイト・テクノロジーの87512B 伝送/反射テストセットなどの数字が主な形名に対して、安藤電気は英字と数字を組み合わせた形名を古くから使ってきました。AL255 600Ω可変抵抗減衰器、GRN-3B 白色雑音発生器、RS-106 標準インダクタンス、WP-6C ホイートストンブリッジなどです。これら不規則に英字と数字が並んでいた形名が、1970年代後半の新製品からAx-yyyy(x:アルファベット大文字、y:数字4文字)の書式に統一されました※5。表1は新書式による1980年頃の製品例です。
1975年刊行の技術誌「安藤技報」(Vol.57)にはこの規定に従った形名はなく、1978年版(Vol.58)にAE-4201ロジックアナライザなどが掲載されているので、1976年~1977年に形名規定を制定したと思われる。
規定の概要を説明します。頭の1文字目はA。Aはアルファベットの1番目なので、表示が前の方になる。安藤のAでもある。2文字目はカテゴリー(機種群)を表す。「-」(ハイフン)の後に1000~9999の4文字※6の数字を使う。改良したとき(エンハンスド・モデル)は数字の後(形名の末尾)に英字の大文字をつける。Bから使用し、初号器にAはつけない(つけないでもわかるから)。たとえばAB-1234 → AB-1234B → AB-1234C。他社では始めから末尾にAをつける形名もありますが、Bからにしている点に無駄なことはしない合理性が感じられます。アルファベット3文字は特許庁に申請すれば商標登録が可能なため、抵触しないように2文字にしたようです。
連載の第1回でも述べたが、数字は文字なので4桁ではなく4文字と表現している。
| 2文字目 | カテゴリー・機種群名 | 製品例 |
|---|---|---|
| A | (電圧計) | AA-2405 表面電位計 |
| B | カウンタ | AB-2104 周波数カウンタ |
| C | スペクトラムアナライザ | AC-8212 周波数スペクトラムアナライザ |
| D | (電力計) | AD-2430 選択レベル計、 AD-4030 標準出力試験器 |
| E | データ通信、マイコン関連測定器、 (通信端末用測定器) |
AE-1401B モデムテスタ |
| AE-3103 ファクシミリ試験器 | ||
| AE-4131 デバッグステーション(ICE)、AE-4201 ロジックアナライザ | ||
| AE-5103 データコニュニケーションアナライザ(プロトコルアナライザ) | ||
| AE-8101 デスクトップ コンピュータ(計測コントローラ、amics80 ) | ||
| AE-9302 テレフォンユニットテスター | ||
| F | 半導体測定器 | AF-9702 EP-ROMプログラマ |
| G | 回路素子、材料測定器 | AG-4301 LCRメータ、AG-4911 テストフィクスチャ、AG-6601 誘電スペクトル高速測定装置 |
| H | 総合試験器 | AH-4730 伝送特性測定装置、AH-5402 無線機テスタ |
| J | 発振器・発生器 | AJ-2730 信号発生器、AJ-2731 フリケンシシンセサイザ |
| K | (音声測定器) | AK-2002 MONITORING AMP、AK-5611 TV音声多重信号復調器 |
| N | (記録計) | AN-4107 プリンタ |
| O | 未使用 | 0(ゼロ)と間違うため。 |
| P | PCM通信関連測定器 | AP-9100 PCM-24総合測定器(PCM:Pulse Code Modulation、パルス符号変調) |
| AP-9205 マルチメディアMUXアナライザ(MUX:Multiplexer) | ||
| AP-9609 PCMコーデックアナライザ(CODEC:COder+DECorder、圧縮・解凍するもの) | ||
| Q | 光測定器 | AQ-1004 光ケーブル心線対照器、AQ-1011 損失波長特性測定装置、AQ-1115 光パワーメータ、AQ-1305 光源、AQ-1404 光スペクトラムアナライザ、AQ-1610 光波長計、AQ-1902 光ファイバアナライザ |
| AQ-2101 光パワーメータ(手帳サイズの薄型、ハンディ)、AQ-2703 センサー | ||
| AQ-3105 光可変減衰器 | ||
| AQ-4121 LED光源、AQ-4302 可視光源 | ||
| AQ-5510 波形モニタ(オシロスコープの入力に勘合するO/E変換器) | ||
| AQ-6310 光スペクトラムアナライザ | ||
| AQ-7109 光ファイバアナライザ(OTDR) | ||
| AQ-9317 FCコネクタアダプタ(空間光センサーにFCコネクタを接続するアダプタ) | ||
| S | 未使用 | AS-xxxxxを取扱説明書の番号に使用のため。 |
| Y | (メカトロ機器) | AY-5302 自動多点計測装置、AY-7710 マーキング装置 |
カテゴリー・機種群名の()は筆者の推測。NTTなどの特定顧客向けの形名はこの規定の適用外。
2文字目の機種群の分類はアルファベット26文字(実際は24文字)で十分なのか? 分類の仕方(機種群名)は適切なのか? はさておき、優れた決め方の一例(良く考えられた形名のお手本)だと筆者は思います。機種群の文字はスペクトラムアナライザだからS、マルチメータだからM、というように決めると形名から製品がわかりやすく、実際そのような命名をするケースは多いですが、後からSやMの別製品が出てきたら基準は破綻します。「マルチメータをM」ではなく、「Mは○○や△△の製品群」、とした点がミソです。
当時の同社には計測器事業部、メカトロ事業部、ATE事業部(半導体テスタ)があり、主に前者2事業部がこの規定に従って新製品の形名を発番したようです。過去につくった計測器や、これから開発する可能性がある製品、同社が得意で多くのモデルが想定される機種群などを、頭を絞って2文字目の意味を考えた跡が伺えます。機種群に電源があった記憶がありますが、筆者の手元資料では電源を意味する文字は不明です。完全な規定を持っておられる方がいらしたら、ぜひご教授いただけると嬉しいです。
図1 AQ-2101(左)、AQ-2703B/AQ-9317(右)のイメージ
表1を眺めると2文字目がE、P、Qの製品が多いです。Eは同社が得意な通信用端末(電話機やモデムなど)の試験器と、1970年代に登場したマイクロプロセッサ(インテルなどのMPU)の開発ツール(ICE、デバッガ)です。PはPCM通信の測定器となっていますが、正確には「基幹通信網の評価測定器」です。基幹通信網へのPCM方式の導入は1970年代に検討され、1980年代に施工されます。1990年には国際標準のデジタル伝送規格 SDH(Synchronous Digital Hierarchy)が運用開始し、基幹の高速通信(コアネットワーク)がデジタル化します。新規格を採用した通信機器がつくられると、それを評価するPのモデルが順次開発されました。インターネットが普及し、2010年には100Gbpsイーサネットが規定され、いまやデータセンタは400Gbpsや800Gbpsになろうとしています。2025年のInterop※7では1.6Tbps(800ギガの2倍の1.6テラ)の計測器が展示されました。現在の「OTN/SDH規格やギガビットイーサネットに対応した計測器」に進化していくのがPの製品群です。安藤電気は2000年代までの通信インフラの発展を、光伝送の規格試験器で裏から支えました。
インターネット技術の国内最大のイベント。ネットワークにつながるモノのInteroperability(相互接続性)を検証する場として1994年から毎年開催されている。検証用の通信計測器も出展する。読み方:インターロップ。
Qは光ファイバ通信用の測定器です。同社はこれから光測定器が増えると考え、Qという1つの機種群に取り上げました。連載第1回でも書きましたが、アンリツは無線(RF)と光を区別せず、RFパワーメータも光パワーメータも「パワーメータ(文字:L)」の分類です(表2)。高周波の基本測定器であるパワーメータ、発生器、スペクトラムアナライザの中に光測定器を包含しています。分類の仕方は1通りではありませんから、安藤電気とアンリツのどちらが正しいということはありません。形名を決める分類の基準はメーカ独自で、その会社の考え方が反映します。
| 2文字目 | 文字の意味 | 製品例 | 無線 / 光 |
|---|---|---|---|
| L | パワーメータ(本体のみ。 パワーセンサは別の分類) |
ML2407A パワーメータ | 無線(RFパワーメータ) |
| ML910A 光パワーメータ | 光 | ||
| G | 信号発生器、光源 | MG3633A シンセサイズド信号発生器 | 無線(標準信号発生器) |
| MG9001A 安定化光源 | 光 | ||
| S | スペクトラムアナライザ、 光スペクトラムアナライザなど |
MS2850A スペクトラムアナライザ/シグナルアナライザ | 無線 |
| MS9740B 光スペクトラムアナライザ | 光 |
この製品例に限れば、Gは信号を出力するもの(generator、light source)、Sは受けるものになっている。
表1に戻ります。製品開発を行う各技術部門は1番目の数字で機種を分類したようです。光測定器のAQ-1に多くの機種があるのは、前述のように1970年代にほぼすべての光測定器をNTTの依頼で開発したからと思われます。光測定器の全容が把握できてからはAQ-2がパワーメータ、AQ-4が光源、AQ-6が波長測定器、AQ-7がOTDRと整理されていきます。AQに限らず、シリーズやアクセサリは2文字目の数字で識別するなどの運用がされています。
2002年に安藤電気は横河電機の傘下になります。E、P、Qの製品が続きますが、現在の横河計測には光測定器だけが残り、AQ以外はすべて生産終了しました。
| 2文字目 | 製品例 |
|---|---|
| E | AE1421 デジタルリンクアナライザ |
| AE5131 プロトコルアナライザ、AE5702 AE5131用PHS翻訳ソフトウェア | |
| AE5135 プロトコルアナライザ、AE5974 AE5135用BRIユニット | |
| AE5301 ISDNテスタ | |
| AE5511 トラフィックテスタプロ、AE5520 AE5511用10/100BASE-Tユニット | |
| AE7303 ISDNシミュレーションBOX、AE7901 AE7303用BRIモジュール | |
| AE7311 ISDNネットワークシミュレータ | |
| P | AP4511 ATMアナライザ |
| AP9455 SDH/SONETアナライザ | |
| AP9945 ポータブルBERT | |
| Q | AQ2140 光マルチメータ、AQ2743 センサー、AQ2200-311 ATTNモジュール |
| AQ3540 光チャネルセレクタ | |
| AQ4305 白色光源、AQ4315A ASE光源 | |
| AQ6317C 光スペクトラムアナライザ | |
| AQ7250 mini-OTDR、AQ7410B 高分解能リフレクトメータ | |
| AQ7750 光サンプリングオシロスコープ | |
| AQ8200 光測定システム、AQ8465 DWDMパッシブコンポーネントアナライザ |
安藤電気は1990年代に形名から「-」をなくしている。
図2 AE5511(左)、AQ2140(右)
データ通信の普及とプロトコルアナライザ
1971年にインテルは世界初のマイクロプロセッサ(MPU)、4004(4ビット)を開発し、1977年には16ビット、1985年には32ビットと発展します。MPUの進化はコンピュータの普及を進め、各地にあるコンピュータをつないだオンライン通信が始まります(1970年代に公衆通信網のデータ通信への利用が自由化され、通信の民間開放といわれています)。現在は携帯端末で自由にメッセージを送受信できますが、1990年頃までは通信手段が限られていました。遠隔地と通信する方法は、日本全国に張り巡らされた公衆通信網(固定電話網)しかありません。これは音声(10Hz~約3kHzのアナログ信号)を伝えるためのネットワークでデジタル信号は送れません。そこで、コンピュータのデジタル信号を音声のようなアナログに変換(変調)して送信し、受信側では逆にデジタルに戻す、モデムという機器を使いデータ通信を行いました。MODEMとはMOdulation(変調) & DEModulation(復調)からつくった造語で「変復調装置」です。アナログのネットワークしかなかったので、デジタルをわざわざアナログに変えて送りました。
図3 アナログ電話網を使ったデータ通信
モデムの試験器がモデムテスタで、安藤電気はトップベンダです。電話機やファックスなど、通信回線につながる各種端末の試験器を同社はつくりました。遠隔地にあるコンピュータ同士がデータ通信をするためには、データが正しく送られているか回線をモニタしないといけません。コンピュータが正しくデータを送受信するか確認するためにコンピュータの代わりになってデータを送受信できる擬似端末の機能がある試験器(エミュレータ)が必要です。これらを現在ではオンラインモニタやプロトコル※8アナライザと呼んでいます。安藤電気は1970年代にデータ通信回線のモニタ・診断装置を開発した、国産プロトコルアナライザの老舗です。
(protocol)複数のデバイスやコンピュータが通信するための規約のこと。元は「共有されている手順」で、人間同士のルール(社交場に着ていく服装などの儀典)を意味した。人ではなく物になったのが通信プロトコル。
図4 モデムの近くで回線をモニタするときの接続
全国のJR窓口での指定席予約やオンラインでの銀行間振り込みは、コンピュータをつないだデータ通信システムが大前提です。それらのオンラインシステムは1960年代に始まっていますが、MPUと同じく1970年代から1980年代に進歩しました。JRや銀行のデータ通信利用に留まらず、RS-232/422/485などのシリアル通信も市場が拡大しました。安藤電気は情報機器・精密機器メーカなどの需要に応えてプロトコルアナライザを次々と改良し、1980年代にベンチトップのAE-5103、ポータブルのAE-5104が発売されます。AE-5104/5105は前面蓋の内部にプリンタを内蔵したオプションがあり、現場に持って行って測定結果を印字できました。需要の波に乗って同社のプロトコルアナライザは看板製品になりました。
図5 AE-5105とAN-4107
2023年10月10日に全国銀行協会が運営する銀行間送金システム「全銀システム」で、大規模システム障害が発生し一部金融機関への振込ができなくなりました。1980年代のネットワーク高速化・処理能力向上の大規模システム改修や、1990年代のインターネットバンキング普及によるシステムへの負荷増大に対し、全銀システムは稼働以来一度も不具合を起こしていません。ですからこの事態は重大です。障害の復旧は10月12日までかかり、大きなニュースになりました。誰もが普通に行っている他行への振込が「全銀システム」なるもので運用されていることを、このときに初めて知った方は多いと思います。
良く考えればかわるのですが、まったく異なるコンピュータを導入している各銀行のシステム同士で自由にデータ通信を行うのは簡単ではありません。国内のほとんどの金融機関が参加し、銀行間の資金移動をオンライン処理する「全国銀行データ通信システム(略称:全銀システム)」が構築され、いまでは1日に数百万件、数兆円の取引が行われています。全国銀行協会(全銀協)は銀行間・企業間のオンラインデータ交換を行うための標準プロトコル、「全銀協標準通信プロトコル(略称:全銀プロトコル)」を策定しました。プロトコル(通信規約)を1つに定めないと銀行間のデータ通信はできません。金融機関の間だけでなく、金融機関と企業間のデータ送受信にも全銀プロトコルが使用されます。国産メーカである安藤電気のプロトコルアナライザが全銀プロトコルに対応していることはいうまでもありません。
安藤電気は2000年代までプロトコルアナライザやモデムテスタをモデルチェンジし続けます。AE1421は2Mbpsまで測定できる低速BERT※9ですが、同社のモデムテスタ最上位機種です。筐体はAE-5104/5105と同じで、AN-4107プリンタが使えました。
(Bit Error Rate Test/Tester) 「ビット誤り率測定/測定器」。伝送線路、通信デバイスの品質評価に必須の計測器。読み方:バート。別名「エラーレート測定」、「BER測」。アンリツは1990年代にMP17xxで40Gbps(世界最高速)を実現。安藤電気は2000年代に10GbpsのAP9945を開発。
図6 AE1421 デジタルリンクアナライザ
品名について
品名はモデルの名前(名称)ですが、メーカが自由につけるので他社の同等モデルとは必ずしも同じになりません。品名からはカテゴリー(機種群)すら想像できない計測器もあります。以下に4つの例を述べます。
まず、光測定器の花形モデルにOTDR※10があります。NTTが光ファイバ通信を研究し始めた1970年代から開発され、アンリツと横河計測はモデルチェンジを繰り返しながらつくり続け、現役機種が絶えることはありません。海外のEXFO(エクスフォ)やViavi(ヴィアヴィ)、VeEX(ヴィーエックス)などの通信計測器メーカもラインアップし、国内市場でのシェア拡大を狙っています。COMNEXT※11やケーブル技術ショー※12などの展示会には上記以外の海外製OTDRも出展されます。光スペクトラムアナライザなどと同様にOTDRは確立した光測定器の1機種群です。
(Optical Time Domain Reflectometer / Reflectometry) 伝送路にパルスを入射し、反射波のパワーから位置とロスを計測する機器/手法をTDR(時間領域 反射計/反射法)という。光ファイバの破断箇所などを検出する、敷設や保守で必須の光測定器。
2023年から始まった「次世代通信技術&ソリューション展」。旧FOE(Fiber Optics EXPO)の後継で、世界中の光通信測定器が勢揃いする。読み方:コムネクスト。
ケーブルテレビ業界の総合イベントに併設する展示会。CATVインフラはRFの同軸ケーブルから光ファイバに置き換わろうとしていて、光パワーメータやOTDRが展示されている。
図7 OTDR現役機種:アンリツ MW90010B(左)、横河計測 AQ7290(右)
表4の品名を見て両方ともOTDRとわかる方は光通信を知っている人です。OTDRは「光のTDR」ですから、原理(測定手法)を日本語にすれば「光パルス試験」といえます。OTDRの別名が光パルス試験器です。安藤電気はなぜかこの名前を使わず、初期の1970年代から「光ファイバアナライザ」が品名です。光ファイバの評価には波長分散や偏波を測定するベンチトップのアナライザもあり、OTDRは「光ファイバ敷設・保守用 可搬型・現場アナライザ」でしょうか。2000年代になると品名は「OTDR(光パルス試験器)」になり、現在の横河計測には光ファイバアナライザという製品はありません。これは極端な例ですが、いいたかったのは「品名から機種群がわかるには幅広い計測器の知識がいる」ということです。
| 品名 | 形名 | メーカ |
|---|---|---|
| 光パルス試験器 | MW9076J | アンリツ |
| 光ファイバアナライザ | AQ-7140C | 安藤電気 |
次に、光ファイバの敷設・保守では伝送損失の測定を光源と光パワーメータで行います。光ファイバの片端に光源から入射し、もう一方の端から光パワーメータで受けて光信号の減衰量を調べます。そこで、ハンドヘルドの光源と光パワーメータが1台になった「光ロステスタ」という製品があります。光源と光パワーメータが別筐体の「光ロステストセット」もあります。現在はOptical Loss Test Setを略したOLTSがはやりのようで、品名からは光ロステスタとわからないケースもあります。表5は2社のホームページにある現役機種の名称例です。スペクトラムアナライザがいつの間にかシグナルアナライザという品名が増えたように、同じ製品でも時代とともに品名は変遷します。1980年代にもOLTSという表記はあったのかもしれませんが、ほとんど聞いた覚えがありません。現在は光ロステスタよりもOLTSが一般名称のようです。ですから、光通信は普及期の昔から知っていると自負している人でも、常に勉強していないと名称すらわからなくなります。
| 現役機種の名称 | メーカ |
|---|---|
| 光ロステスタ CMA5 OLTS | アンリツ |
| マルチフィールドテスタOLTS AQ1100 | 横河計測 |
さらに、安藤電気が一世を風靡したAE-5104/5105などの品名はプロトコルアナライザではなく「データコニュニケーションアナライザ」です。プロトコルアナライザは機器間のデータ通信(data communication)の内容を捉えて解析するので、data communication analyzer(データ通信の解析器)は適切な名称です。同社はNTTに早くから「通信回線モニタ装置(データ回線診断器/試験器)」を納品しています。まだ世間でプロトコルアナライザという洒落た名前の機種群が確立する以前の話です。当時はデータ回線アナライザなどの呼称がありました。同社の設計部門では回線アナライザを略して「回アナ」と呼んでいました。
データ通信の黎明期に安藤電気はNTT向けに回線アナライザをつくり、データ通信が普及するとプロトコルアナライザと呼ばれるようになったが、先頭を走っていた安藤電気はデータコミュニケーションアナライザを品名にしていた、と筆者は理解しています。データコニュニケーションアナライザなんて好き勝手な名前をつけて、プロトコルアナライザとわかりにくい、というお叱りはごもっともですが、この分野の先駆者としての品名だったと思います。いまならプロトコルアナライザを略した「プロアナ」が最も一般的な呼称です。
図8 AE5945 WANモニタ/シミュレーションユニット(左)、
AE5948 TTLモニタ/シミュレーションユニット(右)
AE-5105の次にAE5131やAE5135が2000年代に発売されますが、品名はプロトコルアナライザです。ただしAE5131を発売したときの安藤電気はプロトコルアナライザのトップランナではなくなっていました。新しい通信方式のISDN※13が広まったときに、同社はISDN対応モデルをリリースできず、満を持して発売したプロトコルアナライザは以前のようには売れませんでした。同社の輝かしいプロアナ時代はデータコニュニケーションアナライザとともに終わりました。
(Integrated Services Digital Network) NTTが1988年からサービス開始した「統合デジタル通信網」。サービス名は「INSネット64」と「INSネット1500」。1990年代に普及したデジタル通信のはしり。
最後は通信計測器ではありません。表6の2モデルはほぼ同等品ですが、品名からそのことがわかるのはリレー試験の関係者だけでしょう。
| 品名 | 形名 | メーカ |
|---|---|---|
| パワーマルチメータ | 2721 | エヌエフ回路設計ブロック |
| デジタル電圧電流位相差計 | PHA-100/200シリーズ | 近計システム |
3ch(三相を測定できる)電力計で、位相なども測定できるのがポイントです。保護リレー試験器※14の関連製品で、特殊な電力計(マルチ計測器)です。2721の製品カタログには「三相の交流電力信号を測定できる。6つの表示窓(5桁)があり、電圧、電流のほか有効電力、位相、力率、周波数、リレーの動作時間などを測定」とあります。
変電所などの電力インフラに使われる「保護リレーの総合試験器」。多相の電圧電流発生器とマルチメータ、電力計、カウンタなどが1筐体になったマルチ計測器。無線機テスタ(ワンボックステスタ)もSGとパワーメータ、スペアナ機能を1台にした「無線機の総合試験器」である。
エヌエフ回路設計ブロックの品名は「ただのパワーメータ(電力計)ではなく、用途に適した各種の項目を測定できる、パワーメータ&マルチメータ」とでもいうネーミングです。パワーメータなのかマルチメータなのか迷いますが、このような特殊モデルを使うのは主にリレー試験の関係者だけなので、素人にはわからなくても十分に伝わる品名で、何も問題はないのです。計測器メーカは使用者に一番理解される(アピールする)品名をつけます。近計システムは「デジタル表示の電圧、電流、位相差」という大変シンプルでわかりやすい品名で、「電圧、電流だけでなく位相差まで測定できる特殊なマルチメータ」を想像し、パワーメータ(電力が測定できる)とは思わないかもしれませんが、これも同様に何の問題もありません。電力分野の保護リレーを評価する計測器で、それ以外、たとえば通信や半導体の技術者には無縁です。計測器の品名は「わかる人にはわかる」で、裏を返すと「わからない人はわからなくて結構」という割り切りがあります。
図9 2721(左)とPHA-200B(右)
今回示したのはオシロスコープやデジタルマルチメータのような、機種群名と品名がほとんど同じモデルではありません。特殊なモデルの話と思われたかもしれませんが、そもそも計測器はニッチな製品で特殊用途に使うものです。計測器の品名にはメーカが使用者に伝えたいことが詰まっているので、使用しない人には伝わらない表記になることも多々あります。オシロスコープはほとんど「オシロスコープ」という淡白な品名が多いですが、ミックスド・シグナル・オシロスコープや高分解能オシロスコープなど、時々、メーカが推したいことが品名に現れます。反対に「絶縁型オシロスコープ」という品名を聞いたことがないのは、主要オシロスコープメーカが絶縁型をさして重要視していない(PRする気がない)からと想像します。品名に絶縁とあれば、わざわざ仕様を調べなくても品名からその製品の特長が瞬時に理解できますが、品名はメーカの胸先三寸で、広く万人に伝えるものではありません。
おわりに
安藤電気には通信計測器以外にも特長ある製品がありました。回路素子や材料評価用の測定器を多数つくりました。ブリッジは歴史があり、1980年頃にMPU搭載のLCRメータを発売しています。組み込み機器の評価で必需品となったROMプログラマは1982年に開発し、後継機種は別会社で形名を継承して現在もつくられています。これらの形名の話は別の機会に譲ります。形名はその会社の技術者が抱く「計測器の世界観」を反映している気がします。会社の変遷が形名に影響することもあります。次回も通信計測器を例に、形名と時代を担った代表モデルを説明します。
他の技術情報・レポートは こちらから

.png)