初めて使うデジタルマルチメータ・・・第8回 「温度測定と仕様の見方」
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- 第1回:デジタルマルチメータが届いたら最初にすること
- 「はじめに」「6.5桁ベンチトップ型のデジタルマルチメータのパネル」「パネルに書かれた警告表示」「テストリード」「電源の投入と日付時刻の設定」
- 第2回:デジタルマルチメータの基礎知識
- 「直流電圧を正確に測る歴史」「現在のデジタルマルチメータの構造と機能」「デジタルマルチメータの選定」「【ミニ解説】測定カテゴリーとは」
- 第3回:直流電圧の測定と仕様の見方
- 「直流電圧を測定するための結線」「デジタルマルチメータの直流電圧測定の仕様表現」「直流電圧を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「直流測定で発生する誤差要因」「1000Vを越える直流高電圧の測定」「微小な直流電圧の測定」「【ミニ解説】デジタルマルチメータで採用されている安全端子」
- 第4回:交流電圧の測定と仕様の見方
- 「交流電圧を測定するための結線」「平均値検波と実効値検波の違い」「交流電圧測定での周波数帯域」「デジタルマルチメータの交流電圧測定の仕様表現」「交流電圧を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「歪んだ波形を測る際の注意点」「750Vrmsを越える交流高電圧の測定」
- 第5回:抵抗の測定と仕様の見方
- 「抵抗を測定するための結線」「デジタルマルチメータの抵抗測定の仕様表現」「抵抗を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「34461Aでの2端子測定での抵抗測定の操作手順」「4端子式測定を行う場合の注意事項」「高抵抗を測定する際の注意事項」「【ミニ解説】直流による抵抗測定と交流による抵抗測定」
- 第6回:直流/交流の電流測定と仕様の見方
- 「直流電流を測定するための結線」「デジタルマルチメータの直流電流測定の仕様表現」「直流電流を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「34461Aでの3Aレンジ以下の直流電流測定の操作手順」「電流入力端子に実装されている保護用ヒューズの断線を防ぐ」「直流電流測定時の注意事項」「10Aを越える直流電流の測定」「交流電流を測定するための結線」「デジタルマルチメータの交流電流測定の仕様表現」「交流電流を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「34461Aでの3Aレンジ以下の交流電流測定の操作手順」「10Aを越える交流電流の測定」
- 第7回:周波数測定と仕様の見方
- 「周波数を測定するための結線」「34461Aで採用されているレシプロカル・カウント方式」「34461Aで設定可能なゲート時間」「34461Aの周波数測定の仕様表現」「周波数/周期を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「34461Aでの周波数/周期測定の操作手順」「【ミニ解説】ユニバーサル・カウンタとの違い」
- 第8回:温度測定と仕様の見方
- 「温度を測定するための結線」「【ミニ解説】さまざまな温度センサ」「34461Aの温度測定の仕様表現」「温度を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「34461Aでの温度測定の操作手順」「【ミニ解説】温度測定で使われる多点温度計」
- 第9回:導通/ダイオード試験、容量測定
- 「導通/ダイオード試験をするための結線」「34461Aでの導通試験の操作手順」「34461Aでのダイオード試験の操作手順」「コンデンサの容量を測定するための結線」「34461Aの容量測定の仕様表現」「容量を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「34461Aでの容量測定での操作手順」「【ミニ解説】正確にコンデンサの容量を測定するときはLCRメータを使う」
- 第10回:デジタルマルチメータをシステムで使う
- 「デジタルマルチメータをシステムで使う」「外部トリガ入力と測定完了出力端子」「外部トリガ機能の設定」「34461Aに搭載されている通信インタフェース」「ラックを選定する際の注意点」「測定システムのノイズ対策」
- 第11回:デジタルマルチメータの周辺アクセサリ
- 「測定器メーカが用意しているアクセサリ」「DC結合電流プローブ」「30A電流シャント抵抗」「ターミナル・コネクタ」「34401Aから34461Aへの置き換え」
- 第12回:キーサイトの新しい教育向け汎用測定器
- 「【インタビュー】キーサイト・テクノロジーが考える教育向け汎用測定器」
温度を測定するための結線
今回の記事に使っている34461Aには付加機能として白金測温抵抗体とサーミスタを使って温度を測定する機能がある。この機能は34461Aの前のモデルの34401Aにはない新しい測定機能である。34461Aの上位機種である34465Aと34470Aでは熱電対を使っての測定も可能となっている。
廉価モデル | 標準モデル | 上位モデル | キーサイトが販売するサンセ仕様 | ||
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6.5桁モデル | 7.5桁モデル | ||||
34460A | 34461A | 34465A | 34470A | ||
PT100(DIN/IEC 751) | プローブ確度+0.05℃ | 34152A PT100/RTD 4端子クラスAセンサキット 温度範囲:-73℃ ~ 260℃ |
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5kΩサーミスタ | プローブ確度+0.1℃ | E2308A サーミスター温度プローブ 温度範囲:-40℃~150℃ |
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K/J/T/E/Nタイプ熱電対 | 未対応 | プローブ確度+ 基準接点確度+0.3℃ |
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Rタイプ熱電対 | 未対応 | プローブ確度+ 基準接点確度+0.5℃ |
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注)内部基準接点はフロント入力端子の温度を測定しているため、リア端子を使った場合は温度誤差は大きくなるため利用は推奨されない。 |
表14. キーサイト・テクノロジーのベンチトップ型デジタルマルチメータの温度測定機能
白金測温抵抗体を使って温度を測るための結線は抵抗と同じである。下図は市場で多く使われている3導線式の白金測温抵抗体での接続を示す。

図69. 34461Aで3導線式の白金測温抵抗体を使って温度を測定する場合の結線
サーミスタを使って温度を測るための結線は抵抗の測定と同じである。

図70. 34461Aでサーミスタを使って温度を測定する場合の結線
【ミニ解説】さまざまな温度センサ
温度を測定する方法はさまざまある。そのなかでよく使われる温度センサは下記に示すとおりである。
測温体 | 利点 | 欠点 |
---|---|---|
熱電対 センサ |
(1)小さい個所の温度測定ができる (2)熱時定数が小さい (3)温度差を測るのに都合がよい (4)振動、衝撃に対して丈夫である |
(1)基準接点が必要である (2)基準接点および補償導線の誤差を考慮する必要がある |
測温抵抗体 センサ |
(1)熱電対のような基準接点を必要としない (2)熱電対に比較して、常温、中温付近で精度がよい (3)ある大きさの部分の平均温度を測定するのに都合がよい |
(1)熱時定数が大きく、遅れを小さくしにくい (2)自己加熱に注意する必要がある (3)振動の強い場所では破損のおそれがある |
サーミスタ |
(1)小さい個所の温度測定ができる (2)熱電対のような基準接点が不要である (3)感度が非常によい (4)素子の抵抗値が大きいため、導線抵抗による誤差が無視できる |
(1)抵抗と温度との直線性が悪く、使用できる温度範囲がせまい (2)自己加熱に注意する必要がある (3)互換用抵抗を用いた合成抵抗式では、温度変化に対して抵抗変化率が小さくなる (4)振動、衝撃で破損する恐れがある |
表15. よく使われる温度センサの利点と欠点
出出典:e-learning教材「電気電子計測コース、LCRを測る」(科学技術振興機構のホームページ)
温度センサの中で最もよく使われるのが熱電対であるが、ゼーベック効果を利用している熱電対を使うには端子台の温度を別な手段で測って補正する仕組みが必要となるため端子構造が複雑になる。34461Aでは温度測定が付加的な機能であるため、追加の回路が不要な白金測温抵抗体とサーミスタに限定されている。
34461Aで利用できる白金測温抵抗体とサーミスタは温度に対して抵抗値が変化する特性を持っている。白金測温抵抗体は温度に対して抵抗値がほぼ直線状に変化する。

図71. 白金測温抵抗体Pt100の温度に対する抵抗値の変化
一方、サーミスタは温度の変化に対して抵抗値は直線的に変化しない。下記には34461Aで使える5kΩ(@25℃) 44007タイプのサーミスタの温度特性を示す。

図72. サーミスタ5kΩ(@25℃) 44007タイプの温度に対する抵抗値の変化
34461Aの温度測定の仕様表現
34461Aの温度測定確度の表現は白金測温抵抗体(Pt100)では「プローブ確度+0.05℃」であり、5kΩサーミスタでは「プローブ確度+0.1℃」となっている。
実際の温度測定では測定したい対象物と温度センサの関係を知らないと正しい測定はできない。温度測定で必要な主な注意事項を下記に示す。
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測定対象の熱源がセンサを接触させることによって冷却される
測定対象が小さなものではセンサを接触させることによって温度が低下する。 -
測定対象の熱伝導率を考慮する必要がある。
金属など熱伝導率が良いものではセンサを接触させたのちに、短時間で測定対象の温度は均一化する。
樹脂など熱伝導率が悪いものではセンサ接触させたのちに、時間の経過があっても測定対象の温度は均一にならない場合がある。 -
測定対象へのセンサの密着度
接触式の温度センサで固体物の温度測定をする場合は密着度により測定値は異なる。 -
風の影響を考慮する
測定対象に風が当たると熱が奪われて温度変化が生じる。測定の目的によっては風の影響を受けない工夫が必要となる。 -
熱源の影響
日光や熱源からの熱放射によって測定対象が温まることがあるので、測定の目的によっては日光や熱源が測定対象に影響しないようにする。 -
外来ノイズの影響
外部から電気的なノイズ影響を受けると測定値が安定しないことがある。センサからの導線のシールドなどノイズが混入しない工夫が必要である。 -
導線の影響を考慮する
抵抗変化によって温度を知る白金測温抵抗体やサーミスタでは温度センサから測定器までの導線の抵抗の影響を受けるので、配線長が長い場合は導線の抵抗値を予め知っておく必要がある。ただし白金測温抵抗体を4導線式で使った場合は導線抵抗の影響は受けない。
温度を測定するためのデジタルマルチメータの操作
34461Aにおいて温度を測定するための設定項目は下記のように構成されている。
34461Aでは白金測温抵抗体(Pt100)と5kΩ(@25℃) 44007タイプのサーミスタであるため、設定の仕方は抵抗測定とよく似ている。

図73. 34461Aでの温度測定設定項目の構成
34461Aでの温度測定の操作手順
34461Aのパネルにある「Temp」キーを押して温度測定の設定画面を表示させる。

図74. 34461Aでの温度を測定するための初期画面
最初に画面左端にある「Probe」キーを押して使用する温度センサの種類と結線方法を指定する。通常は2線式(2w)を選択するが、精密な測定が必要な場合は4線式(4w)を利用する。白金測温抵抗体は3線式が最もよく使われるが、34461Aでは対応していないので2線式で測定する。

図75. 34461Aでの温度センサの種類と結線方法を設定する画面
白金測温抵抗体(Pt100)を利用する場合は0℃での抵抗値を画面にある「R0」キーを押して設定する。0℃で校正された白金測温抵抗体を利用する場合は校正値を入力する。校正されていない場合は100Ωとして入力する。

図76. 34461Aでの白金測温抵抗体(Pt100)の0℃の抵抗値を設定する画面
「Auto Zero」と「Aperture(積分時間)」の設定は直流電圧測定や抵抗測定と同じである。「Unit」は表示する温度の単位である。
【ミニ解説】温度測定で使われる多点温度計
一般に温度測定を行う場合は1点だけ測定することより多くの測定点で温度を測り温度分布などを知るために使われることが多い。多くの点の温度を同時に測定するための測定器として多点温度計がある。多点温度計は多点記録計、データ収集システム、データロガーなどとも呼ばれている。
多点温度計はデジタルマルチメータで使われる高分解能A/D変換器と測定点を切り替えるスキャナによって構成されている。温度だけでなく直流電圧の多点測定も可能である。

図77. データ収集システム DAQ970A(キーサイト・テクノロジー)
執筆:横河レンタ・リース株式会社 事業統括本部 魚住 智彦