初めて使うオシロスコープ・・・第6回「オシロスコープを安全に使う」
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- 第1回:オシロスコープが届いたら最初にすること
- 「はじめに」「届いたオシロスコープを見てみる」「オシロスコープに電源を投入する」「日付時刻を設定する」「【ミニ解説】オシロスコープを安全に使うために配電の仕組みを知る」
- 第2回:パネルにあるキーや端子などの基本的な役割
- 「オシロスコープの前面パネルにあるキーや端子」「オシロスコープの背面パネルにある端子」「オシロスコープ内部が冷却できるようにして使う」「【ミニ解説】プローブ・インターフェース」
- 第3回:CAL信号を使ってプローブを調整
- 「Autoset機能を使ってCAL信号を観測する」「受動電圧プローブの調整」「受動電圧プローブの選択」「グランド・リードの長さによる影響」「装置組込みでオシロスコープを利用する場合」「【ミニ解説】デジタル・オシロスコープの選定のキーワード」
- 第4回:電圧軸の基本的な設定
- 「Autoset機能を使わないで電圧軸を設定する」「入力感度の設定」「オシロスコープで測れる最大電圧」「【ミニ解説】オシロスコープで受動電圧プローブを使う効果」
- 第5回:時間軸とトリガの基本的な設定
- 「A/D変換器による波形の捕捉」「波形取り込みの設定」「時間軸の設定」「トリガの機能」「トリガの設定」
- 第6回:オシロスコープを安全に使う
- 「オシロスコープ入力端子の外側はケースに繋がっている」「測定対象がコモンモード電位を持っているときは要注意」「オシロスコープの受動電圧プローブでコンセントの波形を測るのは危険」「高電圧シングル・エンド・プローブを使って測定する場合は接地が必須」「オシロスコープに入力できる最大電圧」「受動電圧プローブの取り扱いは丁寧に」「電源品質にも注意」「【ミニ解説】デジタル・マルチメータは入力が絶縁されている」
- 第7回:単発現象の測定
- 「単発現象をオシロスコープで測定」「単発現象を観測するための設定」「レコード長とサンプルレートの設定(正弦波の場合)」「レコード長とサンプルレートの設定(パルス波の場合)」「レコード長を長くして取り込んだ波形を拡大する」「【ミニ解説】レコード長が長いオシロスコープのメリット」
- 第8回:波形パラメータの読み取り
- 「取り込んだ波形の情報をカーソルによって読み取る」「波形パラメータを自動測定する」「自動測定機能を使ってのパルス波形を測定するときの注意点」「自動測定を使って2つの入力の位相差や時間差を測定するときの注意点」「【ミニ解説】デューティ比を制御して調光するLED照明」
- 第9回:取り込んだ波形データへの演算-->
- 「取り込んだ波形を演算処理する」「取り込んだ波形にFFT演算を行う」「【ミニ解説】オシロスコープのFFT機能を使ってノイズ源の探査」
- 第10回:波形画像や波形データのUSBメモリへの保存
- 「オシロスコープに取り込んだ波形画像や波形データを取り出す」「オシロスコープに表示されている波形画像をUSBメモリに保存する」「オシロスコープに保存されている波形データをUSBメモリの保存する」「オシロスコープの設定状態の保存と呼出し」「波形データの呼び出し」「内部メモリやUSBメモリに保存されたデータを消去する」「【ミニ解説】USBメモリの注意点」
- 第11回:オシロスコープと組合せて使うさまざまなプローブ
- 「オシロスコープに接続できるさまざまなプローブ」「TBS2000Bが使えるプローブ類」「高電圧シングルエンド・プローブの用途と使用上の注意点」「高電圧差動プローブの用途と使用上の注意点」「電流プローブの用途と使用上の注意点」「低電圧シングルエンド・プローブの用途と使用上の注意点」
- 第12回:テクトロニクスが提供するPCソフトウェア
- 「【インタビュー】テクトロニクスが取り組むPCソフトウェアを使った効率的な開発環境の構築」
オシロスコープ入力端子の外側はケースに繋がっている
多くの高周波測定器と同じようにオシロスコープ入力端子の外側の金属とオシロスコープのケースは導通している。
オシロスコープに接続される受動電圧プローブのアースリードはBNC端子の外側に接続されている。このためプローブのグランド・リードとケースは同じ電圧になる。
測定対象がコモンモード電位を持っているときは要注意
オシロスコープは安全のため接地を取って使うので、コモンモード電位を持った測定対象にグランド・リードを接続するとオシロスコープを介して電流が接地に向かって流れ、測定対象やプローブの破損につながる危険がある。
また、オシロスコープを接地しないで使った場合は測定対象のコモンモード電位とオシロスコープのケース電位が同じになるため、人がケースを触れたときに感電する危険がある。
測定対象がコモンモード電位を持っている場合は、高電圧差動プローブや入力が絶縁されたオシロスコープを使用する。
オシロスコープの受動電圧プローブでコンセントの波形を測るのは危険
受動電圧プローブを使って電源コンセントの電圧波形を測ろうとして、受動電圧プローブを壊してしまうことがある。これは電源コンセントのライン側(接地されていない側)にグランド・リードを接続してしまうためである。またオシロスコープを接地しないで使った場合は感電の危険があるので、受動電圧プローブをコンセントに繋いではいけない。電源コンセントの電圧波形を観測する場合は高電圧差動プローブを用いる。
高電圧シングル・エンド・プローブを使って測定する場合は接地が必須
高電圧シングル・エンド・プローブを使って高い電圧波形を観測する場合はグランド・リードが外れたときに内部抵抗を介してオシロスコープのケースに高電圧が印加される危険がある。オシロスコープの接地がされていない場合は人がケースに触れたときに感電するため、必ず接地して使わなければならない。
オシロスコープに入力できる最大電圧
下記のTBS2000B本体の入力端子にはIEC 60664-1に規定されている過電圧カテゴリが「≦300V RMS CATⅡ」と示されている。カテゴリ番号が大きいほど配電線に近いところで使える測定器を意味する。
TBS2000Bに書かれたカテゴリ表示の意味は「最大過渡(サージ)電圧2500Vまで耐える設計」になっており、オシロスコープの測定対象はコンセントから電源供給される機器の内部までであることを示している。
ただし、TBS2000B本体の仕様で許容されている入力電圧は300VRMS以下で、ピーク電圧が±450V以下であるため、これ以上の電圧を本体に直接入力しないようにしなければならない。10:1の受動電圧プローブを使った場合は測定対象の信号は1/10に減衰されて本体に入力される。高い電圧を測定する場合はプローブに許容された最大電圧の仕様を確認する必要がある。
受動電圧プローブの取り扱いは丁寧に
オシロスコープの受動電圧プローブに使われている同軸ケーブルは浮遊容量を小さくするために芯線は細い電線となっている。同軸ケーブルを無理に曲げることやケーブルに強い力を加えると破損することがある。
受動ケーブルを保管する際はケーブルを下記のような状態にしておくことが必要である。
電源品質にも注意
日本国内ではコンセントからの得られる電源品質は安定しているため注意の必要はないが、海外では電源環境がよくない地域では、サージノイズや瞬低などがありオシロスコープが安定して動作しない場合がある。このような地域でオシロスコープを使う場合は安定化電源装置と組み合わせて使うことを検討する必要がある。
また、国内では屋外でオシロスコープを使う場合に自動車の直流12V電源から車載用DC/ACインバータを使って交流100Vを得ることがある。DC/ACインバータには正弦波出力のものと矩形波出力のものがある。測定器などは正弦波の電源波形で動作するように設計されているので、正弦波出力のDC/ACインバータを利用する。
【ミニ解説】デジタル・マルチメータは入力が絶縁されている
デジタル・マルチメータの入力の測定端子はケースと導通していないので、測定リードを交流電源のコンセントに接続しても問題はない。
デジタル・マルチメータの内部は下図のようになっており、制御信号、測定データ、駆動電源はいずれもフォトカプラーやトランスを使って絶縁している。このため入力端子は人が触れる可能性があるケースとは電気的につながっていない。
デジタル・マルチメータ以外にも記録計やメモリレコーダも絶縁入力となっている。ただしメモリレコーダでは一部の入力モジュールはオシロスコープと同じ非絶縁入力となっている。
また、オシロスコープには入力が絶縁された製品があり、コモンモード電圧が異なる個所の波形測定や商用交流電源の波形観測に使われている。
執筆:横河レンタ・リース株式会社 事業統括本部 魚住 智彦