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初めて使うオシロスコープ・・・第7回「単発現象の測定」

連載記事一覧
第1回:オシロスコープが届いたら最初にすること
「はじめに」「届いたオシロスコープを見てみる」「オシロスコープに電源を投入する」「日付時刻を設定する」「【ミニ解説】オシロスコープを安全に使うために配電の仕組みを知る」
第2回:パネルにあるキーや端子などの基本的な役割
「オシロスコープの前面パネルにあるキーや端子」「オシロスコープの背面パネルにある端子」「オシロスコープ内部が冷却できるようにして使う」「【ミニ解説】プローブ・インターフェース」
第3回:CAL信号を使ってプローブを調整
「Autoset機能を使ってCAL信号を観測する」「受動電圧プローブの調整」「受動電圧プローブの選択」「グランド・リードの長さによる影響」「装置組込みでオシロスコープを利用する場合」「【ミニ解説】デジタル・オシロスコープの選定のキーワード」
第4回:電圧軸の基本的な設定
「Autoset機能を使わないで電圧軸を設定する」「入力感度の設定」「オシロスコープで測れる最大電圧」「【ミニ解説】オシロスコープで受動電圧プローブを使う効果」
第5回:時間軸とトリガの基本的な設定
「A/D変換器による波形の捕捉」「波形取り込みの設定」「時間軸の設定」「トリガの機能」「トリガの設定」
第6回:オシロスコープを安全に使う
「オシロスコープ入力端子の外側はケースに繋がっている」「測定対象がコモンモード電位を持っているときは要注意」「オシロスコープの受動電圧プローブでコンセントの波形を測るのは危険」「高電圧シングル・エンド・プローブを使って測定する場合は接地が必須」「オシロスコープに入力できる最大電圧」「受動電圧プローブの取り扱いは丁寧に」「電源品質にも注意」「【ミニ解説】デジタル・マルチメータは入力が絶縁されている」
第7回:単発現象の測定
「単発現象をオシロスコープで測定」「単発現象を観測するための設定」「レコード長とサンプルレートの設定(正弦波の場合)」「レコード長とサンプルレートの設定(パルス波の場合)」「レコード長を長くして取り込んだ波形を拡大する」「【ミニ解説】レコード長が長いオシロスコープのメリット」
第8回:波形パラメータの読み取り
「取り込んだ波形の情報をカーソルによって読み取る」「波形パラメータを自動測定する」「自動測定機能を使ってのパルス波形を測定するときの注意点」「自動測定を使って2つの入力の位相差や時間差を測定するときの注意点」「【ミニ解説】デューティ比を制御して調光するLED照明」
第9回:取り込んだ波形データへの演算
「取り込んだ波形を演算処理する」「取り込んだ波形にFFT演算を行う」「【ミニ解説】オシロスコープのFFT機能を使ってノイズ源の探査」
第10回:波形画像や波形データのUSBメモリへの保存
「オシロスコープに取り込んだ波形画像や波形データを取り出す」「オシロスコープに表示されている波形画像をUSBメモリに保存する」「オシロスコープに保存されている波形データをUSBメモリの保存する」「オシロスコープの設定状態の保存と呼出し」「波形データの呼び出し」「内部メモリやUSBメモリに保存されたデータを消去する」「【ミニ解説】USBメモリの注意点」
第11回:オシロスコープと組合せて使うさまざまなプローブ
「オシロスコープに接続できるさまざまなプローブ」「TBS2000Bが使えるプローブ類」「高電圧シングルエンド・プローブの用途と使用上の注意点」「高電圧差動プローブの用途と使用上の注意点」「電流プローブの用途と使用上の注意点」「低電圧シングルエンド・プローブの用途と使用上の注意点」
第12回:テクトロニクスが提供するPCソフトウェア
「【インタビュー】テクトロニクスが取り組むPCソフトウェアを使った効率的な開発環境の構築」

単発現象をオシロスコープで測定

水晶発振器からの信号のように繰り返し同じ波形が現れる信号波形を観測する場合と、通信信号のように波形が伝送するデータによって変化する信号波形を観測する場合がある。

アナログ・オシロスコープしかなかった時代では、変化する波形を観測するときは表示管面に波形を記録して保持する特殊なアナログ・ストレージ・オシロスコープ(テクトロニクスの464など)を使って単発現象の波形を観測していたが、管面に記録された波形は保持できる時間に制約があり、時間とともに波形はぼやけていった。このため波形を記録する場合は専用のオシロスコープ用カメラを使って画面を撮影した。

アナログ信号の波形を高速A/D変換器によってデータ化してメモリに保存される仕組みのデジタル・オシロスコープでは単発現象を容易に記録することができる。デジタル・オシロスコープでは波形データを記録する部分と表示する部分が異なるため記録した波形の拡大は容易となる。

単発現象を観測するための設定

TBS2000Bでは波形の補足(アクイジション)を切り替えるキーがパネル上部にある。通常は連続して波形を補足する状態になっているが、シングル(Single)キーを押すと単発現象を記録できる動作モードに切り替わる。

図56. 単発現象を測定するモードに切り替えるキー

図56. 単発現象を測定するモードに切り替えるキー

シングルキーを押すと、トリガモードは自動的にノーマル・トリガとなる。トリガ信号を受けると設定したレコード長まで波形を取り込んで表示を行う。

TBS2000Bではトリガソースとして入力信号のいずれかもしくは電源ラインとなっている。観測する波形とトリガ源となる信号が異なれば、入力の1つをトリガ専用にする。

レコード長とサンプルレートの設定(正弦波の場合)

単発現象を観測する際は波形の形からレコード長とサンプルレートを決めなければならない。例えば440Hz音叉で発生させた音が減衰するまでに10秒間をマイクロホンで観測したいとする。

図57. 音叉からの音の波形観測

図57. 音叉からの音の波形観測

オシロスコープで波形を観測する場合は観測したい波形の最高周波の5倍以上の周波数帯域を持ったオシロスコープを選ぶ必要がある。440Hzが最高周波数とすると2200Hz以上の周波数帯域があればよいことになる。TBS2000Bは十分な周波数帯域を持っているので問題はない。

また、サンプルレートはオシロスコープでよく使われるSin(x)/x補間では最高周波数の2.5倍以上が必要となる。最高周波数を440Hzとすると1100S/s以上が必要となる。測定時間は10秒なので11000データ以上のレコード長を確保すればよいことになる。

実際の波形観測では440Hzの高調波ひずみ成分も見たくなるので、サンプルレートは観測したい高調波ひずみ成分の周波数を最高周波数としてサンプルレートやメモリ長を決めていくことになる。

レコード長とサンプルレートの設定(パルス波の場合)

パルス信号を扱うデジタル通信の波形を観測するときは単発現象の観測を行う。波形観測時間は通信を行う単位をすべて取り込むことになる。例えば赤外線リモコンの場合は下記のようなパルス列をオシロスコープに取り込むことになる。

図58. 赤外線リモコンからのデータ列の例

図58. 赤外線リモコンからのデータ列の例

オシロスコープで測定するのは受光素子から得られた信号もしくはロジックICの出力信号となる。通信データのロジックIC出力の波形品位まで観測しようとすると一般に500MHz以上の周波数帯域が必要となり、TBS2000Bクラスのオシロスコープではロジック波形の波形品位まで評価することは難しい。長いレコード長を持つTBS2000Bでは赤外線リモコンのほか、自動車でよく使われるCAN通信や回路基板の中で使われるI2C通信などのデータ列の確認に使うのには適している。

レコード長を長くして取り込んだ波形を拡大する

レコード長を長くして単発現象をTBS2000Bに記録した場合は時間軸を拡大して波形の詳細を見る場合がある。時間軸方向に拡大する機能を使うにはパネルにあるズーム(Zoom)キーを押して設定機能を呼出す。

図59. 取り込んだ波形を時間軸方向に拡大するズーム機能の設定

図59. 取り込んだ波形を時間軸方向に拡大するズーム機能の設定

拡大する倍率は画面にあるスケール(Scale)を選択してパネルにある汎用(Multipurpose)ノブで設定を行う。また拡大する部分は画面にある位置(Position)を選択してパネルにある汎用ノブで設定を行う。

【ミニ解説】レコード長が長いオシロスコープのメリット

デジタル・オシロスコープが登場したときのレコード長は1000データ程度であった。当時のデジタル・オシロスコープは取り込んだ波形データをマイクロプロセッサによって表示波形に作り出していた。当時のマイクロプロセッサだけで波形データの処理を行うと波形画像をスムーズに表示するにはレコード長を長くすることは難しかった。

図60. 初期のデジタル・オシロスコープのブロック図

図60. 初期のデジタル・オシロスコープのブロック図

現在のデジタル・オシロスコープでは画面に波形を表示させる機能は専用のDSP(Digital Signal Processing)回路を用いているため、大量の波形データは高速に処理されリアルタイムな表示ができるようになっている。このためデジタル・オシロスコープはすべての面でアナログ・オシロスコープを超える製品となり、アナログ・オシロスコープはほぼ使われなくなった。

図61. 現在のデジタル・オシロスコープのブロック図

図61. 現在のデジタル・オシロスコープのブロック図

波形データを大量に記録できるようになって、利用者にとってよいことは下記の点である。

① 波形に含まれる周波数成分を広くできるようになり、低周波信号に重畳する高周波信号を同時に観測することができる。

② シリアル通信のように決められた長さの情報を取り込まないと信号の評価ができない場合には大量の波形データを取り込めるため作業性はよくなる。

③ 発生頻度の少ない突発現象を把握するには記録長が長いほうが突発現象を補足する確率が高まる。

④ 複数チャネルのオシロスコープでは信号間の関連性を長い時間に渡って観測できるため、機器の動作を評価しやすくなる。

TBS2000Bは5Mポイントのレコード長を持っているが、上位クラスのオシロスコープでは1Gポイントの記録長を持つものがある。


執筆:横河レンタ・リース株式会社 事業統括本部 魚住 智彦

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