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アナライザあれこれ 第8回「通信アナライザ (無線通信) 」

デジタル通信の安定な利用を支える保守点検で使われるのが通信アナライザです。

● 概要

通信アナライザの2回目です。前回は有線通信でしたが、今回は無線通信です。無線通信では、アンテナから空間中に信号を飛ばして通信します。主に電波が使われます。送信側から受信側までの信号の通り道を伝送路と呼びます。有線通信と無線通信とでは、伝送路の特徴・状態が大きく異なります。

● 無線通信の特徴

無線通信では伝送路は空間なので、さまざまな事象が発生します。このうち通信事業者で管理・制御できることは限られています。信号は伝送中に距離減衰だけでなく、伝送路の途中で気象などの影響やノイズの影響を受けるので、通信状態が大幅に変化します。ノイズとは、自分で送受信したい信号以外は全てノイズです。自分からみれば、他者の正常な通信はノイズになります。

無線は、そのままでは通信相手以外でも傍受できるので、無線通信=無線放送になってしまいます。通信の秘密を確保するために通信を暗号化します。デジタル無線技術は軍事技術由来なので、暗号化はお手のものです。無線通信の課題の第一は、伝送路の影響の軽減です。伝送路の影響を軽減するために非常に複雑な処理を行います。二番目が高速化です。

● デジタル通信の動作(無線通信)

図1にデジタル通信の動作を示します。音声通話の場合は、送信時に音声はA-Dコンバーターでデジタル・データに変換され、受信したデジタル・データはD-Aコンバーターで音声に戻されます。パケット化では、デジタル・データを細かく分割した上、通信制御情報(プロトコル情報)を付加し、通信しやすい形式の符号に変換します。ここまでは、有線通信も無線通信も同じです。変調以降は大きく異なります。無線通信では変調が必須です。無線通信技術の要となるのが変調・復調です。

図1. デジタル通信の動作

パケット化したデータに変調をかけ、信号として伝送路に送り出します。受信した信号は、復調して分割されたパケットを再構成し、元のデータに復元します。

変調は二段階行います。一つは振幅と位相の組み合わせによる変調(アナログ処理)です。もう一つの変調はコード拡散(デジタル処理)で、同じ時間に同じ周波数で行われる通信(通話)の区別を可能にします。これにより通信の多重化と通信の秘密の確保(暗号化)を図っています。変調・復調動作は非常に複雑ですが、限られた周波数幅で高速通信とノイズに強い通信を実現しています。変調・復調はアナログ的な要素が色濃くなっています。

● 変調・復調

ノイズなどの影響を軽減し、信号をより遠くに届けるための処理が変調・復調です。ラジオのFM放送はFM変調方式(周波数変調 Frequency Moduration)で、AM放送はAM変調方式(振幅変調 Amplitude Moduration)で送信されています。携帯電話などのデジタル無線の変調方式は複雑で、AM変調方式と位相変調方式(Phase Moduration)を組み合わせた方式です。例として、「16QAM」方式では、AM変調と位相変調を組み合わせて16通りの状態を作ります。この16通りの状態にデータを割り当てると、2進数4bit(0000~1111)を通信できます。変調の組み合わせ状態の数を増やすと、一度に通信できるbit数が増えるので通信を高速化することができます(16==>64で4倍)。その反面、各状態に偏差(ぶれ)・誤差があるとErrorになります。電波状態の良否に応じて、変調方式を切り替えて通信品質を確保します(図2)。

図2. 信号の品質を直感的に把握できるコンスタレーション図

● デジタル通信の測定

図3.占有帯域幅の測定

図3 占有帯域幅の測定

携帯電話の基地局の点検では、測定にシグナルアナライザを使います。電波法や通信規格に基づいた測定を行います。

電波法に基づく登録点検時の試験項目である占有周波数帯幅(図3)は、送信信号が規程帯域内にあるか否かのテストです。送信信号のスペクトラム測定から送信総電力の99%を含む周波数の幅を求めます。

変調精度は、通信品質を決める重要な要素です。電波法の測定項目ではありませんが、他社との差別化を図りたい通信事業者にとっては、重要な測定です。変調状態はコンスタレーション図と呼ばれるグラフに表示します。これをみると通信状況の良否やノイズマージンの大小が直観的に分かります(図2)。


● シグナルアナライザ

図3.占有帯域幅の測定

図4 アンリツMS2691A

シグナルアナライザモードでは、デジタル無線通信の点検で要求される煩雑な測定項目を簡単に測定できるようなっています。スペクトラムアナライザをベースに作られました。一台の測定器を、スペアナ・モードとシグナルアナライザ・モードに切り替えて使います。通信の測定には、通信の種類に応じてオプションを使い分けます(図4)。



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