初めて使うデジタルマルチメータ・・・第5回 「抵抗の測定と仕様の見方」
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- 第1回:デジタルマルチメータが届いたら最初にすること
- 「はじめに」「6.5桁ベンチトップ型のデジタルマルチメータのパネル」「パネルに書かれた警告表示」「テストリード」「電源の投入と日付時刻の設定」
- 第2回:デジタルマルチメータの基礎知識
- 「直流電圧を正確に測る歴史」「現在のデジタルマルチメータの構造と機能」「デジタルマルチメータの選定」「【ミニ解説】測定カテゴリーとは」
- 第3回:直流電圧の測定と仕様の見方
- 「直流電圧を測定するための結線」「デジタルマルチメータの直流電圧測定の仕様表現」「直流電圧を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「直流測定で発生する誤差要因」「1000Vを越える直流高電圧の測定」「微小な直流電圧の測定」「【ミニ解説】デジタルマルチメータで採用されている安全端子」
- 第4回:交流電圧の測定と仕様の見方
- 「交流電圧を測定するための結線」「平均値検波と実効値検波の違い」「交流電圧測定での周波数帯域」「デジタルマルチメータの交流電圧測定の仕様表現」「交流電圧を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「歪んだ波形を測る際の注意点」「750Vrmsを越える交流高電圧の測定」
- 第5回:抵抗の測定と仕様の見方
- 「抵抗を測定するための結線」「デジタルマルチメータの抵抗測定の仕様表現」「抵抗を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「34461Aでの2端子測定での抵抗測定の操作手順」「4端子式測定を行う場合の注意事項」「高抵抗を測定する際の注意事項」「【ミニ解説】直流による抵抗測定と交流による抵抗測定」
- 第6回:直流/交流の電流測定と仕様の見方
- 「直流電流を測定するための結線」「デジタルマルチメータの直流電流測定の仕様表現」「直流電流を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「34461Aでの3Aレンジ以下の直流電流測定の操作手順」「電流入力端子に実装されている保護用ヒューズの断線を防ぐ」「直流電流測定時の注意事項」「10Aを越える直流電流の測定」「交流電流を測定するための結線」「デジタルマルチメータの交流電流測定の仕様表現」「交流電流を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「34461Aでの3Aレンジ以下の交流電流測定の操作手順」「10Aを越える交流電流の測定」
- 第7回:周波数測定と仕様の見方
- 「周波数を測定するための結線」「34461Aで採用されているレシプロカル・カウント方式」「34461Aで設定可能なゲート時間」「34461Aの周波数測定の仕様表現」「周波数/周期を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「34461Aでの周波数/周期測定の操作手順」「【ミニ解説】ユニバーサル・カウンタとの違い」
- 第8回:温度測定と仕様の見方
- 「温度を測定するための結線」「【ミニ解説】さまざまな温度センサ」「34461Aの温度測定の仕様表現」「温度を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「34461Aでの温度測定の操作手順」「【ミニ解説】温度測定で使われる多点温度計」
- 第9回:導通/ダイオード試験、容量測定
- 「導通/ダイオード試験をするための結線」「34461Aでの導通試験の操作手順」「34461Aでのダイオード試験の操作手順」「コンデンサの容量を測定するための結線」「34461Aの容量測定の仕様表現」「容量を測定するためのデジタルマルチメータの操作」「34461Aでの容量測定での操作手順」「【ミニ解説】正確にコンデンサの容量を測定するときはLCRメータを使う」
- 第10回:デジタルマルチメータをシステムで使う
- 「デジタルマルチメータをシステムで使う」「外部トリガ入力と測定完了出力端子」「外部トリガ機能の設定」「34461Aに搭載されている通信インタフェース」「ラックを選定する際の注意点」「測定システムのノイズ対策」
- 第11回:デジタルマルチメータの周辺アクセサリ
- 「測定器メーカが用意しているアクセサリ」「DC結合電流プローブ」「30A電流シャント抵抗」「ターミナル・コネクタ」「34401Aから34461Aへの置き換え」
- 第12回:キーサイトの新しい教育向け汎用測定器
- 「【インタビュー】キーサイト・テクノロジーが考える教育向け汎用測定器」
抵抗を測定するための結線
デジタルマルチメータの内部には直流定電流源があり、抵抗器に一定の電流を流して抵抗の両端に発生する電圧を測定し、オームの法則に従った演算を行うことによって抵抗値を求める仕組みがある。
デジタルマルチメータを使って抵抗を測定するための結線には2つの方法がある。多くの測定では2端子法が使われるが、精密な抵抗測定や低抵抗の測定では4端子法が使われる。

図37. 抵抗測定における2端子測定法と4端子測定法
2端子測定法では測定対象の抵抗までの配線や接続端子による抵抗が加算された状態で抵抗測定が行われるため、測定対象の抵抗値が低い場合は誤差要因となる割合が増える。これを避けるために測定の前に配線などの抵抗を測る「Null」操作を行う。4端子法では測定のための電流を別な配線を使うため配線による誤差は生じない。しかし配線が複雑になるため精密な抵抗測定や低抵抗の測定以外は使うことは少ない。
34461Aを使って2端子測定法で測定する場合は下記のように測定対象の抵抗器と結線する。

図38. 34461Aでの2端子測定法での抵抗器への結線
34461Aを使って4端子測定法で抵抗測定する場合は通常のテストリードではなく、専用のケルビック・プローブを使って測定するのが望ましい。

図39. 34461Aでの4端子測定法での抵抗器への結線
デジタルマルチメータの抵抗測定の仕様表現
デジタルマルチメータでは抵抗器に流す定電流は測定レンジによって異なるため、仕様には測定電流が明記されている。
直流電圧の測定と同じように規定された温度環境の範囲でのレンジごとの誤差と規定された温度環境を越えたときに加算する温度係数が示されている。
レンジ | テスト電流 |
24時間 TCAL±1 ℃ |
90日間 TCAL ± 5 ℃ |
1年間 TCAL±5 ℃ |
2年間 TCAL±5 ℃ |
温度係数/℃ |
---|---|---|---|---|---|---|
100Ω | 1mA | 0.0030+0.0030 | 0.008+0.004 | 0.010+0.004 | 0.012+0.004 | 0.0006+0.0005 |
1kΩ | 1mA | 0.0020+0.0005 | 0.008+0.001 | 0.010+0.001 | 0.012+0.001 | 0.0006+0.0001 |
10kΩ | 100μA | 0.0020+0.0005 | 0.008+0.001 | 0.010+0.001 | 0.012+0.001 | 0.0006+0.0001 |
100kΩ | 10μA | 0.0020+0.0005 | 0.008+0.001 | 0.010+0.001 | 0.012+0.001 | 0.0006+0.0001 |
1MΩ | 5μA | 0.002+0.001 | 0.008+0.001 | 0.010+0.001 | 0.012+0.001 | 0.0010+0.0002 |
10MΩ | 500nA | 0.015+0.001 | 0.020+0.001 | 0.040+0.001 | 0.060+0.001 | 0.0030+0.0004 |
100MΩ | 500nA || 10MΩ | 0.300+0.010 | 0.800+0.010 | 0.800+0.010 | 0.800+0.010 | 0.1500+0.0002 |
注1)確度仕様の表現は±(読み値の%+レンジの%)となっている。 | ||||||
注2)仕様は、K=2のISO/IEC 17025(JIS Q17025)に準拠している。 | ||||||
注3)温度係数はTCAL±5 ℃から外れる場合、1 ℃外れるごとにこの値が追加される。 | ||||||
注4)100 MΩレンジでは端子間最大電圧を低くするために入力に10 MΩの抵抗が並列に接続されるようになっている。 |
表7. 34461Aでの抵抗測定の仕様表現
抵抗を測定するためのデジタルマルチメータの操作
34461Aにおいて2端子測定法で抵抗を測定するための設定項目は下記のように構成されている。

図40. 34461Aでの2端子式抵抗測定設定項目の構成
34461Aにおいて4端子測定法で抵抗を測定するための設定項目は下記のように構成されている。

図41. 34461Aでの4端子式抵抗測定設定項目の構成
今回の記事ではよく使われる2端子測定法で34461Aの操作手順を説明する。
34461Aでの2端子測定での抵抗測定の操作手順
2端子測定法で抵抗を測る場合は最初に配線の抵抗を測定してデジタルマルチメータに記憶させる「Null」操作が必要となる。「Null」を実行しておけばテストリードのなどによる誤差は取り除かれる。
パネル上の「Ω2W」キーを押して2端子測定法での抵抗測定状態にしての「Null」操作の手順はテストリードの先端をショートしてからパネル上の「Null」キーを押して行う。「Null」操作によってデジタルマルチメータの入力端子から測定端までの配線抵抗値がデジタルマルチメータに記憶されたときは表示パネル上にNullが表示される。

図42. 2端子式抵抗測定を行う時の「Null」操作
「Null」操作を行った後にテストリードを測定対象の抵抗器に接続して測定を行う。最初にパネルにある「Ω2W」キーを押して抵抗測定の設定を行う。

図43. 34461Aでの2端子式で抵抗を測定するための初期画面
初期状態ではオートレンジとなっているので抵抗器を接続すれば測定は可能であるが、測定スピードを速くする場合やレンジ間誤差をなくすには「Range」キーを押して固定レンジを選ぶ必要がある。

図44. 34461Aでの2端子式の抵抗レンジを設定する画面
積分時間やオートゼロ設定は通常の測定では初期状態で問題はないが、必要に応じて設定を変更する。
4端子式測定を行う場合の注意事項
電流測定用シャント抵抗器など低抵抗を測定する場合は4端子式で行う。4端子式で測定する場合は測定対象となる抵抗器の端子まで4本の配線をする必要がある。チップ部品のような小さな抵抗器を自動選別機などで測定する際も可能限り4本の配線のまま抵抗器の端子まで配線を引き延ばすと誤差の少ない測定が可能となる。

図45. 自動選別機などで4線式抵抗測定を行う際の注意点
高抵抗を測定する際の注意事項
デジタルマルチメータで高抵抗を測定する場合は微小な電流を流して測定する。このため外部からのリーク電流が流れ込まないように「シールド設置、湿度の影響による絶縁抵抗の減少、振動による摩擦電気効果の影響」などを受けない工夫などが必要となる。
高精度に高抵抗を測定する場合はデジタルマルチメータではなく、下記のような専用の高抵抗計を利用することが望ましい。この測定器はエレクトロメータ(ピコアンメータとも呼ばれる)として微小な直流電流の測定もできる。

図46. 高抵抗を測定できるエレクトロメータ/高抵抗計 B2987B(キーサイト・テクノロジー)
【ミニ解説】直流による抵抗測定と交流による抵抗測定
抵抗を測定する方法としてデジタルマルチメータのように直流定電流源を使う方法とは別に交流を使って測定する方法がある。LCRメータには抵抗を測定できる機能はあるが、これは交流で抵抗を測定する方法である。
交流で抵抗測定すると測定対象に印加される電圧値を小さくすることができるので、コネクタやスイッチなどの接点の表面に生じる薄い酸化膜を破壊することなく測定できる。また交流であるため熱起電力の影響は受けない特長がある。しかし高確度の測定には向かない。
直流抵抗計 | 交流抵抗計 | |
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原理図 |
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長所 |
安定した高精度の測定が可能 測定できる抵抗値の範囲が広い |
開放端子電圧を小さくできる 熱起電力の影響を受けない |
欠点 |
熱起電力の影響を受ける 接点の酸化被膜を破壊して、低めの測定結果となる |
直流式に比べ確度が劣る |
主な用途 |
一般の抵抗器 コイルなど巻線などの導体抵抗 電源用スイッチの接触抵抗 |
信号用のリレーやスイッチの接触抵抗 信号用のコネクタの接触抵抗 電池の内部抵抗測定 |
表8. 直流抵抗計と交流抵抗計の違い
執筆:横河レンタ・リース株式会社 事業統括本部 魚住 智彦